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第12話 霧の向こうの未来と、東へ向かう決意

占い師から不穏な未来を告げられ、少女たちの表情が凍りついたその瞬間、茶屋の横から土と岩の妖が現れた。

その胸元には、不気味に脈打つ漆黒の紋章が妖しく光を放っている。


「……ほう。こんなところに妖とはね。お前さんたち、どうするつもりだい……?」


占い師は微動だにせず、落ち着き払って杖をつく。


だが、今の少女たちの心にあったのは、恐怖などではなく、愛しい者を脅かす存在への怒りだった。


「――ちょっと……!錬を破滅させるってどういうことよ!なんなのよアンタ!」


灯が放った猛烈な業火が、妖の視界を眩ませた。


「錬ちゃんをいじめたら……! 許さないからっ!!」


圭が一歩、大地を強く踏み締めた瞬間――轟音とともに地割れが走り、バランスを崩した妖の足元を、渚が放った凍てつく冷水が瞬く間に冷やして固める。

さらに、楓の鋭い木霊の鞭がその巨体を絡め取り、逃げ道を完全に断ち切った。


凄まじい魔力の奔走と光に気づき、少し離れていた錬とコマが慌てて駆けつけてきたが、すでに妖は四人によって一歩も動けない状態に追い込まれていた。


「これで終わりよっ!」


四人は呼吸を合わせ、再びそれぞれの全力の魔法を放つ。


その瞬間、錬が懐に忍ばせていた黒い石が、まるで意志を持つかのように激しく輝き始めた。


錬が驚いてその石を取り出した瞬間、光は爆発的に膨れ上がり、錬の両方の手のひらへと奔り、黄金色の輝きへと変貌した。


四人の少女たちから放たれたそれぞれの属性を纏った魔力が、錬の手のひらから溢れる光へと一斉に吸い込まれていく。


それは奇跡のような光の奔走となり、妖の胸元にある漆黒の紋章へ、轟音と共に容赦なく叩き込まれる。


次の瞬間、空気を震わせる大爆発が起こり、妖は反撃する間もなく、禍々しい漆黒の紋章は粉々に粉砕された。


核を失った妖は、静かに元のただの土と岩へと還っていった。


「……四人の魔法だけで、あの妖の動きを完璧に封じ込めたというのか……」


粉々になった漆黒の紋章の破片を見つめながら、占い師は圧倒されたように目を見張り、ポツリと呟いた。


(さきほど『少年が破滅するかもしれぬ』と告げたのは試しのつもりだったが……

まさか、少年を想う気持ちが、これほどまでに彼女たちを強くさせるとはねえ……)


辺りはすっかり静まり返り、占い師は小さく息をつくと、意識を研ぎ澄まして再び一行に向き直った。

そして、錬の目を見据え、より深刻で重々しい表情で話を続けた。


「さて。本題に戻るよ。……正直な話、お前さんの力や運命は、何者かの強大な力によって完全に閉ざされておって、全く見えんのじゃ。まるで、分厚い霧の向こう側に閉じ込められているようでの」


占い師の重々しい口調に、錬はゴクリと唾を呑み込んだ。


「俺の運命が見えないって……どういうこと?」


「お前さんの周囲だけ、まるで未来の理(ことわり)がねじ曲げられているかのように、先が全く読めんのだよ。

そして何より問題なのは、『五つの力』のうち最も重要な鍵を握るはずの『金の力』が、どうしてもこの世から気配が感じられないことじゃ」


占い師は険しい顔で眉をひそめ、年季の入った黒塗りの木箱から筮竹(ぜいちく)を取り出すと、ジャラリと音を立てて卓上に広げた。


「まだこの世界に生まれていないのか、あるいは、すでにこの世にはいないのか……。

どちらにせよ、本来なら五つの力が完璧に揃わなければ、世界の均衡を正すことはできない。

背後にうごめく黒幕や、強力な災いを打ち破るのは、正直言って途方もなく難しいと言わざるを得ないだろうね。……下手すりゃ、世界はそのまま闇に飲まれるよ」


その過酷な現実を突きつけられ、少女たちは息を呑んだ。自分たちの運命を受け入れ、世界の平和と錬を守り抜くと意を新たにした矢先の予想外の壁に、全員が眉をひそめて険しい表情を浮かべる。


