最後の采配(先輩と後輩)
「え?後輩。なんで泣いてる?」
「先輩、山岡さんの部下が可哀想です!」
「えっ?」
「殺さなくてもいいじゃないですか!」
「いや、でもなぁ、あそこまで何も出ないと、死人に口なしが一番確実なんだよ」
「先輩が酷い人なのは理解しました」
「なんでだよ」
「だから目つきが悪いとか、仕事できるのに対人スキルが無いとか言われるんですよ」
「お前、それ今必要か?」
「いふぁい、いふぁいです!」
「うるせぇ、もうお前には読ません!」
「じゃあ自分で読みます!」
僕は、鼻をすすりながら、スクロールを始めようとするが、気になる……
「先輩」
「なんだよ」
「これ、さっき嫌っていた毛利を含む羽柴秀吉のIF話はどこですか?」
「読ませてもいいが、俺のIFなら簡単に説明つくんだよ」
「何がつくんですか?」
「なんで、あそこまで中国爆走を決定できたのか」
「中国から京都までのあの有名な逸話を?」
「あぁ、できる」
それから椅子に背を預け、ギィ、と小さく椅子を鳴らす。
「誰の使者だ?」
「誰とは?」
「どんな手紙で誰からの使者なら、あの羽柴秀吉や毛利が睨み合ってる最中に、あの二人が、
『はい、分かりました』って戦を止めて次の一手に進む?」
「んー、秀吉さん自身の判断?」
「いやいや、そもそも睨み合ってる大将から言われても毛利が納得するかよ」
「あまり詳しくないんですが、黒田何とかさんとか誰かいたんですよ!」
「あの二人を動かす。しかも爆速でなら、どの武将でも格が1枚も2枚も足りない。あと情報も足りねぇ」
「天のお告げとか?」
「急に神様降って来させるなよ(笑)
同時にお告げなら、その話が有名になってるわ」
「お告げ説はダメですか」
「いいか?秀吉・毛利を動かすだけの理由を投げたヤツは必ずいる」
「はい、で?」
「答える前に一つある奇妙な伝承というか俗説がある」
「何です?」
「秀吉が捕まえた妙な使者」
「妙な使者?」
「本能寺の変の後な。毛利側へ行くはずの使者を秀吉側が捕まえたみたいな伝承がある」
「えっ?」
先輩は腕を組んだまま、天井を見上げてる。
「でもなぁ……」
「はい?」
「使者だぞ?」
「はい」
「しかも戦場へ情報を届ける使者だぞ?いいか?2つパターンを考えた。ひとつは間違えた説。ひとつは捕まった説」
「はい」
「毛利のところへ行く使者が、羽柴のところに間違えて行きました」
「えーっと……」
「おかしいんだよ。家紋くらい分かるだろ。使者なんだから」
「た、たしかに」
「家紋もわからない、敵味方すら判別できないなんて、どんだけの大馬鹿を走らせたんだよ?」
「先輩、言い方。人なんだから、ヒューマンエラーはあると思うんですよねぇ」
「ヒューマンエラーねぇ」
「確かに納得できないので、捕まえた方で!
毛利宛の書状を持ってる!こやつは敵側の使者、毛利側の情報を見るチャンス、どれどれ~?みたいな感じで秀吉は見た」
「たとえ、秀吉側がその情報を信用し、
毛利側に返した。毛利側からしたら1度敵の手に渡った文章が戻ってきても、汚染文章でゴミ同然だ。信用度は限りなく落ちるだろうよ……信じるか?」
「んー」
「しかも史料によると、羽柴秀吉はその使者を殺しているんだ。おかしいだろ尚更。片方にしかない情報でなんでお互いが動ける?」
「んー」
「仮に中身だけ提示されて信じられるか?秀吉が、あっ、これおたくにも重要なんで読みます?内容は本能寺の御館様の事なんで俺帰っていいですか?講和ヨロってなる?」
「先輩の言い方だとならないです。でも両方に重要ならやっぱり信じるのでは?」
「ならもっとスッキリな方法で」
「はい」
「二人に同時に送ったんだよ」
「誰が?」
「織田信長」
「!」
「信長が二人に送ったんだよ」
「ほわわ、秀吉さんと、毛利さんに?」
「そう」
「えっ?何のために?」
「織田信長がコケにされてそのままか?
生き残ったなら、足場固め兼粛清するだろ?
そこで必要なのは信長が信頼してる武将の1人、羽柴が必要になるからだよ。
そして仮に自分の受けた傷が致命傷で助からないと感じてたなら」
「感じてたなら?」
「織田信長は掻き回す。易々と全員に飴なんか渡さないね」
「えっ?えっ?えーーーー!ちっさ!人としてそれどうなんですかー?」
「クックッ、後輩はちっさいと思うのか」
「そうですよー平和大事です!さっさと天下泰平がいいです」
僕はグッと拳を上げたが、先輩は微笑んでいた。
「二人宛に本能寺の中で書状を書いた。だから二人に届いた。差し出し人は織田信長本人」
「でも、なんて書いたんですか?それこそちょっと羽柴帰して欲しいなら無理ですよね?」
「まぁな、じゃ〜俺のIF物語だ」




