第14話 封印された過去
月形景時の側近たちの黒魔法の鎖が容赦なく錬や少女たちに襲いかかる。
◇ ◇ ◇
――その頃、都から遠く離れた各地でも、未曾有の異変が起きていた。
黒龍の柱が解放された際の魔力の歪みにより、突如としてあちこちに邪悪な妖が姿を現し、穏やかな町や村を襲撃していたのだ。
遠くの港町では、かつて旅の途中で出会った清之介が険しい顔つきで町民を指揮し、押し寄せる妖と激しく戦っていた。
「怯むな!弓矢を持て!狙うはあの紋章!あれが妖の急所だ!!」
「おおーーー!!」
町民たちの力強い叫び声が、潮騒を切り裂いて響き渡る。
――一方、深い緑に覆われた山あいでは、錬たちに進むべき道を示してくれた占い師が、手にした杖を力強く地面につき、不気味な呪文を唱えて妖の動きを縛り上げていた。
「こんな老いぼれの隠れ処まで……。
だがね、魔法が全て奪われたからとて、人間がただやられるわけがないわい!
わしの霊力を舐めるんじゃないよ!」
誰もがそれぞれの場所で、必死に戦い続けていた。
◇ ◇ ◇
――そして、すべての元凶が集う都では、景時の側近たちが放つ猛撃が続いていた。
「くそっ……! 魔法が、うまく使えない……っ!」
灯が炎を灯そうと両手を掲げるが、手のひらから立ち上るのは頼りない煙ばかりだ。
渚も楓も圭も、すべての力を根こそぎ奪われた体で必死に踏み留まろうとするが、押し寄せる凄まじい魔力に耐え切れず、ついにその場に膝をついた。
「動くな、無力な人形ども。君たちの役割はすでに終わったのだ」
景時が冷ややかに手を降ろすと、あらゆる光を呑み込む漆黒の重力が一同を地面へと激しく押し付けた。
「ぐっ……う……!」
「……錬さんに、指一本触れさせない……っ!」
渚は息を詰まらせ、両膝をつきなりながらも、錬を庇うため、その身を挺して両手を大きく広げた。
灯や圭、楓もまた、傷ついた体を歯をくいしばって起こし、その痛む体で錬の前にしっかりと立ち塞がった。
「なんで……どうして、そこまでしてくれるんだ……!」
錬の胸が、熱い想いとともに締め付けられるように震えた。
自分は魔法が使えない、ただ守ってもらうだけの情けない存在だ。
しかし、彼女たちは、自身の限界を超えて自分を守ろうとしている。
「当たり前でしょ……!」
灯が額の汗を拭いながら、力強く笑った。
「錬と出会って……本当の温かさを知ることができたんだ!」
「そうです……錬さんと旅をした日々が……私たちの何よりの宝物なのですから!」
渚が潤んだ瞳で微笑む。
「錬ちゃんは……こんな獣みたいな格好の圭にも……ずっと優しくしてくれたんだから!」
圭が真っ直ぐな目で言い放つ。
「錬、後ろに下がりなさい。……あなたは最後にすべてをひっくり返す男なんでしょ……?」
楓が気高く言い切った。
「そうだ! オイラたちを舐めるなよ!」
コマが景時に向かって勇敢に立ちはだかる。
――その瞬間だった。
五人の強い絆と、錬の心の底から湧き上がる「仲間を守りたい!」という強い想いが、彼の内部に掛けられていた深い呪縛を内側から打ち破った。
錬の脳裏の奥底で、固く閉ざされていた遠い記憶の扉が、激しい音を立てて砕け散る。
「っ……頭が割れそうに……!
