01 二度死に、三度死ぬ
迷宮の主である魔王となり迷宮を運営するゲーム『迷宮物語』。このゲームの世界に私は転生したようだ。
ファンタジーな異世界に転生する、ファンタジーが舞台のゲームの世界に転生する、これらいわゆる異世界転生もの。それは一度は思いを馳せる事象であるが1つ問題がある。それはこのゲームが死にゲーであること。
転生してものの数時間後。
腹部に広がる鮮血。激痛に思わず目から雫があふれる。息が苦しい。
腹をから刀身を伝い血が地面へと滴り落ちる。
「人型の魔王か珍しい」
私を剣で刺した冒険者は、そう呟くと剣を引き抜いた。
視界がボヤけ力が入らず私は膝をつく。頭を垂れるように突き出された首に、冒険者の剣が再び振り下ろされた。
これで刺されるのも二度目、死ぬのも二度目だ。今度のは介錯された分、幾分かマシだったな。
気付くと私は洞窟の中にいた。やけに鼻につく酷い匂いに思わず顔をしかめる。口で息をしながら、先程刺され流血していた腹を擦るがなんともない。
システム画面のようなウィンドウが目の前に現れ『死臭の迷宮』という文字が目に入ってくる。
やはりここは迷宮らしい。迷宮物語の世界に転生したのは夢ではなかったようだ。
迷宮物語は、ゲームシステムは特に複雑な訳ではなく、買い切りで課金誘導のストレスもない。デイリーミッションもなく義務感もない。そんな点から数あるスマホゲームから選ばれ、かつて私が通勤時間や寝る前など手隙の片手間に気軽に遊んでいたのが迷宮物語である。
改めて言うがこのゲーム、死にゲーである。魔王となり迷宮を運営するのだが、攻略のため訪れる冒険者に倒されればリセットされる。この時完全にリセットされる訳でなく一部データが引き継がれる事で、次はより倒されにくくなる。死ぬ前提で強くなっていく死にゲーなのだ。
ゲームでは気にならなかったがいざこの世界に転生したとなれば大問題だ。後何回、いや何十回、下手したら何百回、先程のような苦痛を味合わなければならないのだろうか。
他の異世界転生と異なり死んで終わりではない。死に続けるという地獄が今始まったのだ。だが、無限地獄ではない。そう終わりがあるのだ。倒されないほどの最強の迷宮が出来上がればそれが終わりだ。
より少ない死でそこへ到達して見せる。やれるはずだ、初見ではない。知っているゲームなのだ、できるはずだ。
早速、魔王として迷宮を運営するシステム画面を操作する。一度目の時にこの画面の操作方法は粗方習得済みである。前回は状況整理と操作方法把握に手間取ってる間に冒険者が来てしまった。
画面上にある1000DP。このポイントが開始時のポイントで、このポイントを消費する事で迷宮運営に関わるアクションを実施することができる。
まずは味方となる魔物を召喚しよう。ここで重要なのが、迷宮の環境を示す『死臭の迷宮』という表記だ。リセットされるたびにこの環境はランダムで変わるのだが、この環境によって召喚できる3体の魔物が変わるのだ。
今回の『死臭の迷宮』で言えば、グール、スカル、ツイバミの3体だ。グールは腐った死体、要するにゾンビだ。スカルは動く頭蓋骨。ツイバミは死肉を食う鳥だ。
取り敢えずスカルとツイバミを召喚しておく。これ以上迷宮内を死臭で満たしたくないのでグールは一旦無しで。
そしてスライムを召喚する。これは前回の迷宮『湿った迷宮』で召喚していたスライムだ。前回召喚し、お気に入り登録していたので今回召喚できるのだ。
迷宮物語は1体だけ魔物をお気に入り登録でき、お気に入り登録した魔物はリセット後も引き継がれ召喚可能になる。つまり死ぬたびに引き継がれる魔物の数が1体ずつ増えていくのだ。
今回は召喚したツイバミをお気に入り登録しておく。貴重な飛行能力持ちだからね。
さて残りの初期ポイントを何に使うか。正直今回の2回目もあっさり死ぬ事になるだろう。そう考えれば引き継がれないお気に入り登録していない魔物や迷宮自体にリソースを割きたくない。
今回はお気に入り登録しているスライムとツイバミの2体に全てのポイントを注ぎ込み強くすべきだろう。
ダンジョンポイントを消費する事で装備品やアイテムを生成できる。お気に入り登録している魔物に装備させている装備品は引き継がれるが、スライムやツイバミが装備できる装備品は無いため意味がない。私はアイテム欄から魔石を選び、残りポイントを全て使って作れるだけ魔石を作る。
魔物にはレベルがあってレベルが上がれば強くなるわけだが、レベルアップには侵入者を倒した時に得られる経験値が必要となる。一応訓練や戦闘経験によっても経験値が入るようだが微々たるもの。
この魔物のレベルは経験値以外にも魔石を取り込む事でレベルアップが可能なのだ。具体的に言えば魔石1つで1レベルアップ。
