第5章:俺とトカゲ
文法や構文に不備がございましたら、平にご容赦いただけますと幸いです。
「なあチョーロー……俺、この24時間で二回も裏切られてるんだけど。お前まで俺をハメたりしないよな? 心の準備をしておきたいから、先に言っといてくれ」
「馬鹿を言え、小僧!」
肩の上でトカゲが不機嫌そうに鼻息を荒らげた。
「我がお前に害をなすつもりなら、目覚めた瞬間に黒焦げにしているわ! それよりさっさとこの忌々しい階段を登らんか!」
俺はチョーローのことが本格的に気に入り始めていた。口はクソほど悪いが、直感的に信頼できる気がしたのだ。第六感というやつかもしれない。
一時間近く休まず登り続け、ふくらはぎが悲鳴を上げ始めた頃、俺たちは石造りの引き戸にたどり着いた。レバーを引くと、まぶしい光の束が押し寄せてきた。
ついに外だ。
そこは絶景を見渡せる見晴らしの良い緑の丘の頂上だった。息を整えるために倒木に腰掛け、俺はこれまでに起きた出来事をかいつまんでチョーローに話した。
「なるほど、なるほど……異世界の人間で、女王の儀式によって召喚されたとな」
チョーローは小さな前足で顎をかきながら呟いた。
「だが妙だな。七百年前に『ノクターン帝国』などという国は存在しなかったぞ……それに『不具合スキル』とは何だ? 長いこと地下にこもりすぎたようだな。言っておくが、かつての我は――」
「チョーロー、待った。その話は後でゆっくり聞くから!」
俺は会話を遮った。
「それで、俺はこれからどうすればいいと思う?」
「我が話している時に遮るなと言っておろうが!」
トカゲが抗議の声を上げた。
「そうだな、まずはその帝国とやらについて情報を集め、召喚されたお前の仲間たちがどう動いているかを探るべきだろう。そして最寄りの街を目指す……あ、当然、我の頼みも忘れてもらっては困るぞ!」
「よし、じゃあこうしよう。まずは俺の生存問題を解決して、それからお前の問題に取りかかる。七百年待てたんだ、あと数日くらい待てるだろ!」
「チッ、生意気な人間め……だが一理ある。決まりだな」
チョーローの記憶によれば、最寄りの街までは徒歩で二日ほどかかるらしい。もっとも、それは七百年前の話だが。信じるしかないな。
道中、俺はさっそく【雑用係】の万能性を試し始めた。
【システム:スキル『薬草学 Lv.1』『気配察知 Lv.1』『釣り Lv.1』『料理 Lv.1』発動】
要するに、街道沿いで薬草を採取し、空腹の狼の群れを事前に回避し、川で美味そうな魚を二匹釣り上げて臨時の焚き火で調理したのだ。俺のスキルはまさに「歩く十徳ナイフ」と化していた。
小さな洞窟の中で安全に一夜を明かした翌日、俺たちは旅を再開し、ついに本街道へと躍り出た。
数キロほど進んだところで、「テンプレどおりの異世界コテコテ展開」としか言いようのない光景に出くわした。
街道の脇に止まった行商人風の馬車、神社や町を襲うような目つきの四人の山賊たちだ。
「おいおい、何がある? ほう、新鮮な野菜とミルクか……」
山賊の頭目が下品に笑った。
「ヒヒヒ、だが一番の収穫はこの嬢ちゃんだろ!」
別の山賊が下衆な笑みを浮かべる。
「頭目、楽しませてもらいましょうぜ!」
「好きにしろ、だが手早くやれ!」
頭目が命じた。
「男は殺せ、女は連れて行くぞ!」
「頼む、妻と娘には手をださないでくれ! たのむ!」
地面に伏せた商人が悲鳴を上げる。
「お母さん、怖いよぉ!」
「よしよし、大丈夫よ……お願いです、私はどうされても構いません、どうかこの子だけは助けてください!」
チョーローがすばしっこく俺の頭の上に登ってきた。
「おい少年! 助けんのか? 我が全員まとめて黒焦げにしてやろうか?」
「落ち着けチョーロー、タイミングを見計らってただけだ。華々しい『主役の登場』ってやつだよ」
山賊の一人が母親の腕を掴んで引きずり回そうとしたまさにその時、俺は指先を突き出した。
【火魔法 Lv.1:火炎球】
放たれた炎の弾丸が、山賊の腕に直撃した。
「アギャーッ! クソッ、熱い熱い! 俺の腕がぁぁぁ!」
「なんだと……!?」
男が必死で袖の火を消そうともがく中、残りの三人が一斉に俺の方を振り返った。俺は腕を組み、ドヤ顔の限界に挑むような表情を作り浮かべながら言い放った。
「その人たちから手を引いて、俺の相手をしてもらおうか!」
「『俺たち』の相手、だろ!」
頭の上から甲高い声が聞こえた。
「……ああ、『俺たち』の相手だ、チョーロー」
(まあ、喋るトカゲを頭に乗せた状態で格好をつけても、男らしさはミリも上がらないが、背に腹は代えられない)
「あのガキ、何なんだ?」
頭目が唸った。
「三流の駆け出し魔法使いだろ。殺せ!」
三人が武器を構えて一斉に飛びかかってきた。あいにく剣は持っていない。遺跡の落下時に鈍刀は失くしてしまったから、昨夜図書館の本で覚えた魔法でぶっつけ本番の即興劇をやるしかなかった。
【水魔法 Lv.1:水噴射】
突進してくる三人の山賊の足元に、一瞬で巨大な水たまりが作り出された。
【氷魔法 Lv.1:凍結】
泥と水が一瞬にしてつるつるの氷の板へと姿を変えた。平衡感覚を失った三人は、重なり合うようにして盛大に転倒した。
【システム:スキル『早業 Lv.1』『剣術 Lv.1』発動】
俺は風のように疾走し、倒れている頭目の腰から素早く剣を抜き取ると、正確な斬撃で三人の脚を切りつけた。完全に戦闘不能だ。
三人は這うようにして立ち上がると、腕を火傷した仲間と共に命からがら逃げ出していった。後に残されたのは恐怖の悲鳴と、嫌な焦げ臭さだけだった。
「助かりました、冒険者様! 命の恩人です!」
商人が苦しそうに体を起こしながら叫んだ。
「本当に感謝の言葉もありません! どうかお礼をさせてください!」
「一番近くの街まで馬車に乗せてくれれば十分ですよ」
俺はニッコリと微笑みを浮かべた。
「迷子になっちゃいましてね……何しろ、数百年前の『生きている地図』を連れているもので!」
頭の上から不機嫌な鼻息が聞こえた。
「チッ! 生意気な人間め、人間どもが百年ごとに街道を作り変えるのが悪いのだろうが!」
商人は目を丸くした。
「え……冒険者様……そのトカゲ、喋るのですか?」
「ええ、でも安心してください。せいぜいマシンガントークでお頭を爆発させるくらいしかできませんから」
「は、はあ……なるほど……。さあ、馬車へどうぞ! 一番近い街はフェルロスです」
フェルロス……。
どこかで聞いた名前だな? ああ、そうだ! ギャレンの奴の出身地じゃないか。あのドブネズミめ。
好都合だ。街で見つけ出して、利息をつけてツケを払わせてやる。
……と、最初はそう思っていたのだ。
その街の路地裏で、俺の人生を永遠に変えてしまうような出来事が待ち受けているとは、この時の俺は知る由もなかった。
(フフッ、何が起きたか気になるだろ?)
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