忘れていた記憶が一気に流れ込んでくる……!」
あふれ出す幼い頃の記憶の断片。
――そうだ。自分はこの都で生まれた。
だが、物心ついた頃から、周囲の人間とは決定的に違っていた。
誰かの魔法に触れると、その力を何倍にも膨らませることができる。
その特異な力で多くの人々を救い、その才能を見込まれて、幼いながらに幕府の重要な役目を任されていたのだ。
しかし、その圧倒的な力を密かに恐れた景時によって、自分はすべての力を無理やり奪われ、記憶を消された上で、遠い辺境の地へと冷たく捨てられたのだ。
凍えるような孤独の中で過ごした日々……。
自分には誰もいない、愛されるはずがないという諦め。
冷たい雨の中でひとり震えていたあの日の記憶が、今の仲間たちの温もりと激しく交錯していく。
そのすべての元凶が、目の前にいる男だったという残酷な真実が、頭の中で鮮烈に結びついていく。
「思い出した……俺の力を封印したのも、記憶をなくしたのも……すべてお前の仕業だったのか……!」
「とうとう、思い出したか……。
私は幕府で君のとてつもない魔力の光景を目の当たりにした。
君が成長する前に、私はその力をこの手で封印したのだよ。
……だが、それももういい。黒龍の柱が完成した今、今更昔のことを思い出そうとも、この絶対の力には敵わない……」
余裕の笑みを浮かべる景時に、錬は歯を食いしばりながら睨みつけた。
「俺だけでなく、彼女たちをこんな目に合わせて……!絶対に許さない!!」
――しかし景時は、必死に叫ぶ錬の言葉など気にも留めず、錬から奪った黒石を右手で高く掲げた。
すると、天を突く黒龍の柱から、凄まじいエネルギーが一気に降り注いだ。
次の瞬間、眩い闇の光に包まれたその肉体が変異し、景時は漆黒の巨大な黒龍へとその姿を変えた。
その額には不気味に脈打つ漆黒の紋章が刻まれていた。
――「最強の力を手に入れた。
これで世界を我が手で支配してみせる」
黒龍となった景時から、周囲の空気を歪ませるほどの圧倒的な重圧が放たれ、衝撃波となって一同を襲う。
「ああっ……!」
凄まじい攻撃に押し潰され、少女達はその場に崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「錬……逃げて……」
「やめろーーーーー!!」
――その瞬間、錬の全身から眩い黄金色の光が凄まじい勢いで逆巻く。
それは周囲の黒魔法や衝撃波を瞬く間に打ち破り、禍々しい黒龍の威圧感を少しずつ押し返していくほどの神々しい奇跡の輝きだった。
「俺の中にあったのは……ずっと封じられていた本当の力はこれだ……!」
あふれ出る魔力と、仲間たちの温かい想いに耐えきれず、錬の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
――すべての理を結ぶ「金」の力が、今ここに目を覚ます。
「――バカな……!? あの少年が、私の放つ魔力を押し返しているというのか……!」
強大な黒龍へと姿を変えた景時は、完璧だったはずの計画が狂い始めたことに気づき、その内面に初めて焦りの色を滲ませた。
その景時の驚愕をよそに、錬から放たれた眩い黄金色の光は、その場に倒れ込んでいた少女たちの魔力と心を奮い立たせていく……。
――そして、限界を超えた体に再び僅かな熱い力が灯った。
水、火、土、木――そして、金。
欠けていた最後の奇跡が完璧にかみ合った瞬間、五つの気が完全な調和を描き、世界そのものを震わせるほどの神聖な光が辺り一面に広がる。
「私たちの魔力が……応えてる……!」
渚は目を見張り、灯は力強く拳を握りしめる。
圭は静かに構え、楓は鋭く息を整えた。
――封じられていた金の鼓動「星結の力」が、今、完全に覚醒する。
「みんな……ありがとう。すべて、思い出した。今度は、俺がみんなを守る番だ!」
黄金の光をまとい、錬はゆっくりと顔を上げた。その瞳に宿るのは、かつての無力な少年ではなく、大切な仲間とかけがえのない平穏な日々を取り戻すための、揺るぎない強い決意だった。
第十四話をお読みいただきありがとうございます。
引き続き、どうぞよろしくお願い致します。