作った魔石を魔物たちに与え、レベルを確認するため魔物のステータスを開き思わず笑ってしまう。名前の欄にスライムは『スラ吉』、ツイバミは『バミ川』となっていたからだ。
そういえばこのゲーム、魔物を召喚した時に種族名をもじった変な名前が自動で入力されるんだった。一応いつでも名前は変えられるが、良い名前も思いつかないし一旦このままでいいか。ゲームとしてやっていたときも、結局良い名前が思いついたら後で変更しようと思って、結局この変な名前に愛着出てきて使い続けてたな。
さて、肝心のレベルはスラ吉がレベル20、バミ川がレベル19になっている。スラ吉はレベル20になったので進化可能だ。スライムはレベルを上げてもステータスがそんなに伸びないので、とっとと進化させるに限る。
スラ吉を進化させると『アシッドスライム』になった。レベルは1になったがステータスで言うと、レベル20のスライムのステータスよりは高い。更に強力な酸で攻撃してくれるため、体当たりしかできなかったスライムから比べれば、かなり心強い味方になったと言える。
後は残りのポイントで自分用の装備品を生成する。生成した『皮の鎧』と『錆びた剣』を装備して準備は整った。
ダンジョンポイントがなくなればやれることは無い。後は冒険者が来ることを待つのみだ。
1回目と異なり半日ほど経ち侵入者が現れた。魔王は迷宮内であれば何処でも見聞きすることができる。意識を集中させれば、侵入者達の姿が見え会話が聞こえてくる。
装備を身に付けた男3人、おそらく冒険者だろう。用心深く入り口付近で迷宮の奥を伺っている。
「昨日には無かったから一晩で出来上がったんだな」
「迷宮ってのはつくづく不思議なものだな」
冒険者らの会話から、今回見つかるのが遅かったのは夜だったからなのだと分かる。
「魔物の気配は感じねーが、どうするよ?」
「できたての迷宮は複雑じゃない。但し稀に強力な魔物がいる場合がある…か」
「定石で言えばギルドに報告だろうが、簡単に魔核が手に入るチャンス、見逃す手はないだろう」
どうやら迷宮を攻略する方針に決まったらしい。
「よっしゃ、お前ら気合入れろ」
「「おう!」」
冒険者はそれぞれ獲物を抜くと、慎重な足取りで迷宮の奥へと歩みを始めた。
さて迷宮の拡張はしていないため、数分のうちにここまで来るだろうな。
私は息を目一杯吐ききり覚悟を決める。スラ吉とバミ川を両脇に待機させ、剣を構え冒険者が姿を表すのを待った。
入口の狭い通路から冒険者が姿を表す直前、タイミングを見計らってバミ川に突撃させる。
入口の穴に向かって嘴を尖らせバミ川が飛来する。顔を出した冒険者の素早い反射神経により、一瞬のうちに飛んでいったバミ川の身体が一刀両断される。
進化してないとはいえレベル19まで上げていたバミ川を瞬殺か。これは無理だな。
姿を表した冒険者3人は部屋を見渡す。真っ二つになったバミ川を一瞥、そして私とスラ吉を一瞥し、笑みを浮かべる。
「これは完全に当たりだな」
「へへ、ついてるよ俺達」
「鈍らを装備した魔王に魔物2体とは、入って正解だったようだ」
冒険者達は互いの戦力差に完全に勝利を確信したらしい。私も敗北を確信したよ。だが次のためにもスラ吉には、戦闘経験による経験値を少しでも獲得させたい。
迷宮で召喚した魔物には念話で指示が可能なので、スラ吉に酸を出すよう命令する。
すぐにスラ吉が身体から酸を冒険者に向かって浴びせるように放出した。冒険者の1人が一歩前に出ると盾で酸を防いだ。
盾に掛かった酸は、盾の木材の部分を煙を立てて溶かす。
「アシッドスライムだ!金属以外の装備は溶かされるぞ、気をつけろ!」
「クソ、盾が!」
3人目の冒険者が右側に駆け出した。狙いは私だろう。スラ吉にはそのまま2人の冒険者に突撃するよう指示を出す。スラ吉に少しでも戦闘させるために私の方はなるべく長く耐えるしか無い。
冒険者が剣を振りかぶりこちらに斬り掛かってくる。その気迫に思わず一歩足が下がる。剣を前に突き出すようにして迫る剣に対抗しようとする。
だが、軌道が変わった。冒険者の剣はそのまま上から下に振り下ろされず、気付けば真横から剣が現れた。防御のため斜め上前方に突き出された私の剣を避け、脇腹に剣がねじ込まれる。
革鎧のお陰で斬られはしなかったが、ミシッと骨が砕け、重い衝撃と共に横に吹き飛ばされる。
全然駄目だ。まともに戦えない。
すぐさま立ち上がろうとするが、ドンッと冒険者に背中を踏みつけにされる。剣を突き立てるため振りかぶられた気配がした。
視界の端ではたった今、スラ吉が一刀両断にされたところだった。
背中から革を貫いて心臓に剣が突き刺さる。口に血の味が広がった。
今回も呆気なく終わってしまったようだ。




