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影法師の悠々自適な異世界ライフ  作者: マッドちゃんぽん
エルフの国グラナダ編
313/314

執着の鎖

大分ストックが溜まってきたので投稿。


好きな匂いに包まれている。

ひどく安心する匂いだ。


そんな風に思いながら目を覚ますシャティ。

彼のことを()()()()()()()()()

彼女は、そんなあり得るはずのない不思議な夢を見ていたように感じる。


眼を開けた彼女の視界に一番に入ってきたのは、彼の安心させてくれる笑顔ではなかった。

想定外の、泣き腫らしたリシアの顔だった。


ぼうっと霧がかかっていた頭は、冷や水を浴びせられたように一瞬で覚醒した。

リシアはシャティが目覚めたことに気がつくと、彼女を自身の胸元に抱き寄せ、再びぐすんぐすんと鼻を鳴らした。



(……かたい)

筋肉質なリシアの胸は、女性的な柔らかさはあったが、腕や腹部は岩のように硬く引き締まっていた。

……料理をするシャティは硬い部位も扱うのだが……筋肉とはここまでの硬さになるのだろうか。

泣いているから緊張していて硬くなっているのだろうか。



泣いているせいか加減ができなくなっているのか、抱きしめられている箇所がみしみしと音を鳴らしている。




なんとか彼女の抱擁から脱出して周りを確認するが、屋敷ではない。

魔力の感じから、まだエルフの国からは出ていないのだと確信する。

あの監禁されていた部屋からここまでの記憶はないが……なぜ記憶がないのだろう。


「身体に異常はありませんか?どこか痛いとか」

アイナはよく冷えた水を差しだしてくれる。

丁度喉が渇いていたこともあり、そのまま受け取り喉を潤す。


「大丈夫…ちょっと体がだるいくらいかな」


ぼうっと何を考えているか分からない表情をこちらに向けてくるレフィ。

瞳の奥には心配の色が見えるため、表情に出ていないだけで心配はしてくれていたようだ。


「……マスターと……あとミズキはどこ?」

三人から答えを聞くより早く、周囲の魔力を探知する。

範囲をどんどん広げていく。

家の中、町の中、国の中……見知った魔力は探知されない。

嫌な予感がして、飛び込むように部屋にある鏡を見る。

きちんと体には彼との奴隷契約で結ばれた紋章が刻まれている。


だが刻まれているだけだ。

彼の魔力が漂ってくるのを感じるが、あくまで残滓。

今はそこから追加の彼の魔力が流れてきていないことがわかる。



「……ダメだどうもあの世界に入れない…面倒な独占欲だ」

レフィが様々な魔術を展開しているが、すべて弾かれているように見える。

感覚ではあるが、ドアはあるのに内側から何重にも鍵をつけられているような、そんなイメージだった。


──────────────────


専用武器。

この世界ではない別世界から召喚された彼・彼女たちに与えられた、その名前の通りの専用武器。

個人によって違っていて持ち主の考え方や性格、願いを叶えやすい形に適したものが配布される。


例えば、(リン)の実弟の(レイ)

(レイ)の専用武器は、鍵。

無くなることがなく、いつでも手元に召喚できる鍵だ。

何もない空間であっても鍵を呼び出せば扉が続いて召喚され……いつでもどこでも彼の飲食店を開くことができるというもの。

武器と言えるかは怪しいものの、この武器になったのは、【将来、料理人となり自分の店を持ちたい】という願いを強く受けた影響だ。

……なお、この専用武器に料理の腕を上げるような能力はない。

料理の技術や知識については、自前のものとなる。


他にも武器と呼べるか怪しい者たちはいるが、そのどれもが破格の性能を持っている。

他人がその力のすべてを引き出せないが、専用武器は所持をしているだけで未来を明るくできるものである。


だが……専用武器にはある不安要素が存在する。

願いの影響を()()()()()()()()()()ということだ。

どんな状況にあっても、個人によっては、その願いを何としてでも叶えようと暴走してしまう場合がある。

それは、その願いへの執着が濃いほど可能性が高くなってしまう。



少女の()()()願いはごく単純なもの。

()()()()()()()()()()()()()()()()


彼女は、徐々に外堀を埋めるタイプだった。

本来ならその願いは手にするその時まで表に出ることはないはずだった。

だがしかし、自分の死の間際。走馬灯が流れている中で彼女は、ほんの少しだけ……心の奥底に隠していた黒い感情を表に出してしまった。


その願いを聞いて、彼女の専用武器である鎖は喜んだ。

自分の所有者である少女は、自分の願いをほとんど隠していたからだ。

表に少しは出ていたが、専用武器たる自分に対して願うことが全くなかった。

自分で力で叶えてこそ……少女は常にそう思っていたため、鎖は欲求不満だったのだ。

だからこそ自分の主人たる少女、彼女が最期に発した心からの願いは全力で叶えたくなったのだ。


──────────────────────────────


シャティは、自分の腕に見えない何かがまとわりついていたのに気が付いた。

そこにない、触れられないし見えはしないが……感じる。

そこにある魔力は彼のものではなく……ライバルである彼女のものだった。


魔力を流してやると顕現したのはひどく不安に感じる細い鎖。

ミサンガのようなそれは、彼女が生前に用意していた保険。

自分の武器の危うさを直感で感じていた彼女が用意した、自分の専用武器が暴走したときに止めることができる人物を連れてくるためのもの。


これを身に着けたものには何の恩恵もない。

魔力が限界以上に沸きあがってこない。

身体能力が何倍にも跳ね上がったりしない。

傷が瞬時に治って無限に戦うことができたりはしない。

できることはただの一つだけ。


自分が最期に何を願うかは、彼女自身が一番よくわかっていた。

彼をどうしたいか。

だから保険にはただ一つの能力だけを残した。

()()()()()()()()()()

