第23章:国境へ向かって
文法や構文に不備がございましたら、平にご容赦いただけますと幸いです。
どうやら俺たちには、かなりの長旅が待ち受けているようだった。幸いにも「大使」という正式な立場のおかげで、貸切の馬車が用意されていた。
ようやく快適な旅ができる、と高括っていたのだが――。
残念ながら、現実はそう甘くなかった。馬車屋は国境が近づくにつれて魔物や山賊が横行して危険すぎるからと、道半ばの何もない場所で俺たちを容赦なく降ろし、これ以上進むのを断固として拒否したのだ。
くそっ、あの御者め……。
「ねえセラ、ここが正確にどこらへんか分かるか?」
俺は周囲を見回しながら尋ねた。
「王国最大の国境都市、オーデンから数日の距離にあるはずよ」
セラは地図を確認しながら答えた。
「でも、そこを訪れるのは強く避けることをお勧めするわ。それに比べたら、フェルロスの街なんて子供の遊び場みたいなものよ」
「どういう意味だ?」
「賭博と暴力が支配する街なの。裏社会がほぼすべてを仕切っていて、巨大な歓楽街まであるわ。私自身は行ったことがないけれど、あのろくでなしの元夫がそう語っていたわ……」
「歓楽街か……」
俺は思わず口の中で呟いた。
「ハルキ!?」
セラが瞬時に目を細めて問い詰めてきた。
「えっ!? ち、違うって! もちろん風邪の菌みたいに全力で避けるよ!」
俺は手をぶんぶんと振って否定した。
「おいお前たち、静かにせんか……」
チョーローがうろこ覆われた耳をそばだてながら割って入った。
「何か近づいてくるぞ」
「チョーロー?」
「あっちじゃ……あの藪の中!」
ほんの数秒後、森の植え込みから服の破れた10歳ほどの少女が、おぼつかない足取りで飛び出してきた。
「助けて! お願い、助けてぇ!」
泣きじゃくる少女のすぐ後ろから、半透明の巨大なゼリー状の物体――超巨大スライムが姿を現した。
「セラ!」
「任せて!」
セラは前方に躍り出ると、少女と魔物の間に割り込み、巨大な盾でスライムの突進を受け止めた。俺はすぐさま遠距離からの攻撃に転じた。
「【雷魔法Lv1:稲妻】!」
手元から放たれた雷光が直撃したものの、電荷はゼリー状の表面を流れるだけで、何一つダメージを与えられなかった。
「えぇ!? なにっ……まったく効いてない!?」
「小僧、スライムは魔法を吸収するんじゃ!」
チョーローがこちらを向いて叫んだ。
「しかもこいつは、とびきりデカいぞ!」
トカゲの言葉を証明するかのように、スライムは蓄積した俺の雷魔法をそのまま吐き戻して反撃してきた。俺は間一髪でそれをかわした。
「ハルキ、私は盾で防ぎ続けるわ!」
セラは体勢を維持しながら叫んだ。
「スライムには体内にコアがあるはずよ、そこを狙って!」
「待て小僧、見えたぞ!」
チョーローが肩から身を乗り出して叫んだ。
「左下じゃ!」
「よしチョーロー! ヴァルディスの巻物から学んだ新しいスキルを試すぞ!」
「【兵器召喚Lv1:槍】! 【鋼体Lv1:筋力強化】! 【鷹眼Lv1:鷹の目】!」
精巧に鍛えられた鉄の槍が手に現れる。筋肉強化の効果を受け、猛禽類のように澄み渡った視界の中で狙いを定めると、俺は全身の力を込めて槍を投擲した。
ストライク。
槍はスライムを力強く貫通し、内部にあった結晶状のコアを粉砕した。魔力の源を失った魔物は即座に溶け崩れ、ただの無害な水たまりへと姿を変えた。
「お見事よ、ハルキ! 最高だったわ!」
セラが笑顔で駆け寄ってきた。
「まあ……たった一匹のスライムを倒すために3つのスキルを組み合わせなきゃいけなかったけどね。ありがとう」
俺は息を整えながら答えた。
「あのスライム、どう考えても大きすぎじゃったな」
地上に着地したチョーローが観察するように言った。
「わしの時代、スライムなどせいぜい椅子くらいの高さしかなかったぞ」
「確かにチョーローの言う通り、異常な大きさだったな……」
俺はため息をつくと、少女の前でかがみ込んだ。
「ねえ君、大丈夫かい?」
「ぐすっ……ぐすっ……ありがとうございます……」
少女は袖で涙を拭いながら呟いた。
「村の近くの森へ薬草を摘みに来ていて……いつもは安全な場所だったのに……ぐすっ……すっごく怖かったぁぁ!」
「よしよし……もう大丈夫よ、ボク。おいで」
セラはとても優しい声をかけ、屈んで少女を抱きしめた。
「私たちがついてるわ。お家まで送ってあげる。村はどこにあるの?」
「すぐ……すぐ近くだよ。あの丘のすぐ裏側なの」
こんな状態の子供を一人で放置するわけにはいかない。送り届ける必要があった。出発したばかりだというのに、早くも旅の途中で最初の寄り道が発生してしまった。
「ねえ君、お名前は?」
歩き出しながら、俺は尋ねた。
「……あたし、デーラっていうの」
「はじめまして、デーラ。私はセラ、こっちはハルキ、そしてこのトカゲちゃんはチョーローよ」
「ドラゴンじゃ、どうぞよろしく!」
当の本人は鼻から煙を吹き出して抗議した。
「わあ! トカゲがおしゃべりしてる!」
デーラの目が感嘆で輝いた。
「なでなでしてもいい?」
「おい子供、やめろ……」
チョーローはぶつぶつ言っていたが、少女が頭を撫で回すと、気持ち良さそうに目を細めた。
「……まあ、悪くないぞ。続けてよろしい」
俺とセラはその光景を見て思わず吹き出してしまった。
だが、村に向かって丘の斜面を登っている最中、俺は妙な違和感を覚えた。
背後に広がる森の影から、何か……あるいは誰かが、俺たちをじっと観察しているような視線を感じたのだ。
それがただの気のせいであることを、俺は心から願った。
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