表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影法師の悠々自適な異世界ライフ  作者: マッドちゃんぽん
エルフの国グラナダ編
314/314

所有物

あと2話程でこの章終わりです

鎖をある程度進んでいくと、広い空間へと辿り着いた。

天井ははるか彼方にあり、奥は光すら届かないほど遠く離れている。

明らかに外から見た大きさと比例していないその空間…おそらく結界関連だろう。

暗いその場所を、コンパスが放つ微量な灯りを頼りに慎重に進んでいく。


徐々に自分を見ている鎖の数が増えてきた。

見ていると言っても目がついている訳では無い……分かりやすく例えるならひまわり畑を想像して欲しい。

見ている鎖たちの数が増えるごとに、圧迫感のようなものも強くなっていく。

まるで威嚇をされているように、鎖のジャラジャラとした音が鳴り響く。


足の間を通り過ぎる鎖の数も心做しか多くなってきたような気がする。




「マスター…みんな無事だよ。美味しいものをたくさん…作るから…」


空間の中心に浮遊するように鎮座している鎖の塊を手で触れる。

鎖は熱したように変色し胎動する心臓のように小刻みに震えている。


「痛ッ!」


たまたま触れたところに鎖の切っ先があったのだろう。

手には深く切り傷が刻まれている。

痛みで手がジンジンと、心臓が脈打つように熱く響く。


「この程度でウチが怯むと思ってるの!」

再び、鎖に手を入れる。

奥に眠る彼を助けるために。




鎖に触れると魔力が奪われると同時に、魔力を奪った鎖は役目を終えたように玉から離れる。

どうやら、ある程度の魔力を与えられると無効化されるようだ。




「普通なら奥までたどり着けないと……でも残念!ウチの魔力量はお墨付き!この程度苦にならないの!」


鎖に自身の魔力を流していくと一つ一つ溶けていく。

一つ一つにかかる魔力はシャティにとって多くないものの数が多い。

中心までどれほどの鎖を倒せばいいかはわからない。



奥に進むに連れ、体に刻まれる傷跡が増えていく。

鎖の切っ先によって、手や頬、足などに無数の切り傷が付いていく。

それは奥へ進むほどに増え、徐々に深くなっていく。



魔力も徐々に減ってきて、血液も失っている。

徐々に意識が朦朧としていくが……頭の中に、映像が流れてくる。





……それはこの世界ではないどこかの景色。


図書館のような部屋で、本を読んでいた。安心感を覚える本の匂い。

部屋は静寂に包まれていて、本を捲る音だけが響く。

ふと、隣を見ると、真剣な顔をして本を読んでいる()

