第24章:危機に瀕した村(前編)
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ノイラの村は、丘のちょうど麓に身を寄せ合うように建つ、二十軒ほどの石と木でできた質素な家々の集まりだった。周囲の畑で取れる作物だけで人々が慎ましく暮らす、小さな農村だ。
「まあ、なんてことでしょう! デーラ、愛しい我が子よ……一体何があったの!?」
一人の女性が両手を広げてこちらへ駆け寄り、目から涙を溢れさせながら少女を強く抱きしめた。
「お母さん……ぐすっ……森でバケモノに襲われたんだけど、この人たちが助けてくれたの!」
女性は感謝に満ちた眼差しで俺たちを振り返った。
「冒険者様、本当に、本当にありがとうございます。私はジーナと申します……うちの子を救ってくださって、感謝の言葉もございません!」
「当然のことをしたまでですよ」
セラは彼女に優しく微笑みかけた。
その間にも、俺たちの到着に好奇心を刺激された村人たちが次々と家から出てきて、安全な距離を保ちながらこちらを覗き込み、ひそひそと噂話を始めていた。
「またあの魔物どもか……」
「森の資源がなけりゃ、俺たちはみんな干上がっちまうぞ……」
「子供にまで襲いかかるなんて……もうおしまいだ……」
セラは周囲を見回し、農民たちの顔に浮かぶ緊張感を察取った。
「ジーナさん、不穏な空気を感じますけれど……何かあったのですか?」
「ここで一体何が起きている!?」
背が高くがっしりとした大柄な男が、重々しい足取りで群衆をかき分けて進み出てきた。
男は俺たちの数メートル手前で立ち止まると、明確な敵意を剥き出しにして腕を組んだ。
「お前たちは誰だ? うちの村に何の用だ?」
「あなた、お願いですからやめて! この親切な冒険者様たちは、たった今私たちの娘を救ってくださったのよ!」
ジーナが慌てて両手をかざして間に入った。
男はデーラの姿を一瞥すると、俺とセラを睨みつけ、ギシリと歯を鳴らした。
「……そうか。まあ、礼は言う。だがな、ここにお前たちに渡せるものも、払える報酬も何一つないぞ」
「お金を期待して助けたわけではありません」
セラは穏やかだが毅然としたトーンで答えた。
「ですが、一目見ればこの土地が深刻な問題を抱えていることくらい分かりますわ」
「余計なお世話だ、女!」
男は一歩脅迫的に踏み出し、声を荒げてセラの言葉を遮った。
俺は即座に馬車から飛び降りると、男とセラの間に割って入った。
「おい! ガタイが大きいからって調子に乗るなよ。セラには敬意を払え」
俺は目を細めて男を牽制した。
「……さもないと、俺とチョーローでお前にお仕置きすることになるぞ!」
「その通りじゃ! わしの怒りを買うなよ、人間!」
チョーローも鼻から火花を散らして男に唸り声を上げた。
男は面食らったように一歩後退し、ジーナがすかさず彼の上着の袖を掴んだ。
「お願いよ、あなた! もしかしたら……もしかしたらこの人たちが、本当に私たちを助けてくれるかもしれないのよ!?」
「ジーナ、部外者を俺たちの問題に巻き込むなと何度も言ったはずだ!」
ホガーは拳を握りしめて怒鳴り散らした。
「俺は……」
「いいえ! もうたくさんよ!」
ジーナは夫に向かって真っ向から叫び返した。
「この人たちが居なかったら、今頃うちの子は死んでいたのよ! 分かっているの!? みんなも聞いて! これ以上、どれだけの命を失えば気が済むのよ!?」
農民たちの間に動揺のざわめきが広がった。
「皆のもの、静かにしなされ」
衰えつつも威厳のある声が、ざわめきを押し静めた。
人ごみの中から、長い白髭を蓄え、一歩進むごとに節くれだった木の杖をつく小柄な老人が現れた。
「ホガー、ジーナ……娘を連れて家にお戻り。他の者たちも、各自の仕事に戻るんじゃ」
老人は指示を出すと俺たちの方へ振り向き、軽く頭を下げた。
「心苦しいお出迎えとなってしまい、申し訳ない。私はウルス、この村の長を務める者じゃ。私の小屋へお越しくだされ、事情を説明いたしましょう」
村長の住処は小さかったが、温かく居心地が良い場所だった。
ウルスは俺たちを粗削りの木製テーブルの周りに座らせると、地元の薬草で淹れた湯気の立つお茶を出してくれた。驚くほど芳醇な香りが広がるお茶だった。
「実のところ……」
ウルスは疲れ切ったため息をつき、お茶をすすりながら話し始めた。
「わしらの村は昔から完全に自給自足を行ってきたのじゃ。それどころか、わざわざ商人が買い付けに来るほどでな。近くの森は常に薬草や果樹、野生の野菜をもたらしてくれ、それを採集しては畑に植えておったのじゃよ」
老人は言葉を切り、暗い眼差しでお茶の底を見つめた。
「しかし、約二年前から森が突如として血に飢えた魔物どもの巣窟に変貌してしまってな。生存に必要な資源を確保しようと、何人もの村人が命を落とした。最近の収穫は完全に全滅し、新たな種子が喉から手が出るほど必要なのじゃ。今日まで、魔物が子供らを襲うことは一度もなかった……それゆえ、やむを得ず子供らを森へ向かわせておったのだが。だが、幼いデーラまでもが命の危険に晒されたとなると……」
「すみません、ウルスさん」
俺は首を傾げて彼の言葉を遮った。
「なぜ二年前、森が急にそんな危険な場所に変わってしまったのか……理由を考えたことはないんですか?」
老人は顔を伏せ、震える指先で髭をなで始めた。
「実を言えば……理由は重々承知しておるのじゃ」
かすれた声でウルスは呟いた。
「そして……それはすべて、わしらのせいなのじゃよ。頼む、どうか早計にわしらを責めないでおくれ……あの犠牲は不可避だった。より小さな悪だったのだよ」
俺は首をかしげた。背筋を冷たい悪寒が駆け抜けていく。
より小さな悪……俺は心の中で反芻した。
大きい悪も小さい悪もない。悪はどこまでいっても悪でしかないんだ……それがどれほど小さかろうと。
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