第11話 山あいの茶屋と明かされた宿命
一行は次なる目的地である村を目指し、山道を急いでいた。
港町で手に入れた「黒い石」の正体を突き止めるため、物知りと噂される占い師に話を聞くためである。
やがて鬱蒼とした木々に囲まれた山あいに、ぽつんと古い茶屋が見えてきた――。
木陰から立ち上るお茶の香りに惹かれるように、一行は思わず足を止める。
「おや、旅のお方。こんなところで急ぎ足とは、何か大事なご用件かな? よかったら、お茶でも飲んで一息ついていきなさい」
茶屋の縁側から声をかけてきたのは、腰の曲がった優しげな白髪のお婆さんだった。 嬉しい誘いだったが、錬は首を横に振った。
「気遣ってくれてありがとよ。でも、あまり時間がなくて……この先の村の占い師のところへ急ぐところなんだ」
すると、お婆さんはふっと意味深な笑みを浮かべて茶碗を置いた。
「ほう、占い師かい?……その黒い石のことかい?」
「えっ……?」
錬たちが目を見張ると、お婆さんは茶目っ気のある笑みを浮かべてこう告げた。
「何を隠そう、このわしこそが、お前さんたちが探しているその占い師じゃよ」
まさかの展開に、灯や渚たちも目を丸くする。
占い師は茶屋の奥へと手招きし、一行を椅子に座らせた。
そして、杖をついたままふっと指先を軽く動かすと、茶釜からお湯が細く立ち上がり、卓上の急須へと吸い込まれていった。
絶妙な加減で淹れられたお茶が湯呑に注がれ、心地よい湯気を立てる。
さらに、占い師が指先をもう一度ふわりとかざすと、五つの湯呑がふわりと浮き上がり、五人の手元へと優しく収まったのだった。
「わあ、すごい……! いただきまーす!」
「んっ……ふう、おいしーい!」
魔法で極上の味に仕立てられたお茶は、旅の疲れを優しく癒やしてくれる格別の一杯だった。
占い師は立ち上がり、一行のほうへと歩み寄った。
「お前さんも喉が渇いたろうよ」
そして、自らひしゃくですすいだ水を、コマの目の前へとそっと差し出した。
「うまい!気が利くねー」
一行は一息ついたところで自分たちの名を名乗り、これまでの道中で遭遇した妖と、港町で手に入れた「黒い石」について尋ねた。
占い師は腰を下ろすと、錬たちの姿……特に渚、灯、圭、楓の四人を、すべてを見通すかのような鋭く深い眼差しで見据えた。
「お前さんたちの姿をもっと近くで見せておくれ。十年前から魔力が衰え、隠居生活をしておったんじゃが……お前さん達のお陰で、これまでずっとかすんでおった未来の相が、急に見えてきたわい 」
占い師は真面目な面持ちへと表情を引き締めた。
「……あの港町を襲ったのは、黒い紋章に操られた凶悪な妖じゃ。――そして、お前さんの懐にあるその『黒い石』にも、あの紋章と同じ禍々しい力が宿っておる。背後で糸を引く黒幕が、自らの手で作り出したものに違いなかろう 」
「やっぱり……この石の紋章は、ただの模様なんかじゃないんだ」
錬が懐にある黒い石をそっと取り出すと、占い師は重々しくうなずき、さらに言葉を続けた。
「そうじゃ。そして、その背後にうごめく真の黒幕を打ち倒し、この世界を救うためには――『五つの力』が必要なのじゃ。――水、火、土、木……そして、金じゃよ 」
占い師は四人の少女を順番に指し示しながら、静かに、ゆっくりと語り始めた。
「渚……お前は『水』の力。澱んだ濁流を洗い流し、仲間を癒やす慈愛の源じゃ。
灯……お前は『火』の力。闇を焼き払い、未来を切り開く不屈の熱情じゃよ。
圭……お前は『土』の力。揺るぎなくすべてを支え、仲間を守る強固な盾じゃ。
そして、楓……お前は『木』の力。命を育み、どんな困難の中でも芽吹く再生の導き手じゃな」
その言葉を聞いた瞬間、少女たちは息を呑んだ。
自分たちの生まれ持った力……これまで知る由もなかった重い宿命の真実が、占い師の静かな声によって胸の奥深くに真っ直ぐ染み込んでいく。
ただの旅の仲間だと思っていた自分たちが、世界を救うために選ばれた存在であるという逃れられない運命。胸が熱くなり、思わず込み上げる切なさと誇らしさに、四人はそれぞれ自分の手をぎゅっと握りしめた。
そして――。
「あと一人、もしかして……『金』って、錬のこと……?」
灯がハッとしたように呟いた。
占い師は最後に、一人だけポツンと取り残された錬をじーっと見つめた。
――占い師はじっと見据えたのち、重い口を開いた……
「いやいやいや……、このお兄さんは違うよ。この人に特別な力なんて一切ない。まったくない、ただの人じゃよ」
「なっ……!?」
あまりにもあっさり、しかも満面の笑顔で断言された錬は「そんなにはっきり言わなくても……」と思わず顔を真っ赤にして恥ずかしそうに視線を泳がせた。
――しかし、次の瞬間。
「ねえ、錬。ちょっとコマとお散歩でもしてきなさい!」
「えっ、どうして? 大事なところだろ?」
「いいから、コマ! 錬を連れていってちょうだい」
灯に急かされ、コマは何かを察したように頷いた。
「おう、分かった! 錬、行くぞ!」
「何だよー!」
錬はコマに促されるまま、しぶしぶ茶屋の外へと連れ出されていった。
錬たちの姿が見えなくなると、残された四人の少女たちは一斉に身を乗り出した。
「ちょ、ちょっとおばあちゃん! 世界の危機とかより大事なこと聞いていい!?」
灯が目を輝かせて詰め寄る。
「そうよ! 圭たちの中で、錬ちゃんと結ばれるのは誰なの……!?」
圭も身を乗り出し、渚や楓も顔を真っ赤にして小声で呟いた。
「そこ、一番気になります。……ですが、少し、怖いです……」
「は、恥ずかしいから大声で聞くことではありませんわよ!」
二人はそう言いつつも、聞き逃すまいと前のめりになって占い師に迫った。
「いま世界が滅びかねぬ重大な話をしていたというのに、なぜ、そのような恋路の詮索に夢中になれるのじゃ……」
呆れ果てたように占い師はため息をついたが、少女たちの勢いは止まらない。
「だっておばあちゃん、当たるんでしょ!? 私と錬、将来どうなるの!?」
「私とですわ! 私が一番お似合いですわよね!?」
世界の平和より自分の恋愛が大事と言わんばかりの質問攻めに、占い師は目を丸くし、タジタジになって両手を振った。
「い、いや、待ちなさいお嬢さん方……! わしが見るのは世界の行く末であって、若い二人の恋路の占いなどではないわい!」
占い師がきっぱりと告げると、灯たちは「むーっ」と不満そうにほっぺたを膨らませた。
「……まったく、賑やかな連中だねえ。 だが、魔力を持たぬ少年が、このまま旅を続ければ――いつか、闇に呑まれて破滅を迎えるかもしれぬな」
「「「何ですって……!」」」
占い師の不穏な言葉に、少女たちの表情が凍りついたその瞬間――。
茶屋の脇にある地面が地響きとともにボコボコと音を立てて盛り上がり、泥と岩が固まった禍々しい巨大な妖が這い出してきた。
その胸元には、不気味に脈打つ漆黒の紋章が妖しく光を放っていた――。
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