みんな大好き中国大返し(先輩と後輩)
「さて、とうとう大トリだ」
「先輩、えーもういいですよー(笑)
僕、かるーく訊いただけなんですよ? 本能寺の変がこんなにツッコミどころ満載で、
気持ち悪い話だったとは、教科書では教えてくれなかったですよ……」
「まあ待て、後輩。最後だからなっ? これを聞かないと夜も眠れなくなるぞ」
先輩はニヤリと笑い、タブレットを見せてくれた。
「最後はみんな大好き、羽柴秀吉の『中国大返し』だ」
「あー、あの教科書に出てくる有名なやつですね! 信長の訃報を聞いて、
一瞬で毛利と和睦して、奇跡の爆走で京都まで戻ってきたっていう」
「そう、それ! 歴史ロマン派は『秀吉の決断力と機動力が生んだ奇跡』って
感動的に語られてるがそこまででは無いんだ」
「えっ?だって僕、すっごーーいって記憶ですよ?」
先輩は、タブレットに地図と電卓を出しながら、
「いいか? タイムラインと数値を整理するぞ」
1. 第一報が届くスピードが異常
本能寺の変が起きたのは6月2日の早朝だ。京から備中高松(岡山県)までは約200キロ離れている。
当時の馬や飛脚のスピードで、途中の検問や混乱をすり抜け、秀吉のもとに「信長討死」の第一報が届いたのが6月3日夜か~4日朝とされる。
なぁ?1日半足らずだぞ? FAXも電話もない時代に、山岡の15キロなんて非じゃない。
京の大混乱中に情報を200km先の陣中へ正確に。いいか?正確な報せが届くってなんだよ。
届いたことじゃないだ。正確なのが気持ち悪いんだ。訂正が追いつくのだって時間がかかるあの時代、
こいつはどこの誰の報せを受けて確定してない情報を正確&正解とみなしたんだ?
2.兵2万〜3万の『引っ越し』の重さと移動距離
6月6日には高松城を出発し、6月11日には兵庫の兵庫津(あるいは沼島・姫路)に到達、6月13日には山崎の戦いに突入している。
移動距離は約200km。移動させたのは兵2万〜3万だ。
ただ調べるとアホみたいな気持ち悪さなのは、1箇所だけ、あとはなんて言うか普通レベルなんだ。
3. 奇跡的な撤退と和睦の『ノータイム手続き』
毛利軍と目と鼻の先で対峙していたんだぞ?
普通、撤退戦ってのは追撃されるリスクが一番高いから、和睦の交渉、証人のやり取り、陣払いに数日はかかる。
なのに秀吉は、訃報を聞いた翌日頃(6月5日)には毛利と和睦をまとめ、6日には全軍撤退を開始している。
「気持ち悪いのが、毛利側も『あ、はい和睦ね』って即答かい!
あの戦国の切った切られたの最中でか?!ならなんでお前ら睨み合ってたんだよっ!
しかも、最終的にトロッコ問題にすり替えしやがって」
「えっ?先輩?……えっ?トロッコ問題?」
「後輩、いいか聞け。
毛利は、高松城の清水宗治1人を救う為に数万と言う軍を出しておきながら、
最後は清水1人を差し出して数万を救う決断。なら最初から出すな。馬鹿かこいつ。
清水に、『助けてやるぞー!』と『希望を捨てるなよ』と毛利連合大軍まで見せて、
清水が『毛利さん、頑張ります』からの、最後毛利に『お前死んでくれ』言われたんだぞ!?
希望を持たせる工程いるか?いらないだろう!?」
僕の肩がガクガク揺れる。
「あの〜先輩、今はみんな大好き羽柴秀吉の中国大返しでは?」
「あー、すまん。ちょっとイラついた」
先輩は、恥ずかしかったのか、小さく咳払いをし、
「まあ、その上で毛利は、それを好機と見ずに仲良しこよし」
「仲良しこよしって……」
「きっしょいだろ?」
「言い方!」
「きっしょい毛利と秀吉が、事前に『近々京で何か起きるから、そん時はヨロシク』と、互いに握ってたとしか思えないノータイム対応だろ」
「僕は、先輩が毛利を嫌いなのは理解しました」
「まぁ、そんで、『明智を倒す』という単一の目的に向かって、一切の躊躇も迷いもなく、
全軍が一直線に京へ向かった。一応、動けるのは基本12時間だから」
「先輩、12時間ですか?24時間は無理でも、もう少し18時間とかは動けません?」
「後輩、お前この時代に街灯なんてひとつもねーぞ。
お前だってキャンプとかで夜中、山中に入った事あるだろ?」
「あっーー真っ暗!」
「そう、真っ暗なんてもんじゃない。満月で雲ひとつない日が続いたならそりゃー奇跡の装飾品が増えるが、さっきも言った通り1ヶ所以外は割と普通なんだ。
まぁ、その1ヶ所も姫路の70キロと大雨と洪水なだけだ!今までの気持ち悪い悪さに比べたらまぁ、頑張ったんだなぐらいですむ」
「えっ?先輩、大雨洪水、台風だったんですか?待って先輩」
「本能寺が大パニックで『えっ、殿の首は? 敵は誰?』のとき、
信忠が『状況が分からんから腹切る!』って爆速自害し、
山岡が『極端な撤退決断』で橋を焼いて逃げていたその裏で、
秀吉だけが、まるで『こうなるスケジュールが最初から決まっていた』かのように、
完璧なロジスティクスと準備で爆走していたのが気持ち悪いんだよ。200キロ強離れてるところで」
「ん?先輩……それって秀吉が奇跡の天才だったんじゃなくて、まさか!」
「おっと、そこから先は『歴史の闇』だ」
先輩は人差し指を唇に当て、
「この辺をIFとして聞きたいか?山岡の行動は変えない。羽柴秀吉の行動も毛利の行動も変えない。そして俺が考えた黒幕まで聞きたいか?」
「気になります!聞きたいです!」
「それじゃ~続きだ。全てが爆速で始まり爆速で終わるこの本能寺のIF物語を始めるぞ」