自分が見ていることに気がついたのだろう、少し恥ずかしそうにしながら微笑んでくれた。




少し背伸びをして、二人でレストランで食事を楽しんだ。

カッコつけるためにブラックコーヒーを注文したものの……まだ早かった。

彼も合わせて注文をしてくれたのだが同じような表情だったのだろう。二人しておかしさで笑いあった。




夕暮れの帰り道、もう少ししゃべりたいとわざと遠回りをした。

彼も察していたのか、歩行速度が二人して段々と遅くなっていく。

彼が手を握ろうと伸ばしてきたが……残念なことに、なにかの曲が辺りに響き、解散となった。




進学後、彼に進学先について目を輝かせながら聞かれた。

どんな場所なのか、どんな人がいるのか……学校生活は楽しいのかと。

元々彼と進学先が同じになることは何となく察していたが……こうして彼の口から改めて聞かされると笑みが止まらなかった。




彼の卒業式に、近所のファミレスで行った二人だけの卒業パーティー。

少し大胆に……年上のお姉さんを見せつけるために、隣に座った。

ドギマギする彼を記憶に刻みつつ、二人で食べたケーキの甘さは忘れることは無いだろう。

背伸びして行ったレストランの時とは違い、コーヒーの美味しさも理解できていたはずだ。



映像に流れる彼の顔は……うらやましいことに自分たちが見たことのないものだった。

子供っぽいと言えば悪口に聞こえるかもしれないが、年相応の、背伸びをしていない純粋な笑顔だった。




鎖を開放していくにつれ、どんどんと映像が流れ続けてくる。

ただの映像ではなく、その時の彼女が感じた感情や匂いまでも。

まるでそこに自分がいたような、自分が体験したかのような映像が流れてくる。



彼に告白されて、世界が色づいたあの日。

気が動転し、思わず本心にないことを言ってしまったあの日。

それ以降で彼は変わらなかったが、自分は変わってしまった。

何度もあの日の過ちを正そうとしたが……それをしてしまうと今の……妥協の上の関係でさえなくなってしまうのではないか。



「……あなたは後悔し続けていたのね。しょうもない意地で自分の幸せを逃したと…」


その言葉に帰ってくるのは鎖の擦れる音のみ。


気が付くと、足元には鈍色の液体が溜まっていた。

役目を終えたと思わしき鎖たちが溶けて、液体になったようだ。

金属が溶けた液体だろうが、不思議と熱さはなかった。



……だが、その効果は鎖と同等のもの。

つまり触れているだけで、彼女と同調するもの。

その液体に触れてきて流れてくるものは、思い出ではなかった。

彼女が感じた負の感情。後悔や疑念など……彼女を縛るものではなかったが、彼女の内にたまり続けてきたものだった。



それらに光はない。

光に充てられた影から湧き出てきた感情のようだった。



シャティは魔力を使えば、空中を移動し、液体の影響範囲外に逃れることは容易だ。

目を背けることは簡単だ。

彼女の想いまで……赤の他人の感情など知ったことか。



「これも含めての貴方だものね。ウチは逃げないよ……負けたくないからね」




だがしかし、彼女は決して逃げることはなかった。

ここで逃げてしまえば彼女から目を背けることになってしまうからだ。

……決して気が合うことはなく、むしろ水と油の関係ではあった。

だがそれでも……彼女はシャティにとっては()()と言っていい関係ではあった。

ここまで彼女の赤裸々な部分まで共有されたなら、それは親友といってもいいはずだ。



シャティは自分にそう言い聞かせながら、鎖の開放を続けていく。

……自分を監視するように切っ先を向けていた鎖たちはいつの間にか消えていた。




「あなたの分まで…ウチにとっては隠し味にすら満たない量の愛だろうけど背負ってあげるよ。

だから…今は安心しなさい」


自分の腰の辺りまで液体は満ちてきた。

時間がたつほど液体から自分の中に流れてくる負の感情は少なくなってくる。



そうこうしているとようやく…顔が見えてきた。

いつものように…寝室で見る安心しきった可愛らしい寝顔。

年相応の安らかな寝顔は、荒んだシャティの心をかき乱すのに十分すぎる程の威力だった。



「ず…ずるい……本当にずるいよ、()()


普段からシャティが彼の寝室に忍び込んだ時は、穴が空くほど覗いていたはずの彼の寝顔。

だがそれが……彼女の記憶を読んだ今の彼女からすれば、猛毒も猛毒だった。



焦るように、自分の暗い感情を誤魔化すように鎖を溶かしていく。



身体を繋ぎとめていた鎖を溶かしきり、重力のまま倒れ込んできた彼を抱きとめる。

身長差のせいで彼に覆い被さられるような体勢に。

同時に残った鎖と足元の液体から、暗い感情が流れてくる。



(今この世界はウチと彼の二人きり。外にいる彼女たちもこの世界へ入ってくることは……ウチが意識して操作すれば難しいだろう)


