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御館様を護衛

本能寺の中では、情報が混乱し入り乱れていた。

「御館様は無事か!」

「分からん!まだ中の様子が見えぬ!」


「どのようなお姿でおられる!」

「おい!御館様を見たのか!」

奥から逃げてきた女が捕らえられ、女は怯えながら、


「う、上様は……白いお着物を、お、お召しです」

「白い御着物だと……?」

「軍装ではないのか!」

「寝込みを襲われたのか!」

「急げ!御館様をお守りしろ!」


「符号を使え!」

「火を消せ!」

「曲者を探せ!」

「鉄砲の音がしたぞ!!」

「撃つな!味方にもあたるぞ!」


現場の混乱の最中(さなか)

奥から、軽装の若い男が飛び出してきた。


「織田家、森力丸である!貴様、賊か!」

「明智家、本城惣右衛門なり!」

「符丁!安土の雨は」

「三日!」


「明智の者か!」

「御館様は!」

「奥だ!」

「案内せよ!」


二人が走り出し、その直後、炎の向こうから甲冑姿の男が現れた。


「止まれ!符丁!」

「安土の雨は?」

「……」

「賊!」

本城惣右衛門はためらわず斬り捨て、力丸ともに声を張り上げた。

「まだ奥におるぞ!急げ!」

力丸と本城は、さらに炎の奥へ駆け込んでいくが、煙と炎で視界は悪く、どこに敵が潜んでいるのか分からない。


「……誰かいる」


力丸が声を潜め、蚊帳の陰へ身を隠す。

しばらくすると、炎の向こうから男が現れた。

男は二人に気づかないまま、そのまま蚊帳の前を通り過ぎた時、

「織田家、家臣森力丸である!貴様、賊か!」

「明智の者です!」

「明智家、本城惣右衛門である!符丁!安土の雨は!」

「……」

「切る!」

力丸が踏み込み男の背後へ刃が走った。

男はその場に崩れ落ちたが、二人は気にせず、

再び奥へ向かった。

「御館様を!」

「ここまで賊が来ている!急げ!」

二人は、御館様の姿を求め、さらに奥へと駆けていった。


***


火の回りはあまりにも異様な速さだった。

消火を続けていた家臣の一人が、ついに声を上げる。


「殿!退却をお願いいたします!」

「馬鹿者!御館様がおられるのだぞ!御館様が先だ!」

「殿!殿の安全も、我らの役目にございます!」

「何を……!」


俺は振り返り、本能寺を見続け抵抗しながらも、

「とにかく、御館様を!行け!御館様を救出しろ」


だが、本能寺の火は嘲笑うかのように燃え広がり続け、その場に留まる事を許す状態ではなかった。

家臣たちは俺を囲み、半ば引きずるように本能寺から引き離す。


「離せ!儂(わし)はまだ――駄目だ!」


「なりませぬ!」

「殿!」

「御館様をお救いするためにも、まず殿がご無事でなければ!」


そうして俺は、家臣たちに促され半分引きずられるまま、自軍に戻された。

胸が痛いのは、煙を吸ったからなのか、御館様を置き去りにした――


「いったい何が起きたのだ!火は誰が放った!」

「不明でございます!」

「曲者は!」

「見つかっておりません!」

「御館様は!」

「申し訳ございません!不明でございます」


俺は、燃え続ける本能寺を見据え、

何が起きているのかも分からぬまま、報告はどれも断片的だった。

胸の奥に嫌なざわめきを覚える。

だが、御館様は生きている!絶対に!!


本能寺を離れた俺のもとへ、次に飛び込んで来たのは、

「殿!二条御所より使者が出ました!」

「誰だ」

「福富秀勝にございます。織田家の大旗を掲げ、本能寺へ向かっているとのこと!」

「福富?!」

「はい!そして、三位中将信忠様は、二条御所におられるとのことです」

「二条へ行くぞ!」

「殿!危険です!」

「……ッ!」


俺は反射的に鞘で家臣の肩を打ちつけ、乾いた音が虚しく響く。


「馬鹿なことを!信忠様の何が危険なのだ!!お主は残れ!馬を出せ、先触れを出せ、行くぞ」


やがて、二条御所へ着くが、門は堅く閉まり、味方を通す雰囲気ではない。


(なにが?なにが起きておる?)


「止まれ!何者だ!」

「織田家、家臣明智光秀である。信忠様に用がある。門を開けよ」

「申し訳ございませぬ。御所より、何人たりとも通すなとの仰せにございます」

「何人たりとも、だと?従五位下・惟任日向守明智光秀が正式に三位中将信忠様に用がある。

調べもせずにこの余を止めるとは、それ相応の覚悟があるのであろうな。門を開けよ」

「何人たりともの命を受けております!」


門番はなおも槍を下げない。

そして御所内では、

「明智日向守様が門前におられます!」

「明智が?」

「はっ」

「なぜここに?……通せ、今すぐに!」

「信忠様!早計な判断は、お控えください」

「大丈夫だ、今は情報が欲しい」


門前でにらみ合いが続く中、


「失礼いたしました!お通りください」


俺は馬を降り、2条の中庭に足早に向かうと、既に庭にいた信忠様がいた。


「明智!おぬしは、何をしておった!」

「若殿様、何故甲冑を?」

「本能寺で火の手が上がったと聞いた!お主が本能寺を包囲していると!父は?」

「包囲など馬鹿な!私は御館様を賊からお守り――」

「わしとて鵜呑みになどしておらん!

だから会っておる!皆の反対を押し切ってまで!」

「……」

「父上はどうなされた!今どこじゃ」


俺は答えに詰まったが、確かにあの時御館様の声を聞いたし見た。


『開けよ』


つい先ほどまで、確かに聞いた声。だが、その後のことは分からない。


「御館様は、まだ本能寺に」

「まだ、……だと…?」

「火の手が早く……」

「それで、おぬしは何をしていた!なぜ、このようなことになっておる!」

「申し訳ございません!」


「……っ!」

自分の肩に鞘が打ち付けられ衝撃が走るが、むろん避ける気持ちなど無かった。


「もうよい!!今は責めている場合ではない!確かめるぞ」

「はっ!」

「本能寺へ行くぞ!」

「承知いたしました」

「お待ちください。信忠様は、こちらにお留まりください」

「村井、馬鹿を申すな、行くぞ」

「いいえ、私が参ります」村井貞勝が一歩前へ出る。


「貞勝……」

「御館様のご無事を、この目で確かめてまいります」

「父上があそこにおられるのだぞ」

「だからこそでございます。本能寺で何が起きているのか、まだ分かりませぬ。

信忠様まで向かわれては、二条御所が空になります」

「……」

「ここは私にお任せください」


信忠様は本能寺の方角を見るが、しばし黙った後、

「分かった」

「ありがとうございます」

「だが、父上を必ず確かめよ」

「はっ。必ずや」


「信忠様」

「なんだ、明智」

「何がおきてるか不明な状況、我が兵をこちらにお回しましょうか?」

「いらぬ。二条は二条で守りはできる……が……確かに、お主の言にも一理あるな」

「はっ!ではお回し致します」



村井と明智はすぐに二条御所を出てお互いのするべき事をした。

向かう先は、本能寺。

《史料》本城惣右衛門の『覚書』では、本人は首を2つ持っている。



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