「そんな……。せっかくみんなで力を合わせようって決めたのに……肝心の金の力が見つからないなんて……」


灯が残念そうに肩を落とし、渚がそっとその背中を支える。

圭や楓も、自分たちの手をぎゅっと強く握りしめ、胸に湧き上がる悔しさに唇を噛み締めた。


錬は冷や汗の滲む額を袖で拭い、息が詰まるような思いに駆られていた。

……自分と出会ったばかりに、かけがえのない仲間をこんな過酷な運命に巻き込んでしまっているのではないか――その申し訳なさが胸を締め付け、思わずうな垂れた。


その錬の様子に気づいた少女たちは、顔を上げると、不安を拭い去るように力強く微笑んだ。


「なに落ち込んでるのよ、錬!」


灯が元気よく声を張り上げる。


「まだ、決まったわけじゃないですよ」


「圭たちがその金の力を見つけ出してやればいいだけじゃない!」


「そうですわ! 私たちがついていますから。くよくよしていても始まりませんわ!」


渚や圭、楓も力強く頷き、錬に向かって心強い笑みを向ける。その頼もしい姿に、占い師はふっと温かい笑みを浮かべて立ち上がった。


「お嬢さん方の言う通り。予言が視えぬということは、裏を返せば――お前さんたちの未来は、まだ何者にも縛られてはいないということじゃ。定められた運命など、自分たちの手でいくらでも切り開いてみせればいい」


占い師は遠くの空、東の方角を優しい眼差しで見据えて告げた。


「――東の都を目指しなさい。

絢爛たる都の奥底には、強大な妖気と、古くからの魔法の残滓が渦巻いている。お前さん達の運命を解き明かす鍵も、その黒い石の出どころも、すべてそこにあるはずじゃ」


そして、フッと柔らかく微笑んで付け加えた。


「それに、さっきの妖退治の腕前を見る限り……もしかしたら、金の力がなくたって、この四人のお嬢さんが一緒なら何とかなるかもしれぬねえ。お前さんたちの揺るぎない絆と、少年を慕うまっすぐな気持ちは、世界を救うには十分すぎる武器さね」


「なっ、慕うって……何を言って……!」


錬はカッと顔を赤く染め上げた。


「おばあちゃん、そんなにはっきり言わないでよ!」


「恥ずかしいですわ……!」


占い師のその茶化すような、しかし温かい励ましの言葉に、場の空気がふたたびパッと明るい光を取り戻す。


そうだ、自分たちには仲間がいる。立ち止まっている暇はないのだと、それぞれの胸に再び強い闘志の火が灯った。


顔を真っ赤にしながらも、錬は深く息を吸い込んで心を落ち着かせ、占い師に向かってまっすぐに頭を下げた。


「……お婆さん、ありがとよ。俺たち、東の都に行ってみる! どんな困難が待っていようと、絶対に負けない!」


渚、灯、圭、楓、そしてコマも続き、全員が力強く頷いた。


占い師に深く礼を告げると、一行は東の都を目指して再び街道へと歩み出すのだった。


「東の都……なんだか、胸の奥が騒がしいな……」


錬は言い知らぬ予感を振り払うように、唇をぎゅっと噛み締めながら歩幅を早めた。


遠ざかる背中を見つめつつ、縁側に残った占い師は、温かいお茶を一口すすりながら呟いた。


「……まったく、なかなかに強烈で、面白い一団だねえ。

未来の奥方ははっきりと見えておったわい。

……じゃが、あの子たちの恋の行方なんて、言えるわけがないじゃろうて。

今、彼女たちの仲間に亀裂が走ったら世界を救えなくなるかもしれぬからの。

あの少年のなかに眠る『本当の力』……世界の運命を自らの足で歩ませるため、今はまだ知らぬ方がよかろうて……いつか見せてもらうとしようかね」


占い師は優しく柔らかな笑みを浮かべ、誰もいなくなった青空を静かに見上げるのだった。

第十二話をお読みいただきありがとうございます。

引き続き、どうぞよろしくお願い致します。

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