期せずして沸いてきた彼を独占できるまたとない機会。

しばらくぶりにまともに入る、大好きな彼の匂いに脳が蕩けそうになる。




「……でもそれはウチじゃない。ウチは彼も……外の家族のことも大好きなの。」


密着した体に彼の鼓動を感じる。

彼の少し低めの体温が今は心地よい。



「だから……貴方の最期の願いは叶えられないの。今は彼はウチたちのものだよ」



足元に巻きついていた、錆びてボロボロの鎖を手で払う。

軽く巻きついていただけのそれは、他の鎖と同様に彼女の体から離れると同時に液体へと変わる。




瞬きの間に、空間に変化があった。

膝の上まで溜まっていた液体は、消えてなくなった。靴下を諦めていたのだが、彼女の靴下には濡れた箇所ひとつすらなかった。

多少残っていた鎖も同様に……ドーム状になっていたはずの鎖の全てが消えていた。

彼女は気が付けば、路地裏にいた。




ふと周囲を見ると、かなり薄くなっているが血痕のようなものが地面に染み付いていることに気がつく。

顔を上にあげると空高くまで伸びている塔。



彼の胸ポケットに何か入っていることに気がついた。

申し訳ないと思いつつ、それを引き抜くと、可愛らしい封筒に入った手紙が一枚。



近くにベンチがあったので、彼を寝かせ頭を自身の膝に置き、手紙を開く。

手紙には宛先も誰からかも記載が存在していなかった。

書かれていたのはたったの一行だけ。



『感謝はしてる、今は()()()()()に貸してあげる』

「……実に、らしいね」


思わず出てしまった小さな笑み。

視界が歪んで見えるのは、きっと疲労によるものだろう。



「とはいえ、どうしようかな」



眠っている彼の髪をさわさわと弄りながら考える。

彼のことだ、きっとここを出るための事前準備なり仕込みなりは済ませているのだろう。

それをどこか探すことは、彼の魔力を辿れば難しくないが……彼を抱えたまま移動するのは体格的に難しい。

移動用の魔法などを考えても良いのだが、残っている魔力的にかなり不安だ。



「……ふふ」


彼の唇を指で弄る。

彼から魔力を貰えれば、対応自体はできるが……ここまで気持ちよく眠っている彼に、外でイタズラをする気にはなれない。



「……せめて意識があればな〜」


シャティは、彼やレフィが行った魔術については見ていない。

そのため事象を再現することは不可能だ。

ただ、感じる二人の魔力の残滓から、()()()()()ことは出来るという確信はある。

……元々彼の影を使った移動は、日常的に見ている。

レフィはそれを応用して、この世界から脱出したのだろうと、シャティは見切りをつけた。



「……世界を超えるかぁ」


頬や耳を弄りながら、シャティは考える。

恐らく、この眠っている彼とレフィと()()で協力すれば、専用の魔法や魔術を作ることはできるという確信はある。

ここではない世界…きっと未来や過去にだって飛ぶことができるはず。


……もちろん、彼の元いた世界にもきっと移動できるだろう。



彼のいた世界で過ごすのも悪くはないだろう。

向こうの法律などがどの様になっているかは知らないが……彼となら楽しい日々を過ごすことができるだろう。

彼の両親に挨拶もしたい。

彼の思い出の場所を辿るのも悪くはない。

それこそ親友(ミヅキ)……いや、親友(センパイ)との思い出の場所を巡ることも出来るだろう。



「でも……今はまだいいよね?」


だけど、それを完成させるのは今ではないだろう。

せっかく貸しとやらにしてもらったのだ。

もうしばらくは……この世界で彼と生きるのは許されるはずだ。



再び彼の髪を弄る。

……自分と同じ黒の髪。

彼の世界からすれば珍しくない髪色なのだろうが……金髪が普通なエルフの自分からすれば、お揃いというだけで嬉しい。

きっと自分たちの子供も、この人とお揃いの黒髪なのだろう。どちらに似るだろうか……楽しみだな。





少し離れたところの空間に亀裂が入った。

その亀裂からは金属でできた鋭い何かが飛び出している。

バキバキと音を立てて、亀裂から穴へと変わっていく。



「と、言うことで待たせたね……あ?なんでリンは寝てるんだ?」


レフィは、可愛らしいぬいぐるみを抱いていた。

……どこで、いつの間に購入をしていたのだろう。

彼女が顔を覗かせる穴から感じ取った魔力から、向こうが元の世界だと分かる。



「その……色々とあって」


「あれ?……なるほど、大体察したよ。とりあえず、()()()()()かな。二人とも家に帰ろうか」



レフィが何を続けたかったのかは、言わなかったが……間違いなくここにいない彼女のことだろう。

レフィは、自分の膝を枕に彼が寝ていること、自分の魔力が減っていること、傍に薄くだが血痕が残っていることから……状況を把握したのだろう。




シャティは普段から思っていた。

彼のいない所で、彼女が魔族であることは聞いている。

また、自分は魔族……人と本格的に関わることは彼が初めてだと言う。

だから人の気持ちが()()深くは理解できないと。



分かっていても口に出さないだけで、十分に人のことを理解している気がするのだが……彼女が求めるものはそれではないのだろう。


……もしかしたら、口に出すほどの興味が無いのかもしれないが。




「帰りはリンが起きてからにしようか。

幸いなことに、反乱も…落ち着いてきたみたいだしね」



彼を支えてもらうのをレフィに任せ、穴を通って世界から脱出を行う。

元の空間へ戻ると同時に、泣き腫らしたリシアに抱きしめられた。

ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、苦しかったが……気持ちが伝わってきたのでシャティは我慢することにした。




「……振り返るとマスター、だいぶ表に感情出てたな……あれで関係が進まないのはあいつが悪いんじゃない?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