第5話 賑やかすぎる旅路と恋心
目撃された妖の足跡を追い、一行は東の街道を進んでいた。
仲間が増えて道中はとても賑やかになり、その中心に放り出された錬には、のんびり息をつく暇など少しもなかった。
「錬! 荷物の紐が緩んでますわよ、結び直してさしあげますわ!」
「錬さん、汗をかかれていませんか? よろしければ私の手ぬぐいをお使いくださいね」
「おい錬、喉が渇いた! 水をくれ!」
「あ、ずるい灯ちゃん! 錬ちゃん、圭にもお水ちょうだい!」
「錬、オイラに干し芋をくれ!」
後ろを振り向けば、賑やかという言葉では片付けられない四人の少女たちと一匹の姿がある。
旅装束の錬の背中には、自分以外の荷物もまとめられた大きな鞄がしっかりと鎮座していた。
「重い荷物は男が持つものですのよ。それが自然の理というものですわ」
腕を組んで主張したのは楓。
「……でも、あまりに重くて倒れそうなら私に言ってくださいまし。少しは木の力で軽くしてさしあげますから」
と、そっぽを向きながら付け加える。
「はは、大丈夫だよ。これくらい何てことないから」
錬は苦笑しながら荷物を背負い直した。
昔、呉服屋を手伝っていた頃に重い荷物をいくつも運んでいた経験に比べれば、これくらいの重さなど大したことはない。
それに、いつも少女たちが気遣ってくれているのが伝わってくるため、嫌な気はまったくしなかった。
正午過ぎ、一行は賑やかな門前町の甘味処へと立ち寄った。
店の前には、
「本日入荷、名物いちご大福〜残り五つ」
の札が掲げられている。
それを見た瞬間、女子たちとコマの目が輝いた。
「すみません、いちご大福をお願いします!」
灯が真っ先に注文を入れる。
「ちょっと灯! 私もいちご大福にしますわ!」
「灯ちゃん、圭もそれが食べたい!」
「オイラもだ!」
「ふふ、ではいちご大福五つですね」
運ばれてきたのは、もちもちの白い餅から甘酸っぱい苺がのぞく、いかにも美味しそうな大福が五つ。
「「「おいしー!」」」
四人と一匹はそれぞれの感想を言いながら口に運んでいく。
錬はというと、売れ残っていた素朴なおせんべいを静かにかじっていた。
「錬は余ったおせんべいだね! 男は硬いせんべいが似合うよ!」
灯が楽しげに笑う。
「遠慮なくいただくよ。香ばしくて美味しいしね」
(俺もいちご大福が食べたかったけどな……)
錬が穏やかに微笑みながら答え、お茶をすすった。
その様子を横目で見ながら、灯と渚はそっと顔を近づけ、ひそひそと声を潜める。
「ねえ渚。錬って本当に優しいよね。どんな時でも嫌な顔ひとつしないし」
「ええ。威張ったりしないところが、とても素敵です」
「偉そうにするだけのあんちゃんより、よっぽどいいよね」
いつの間にか、圭もひそひそ話に加わっていた。
「当然ですわ。これくらいの器の大きさがあってこそ、私が認めた男ですわ!……」
楓も、顔を真っ赤にしながら小声で言い張るのだった。
◇ ◇ ◇
その日の夜、一行は街道沿いの旅籠に部屋を取った。
案内された部屋に入ると、そこには布団が人数分――ではなく、なぜか二人分しか用意されていなかった。
「申し訳ありません、本日は旅人が多くて寝具が足りず……」
平謝りする宿の主人。
「錬さん、私座布団の上で十分ですが……」
心配する渚に対し、コマが錬の肩の上で堂々と胸を張る。
「女の子を床で寝させるわけにはいかない!女の子とオイラが布団を使う! 男は床で寝ろ!」
「はいはい……」
錬は苦笑しながら座布団をかき集めて床に寝床を作った。
「錬、寒かったらこれ使いなさいよ!」
灯が掛け布団の端を差し出した。
「錬さん、風邪を引いては大変です」
渚も毛布を重ねてくれる。
結局、全員が自分の寝具を少しずつ分けてくれたため、錬の寝床は誰よりも温かくなっていたのだった。
「みんな、ありがとう。風邪なんて引かないから安心してくれよ」
錬はくしゃっと笑ったと思いきや、すぐに寝息を立てた。
「疲れてたんだ……」
その無防備な寝顔を見て、女子たちは胸をときめかせるのだった。
この後、誰が錬の隣の布団で寝るか……女子たちの争いは夜中まで続いた……
――翌朝、出発しようとする一同の前に、幕府の伝令使が駆け込んできた。
差し出されたのは、丁寧な手紙と、箱に入った上品なお茶菓子の詰め合わせであった。
「月形様からの手紙にございます」
錬が手紙を開くと、そこには丁寧な文字で落ち着いた言葉が綴られていた。
『各地での怪異を鎮めておられるとのこと、聞き及んでいる。
術を持たぬ錬君、そして共に歩む乙女たちよ。
君たちの絆と勇気が、世の平穏の大きな光となっている。
陰ながら諸君の無事と旅の成功を心より祈っている』
「お菓子の差し入れだ!」
圭が喜んだ。
「人格者だな。幕府の重臣様が私たちのことを見ていてくださるなんて心強い!」
灯も目を輝かせた。
「このような方が後ろにいてくださるのなら安心ですわ」
楓も頷く。
「景時様は、私たちの旅をこうして見守ってくださっている……。気を引き締めていかないとですね」
渚の言葉に、錬も真剣な面持ちでうなずいた。
だが、手紙をたたみ直した時、錬はふと気付いた。
――この手紙の文字、ついさっき書かれたばかりのように、まだかすかに湿っている気がする。
(都から届いたはずなのに、どうして……?)
無自覚ながらも大きな使命を背負う彼らにとって、その温かい言葉は何よりの励みとなったのだったが、ほんのわずかな疑問が錬の胸の内に残り続けた。
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