『……誰に渡るかはその瞬間にならないとわからないが、どうせあいつだろう。あいつならば、場所へ飛ばすだけで解決してくれるはずだ』




「……みんな少し待ってて。不器用な人たちを連れ戻してくるから」


自分の腕に巻きついた鎖は語りかけてくる。

どうすれば自分を彼らの元へ辿り着くことができるかを。




再びシャティが目を瞑り再び開くとそこには愛すべき彼女たちはいなかった。

そこは、地面や家などの建物、空まで……世界の何もかもが鎖に変換されている奇妙な世界。

役目を終えた鎖は、千切れて地面に落ちる。

すぐにほかの鎖と区別がつかなくなってしまうが、これ以上の役目は存在しないだろう。


シャティはすぐに鎖のことを忘れて、目的地を目指し始める。

ふとポケットに膨らみを感じる。

特に何かを入れた覚えはないなと手を入れてみると、そこから出てきたのは()()()()のようなもの。

ご丁寧に使い方が書かれたメモまで入っていた。

筆跡から……どうやらレフィがあの一瞬で譲渡してくれたようだ。



いくつか手を入れており、すでに元の原形は残っていないが、それは彼がレフィとおそろいで購入をした魔道具。

シャティを捜索しに来た時にも利用した、人を探す魔道具。

……事前に探し人を登録しておく必要があるが、自分の探そうとしている人は、懸賞もかねてすでに何度も登録作業をしている。

魔力を込めると針がグルグルとまわり、ある方角を指した。



「ウチも彼女も…最期まで責任を取らないとね」

そう言って彼女は針の案内のまま鎖でできた世界を歩いていく。




家々には壁に穴が空くのを気にしないで鎖が並縫いの様に横断している。

木々はその葉にあたる部分の全てが鎖に置換されていて、地面から飛び出した根のように鎖を外へ剥き出しにしている。

風が吹くたびに、葉の代わりの鎖が擦れ合い、ジャラジャラと耳障りな金属音を響かせる。


川からは水が完全に引き、代わりに夥しい量の鎖の束が詰まっていた。

鎖の川は水音の代わりに、重々しい金属の軋みを立てて流れている。


「ホントに…凄い独占欲ね。わからなくもないけど…ね」


シャティが辿り着いたのはドーム状に鎖が編まれた建物。

足の踏み場もないほど鎖が溢れている地面を、足を取られないよう慎重に進むこと数分……その物体は佇んでいた。


蜂球と言うべきか蚕の繭というべきか…例えようのないその物体はいく千もの鎖を球状に、複雑に絡み合ったものだった。

現在もどこからか集まってきている鎖たちを飲み込んで、徐々にその大きさを拡大している。


彼女はその鎖たちの流れのまま歩いていき、鎖の集合体に手を触れさせる。


「……わかってはいたわ……でも残念だよ…ありがとうね親友」

頬を涙が伝った。

触れた瞬間、悟ってしまったのだ。この鎖たちの()所有者が、どういう結末を迎えたかを。

脳裏によぎったのは、自分ではない「自分の姿を借りた何者か」が彼女を手にかける、最期の瞬間の光景。



……鎖には魂を感じなかった…彼女は鎖の所有者が生きている頃、何度かそれに触れる機会があった。


かつて触れた時の温かさが、今は微塵もない。

そこにあるのは、役目を終えてただ主人の願いを守り続けるだけの、冷え切った鉄の塊だった。



改めて鎖の塊を見上げる。

それはまるで、迷子になった小さな子供が、宝物を絶対に奪われまいと必死に抱きしめ、丸くなっている姿のようにも見えた。

「……だけど、ごめんね。その人はウチたちにとっても大切な……愛してやまない人なんだ」


願いを叶えるために暴走した鎖が、彼の魔力を一滴たりとも外へ逃がすまいと閉じ込めているのだろう。


「どうせあなたが最期に思うのなんて彼のことだけだよね。でも……それを咎めたりしない。きっとウチたちも同じように彼のことを想うから」


レフィの魔道具は間違いなくこの中心を指し示している。

シャティ自身の直感もまた、この最奥に()がいると告げていた。


触れていた手をグイと押し込むと、意外なほど全く抵抗なく、鎖の壁はスルリと肘まで彼女の腕を呑み込んだ。

抵抗がなかった理由はわからない。

落ちた鎖のミサンガの効果がまだ残っていたのか、それとも彼だけでなく()()()()()()ことが彼女の願いだったのか。

シャティは迷うことなく、そのまま、重く冷たい鎖の海を掻き分けて前へと進む。


「待っててね……マスター。今行くからね」

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