ラウンド1 『未練と執念』
【前回まで】
プロボクサーの瑛人がデビュー戦前夜にして、恋人の涼子にプロポーズをした日、殺された。
犯人は人ではなく、怨霊のような女の霊だった。
瑛人と同じく死亡した人たちを連れバスが行く。
その行き先とは!?
瑛人は今日なのか、昨日なのか、
それとももっと前なのか、それはわからないが確かなことは"人ではない誰か"に殺された。
そして、いま瑛人はどこに向かっているかもわならないバスにいる。
その席の端で祈るように両手を組み、ガタガタと震えていた。
その様子を隣の男が声をかける。
「大丈夫か…?死んでるのに大丈夫って変だけど…」
瑛人の頭はおかしくなりそうだった。
バスという日常のシーンではあるが、
そのバスの様子はおかしく、そして違和感では説明がつかないこの異様さが恐怖を際立たせた。
「俺は死んだのか…?」
瑛人はか細い声で隣の男に聞いた。
「あぁ、あんたは寝ていたから聞いていないかもしれないが…」
「"このバスに乗ってるやつ"は全員死んでいる」
「もちろん、俺も…」
瑛人は男の方に目を向けるが死んだようには見えない。
「嘘だろ…なんで受け入れられるんだ!?」
「ほら、ここ、ほら?」
男は顎を突き出し、喉を指差す。
真紫になっている。
「自殺したんだ…首吊って…」
「そんな…じゃマジでここにいる奴ら全員…」
バスを見渡すと、大ケガをしている人、青白い顔の老人、泣き叫ぶ乳児、恐ろしく痩せ細った少女が瑛人の視界に入った。
もし彼ら彼女たちが死んだとするならば、その死因は実に想像しやすいほどに。
「じゃ、俺は?なぁ、俺はなにか変なところあるか!?」
男は怪訝な顔で瑛人の身体を舐め回すように何度も見ても「なにもないなぁ」と言った。
男は軽く自己紹介をした。
「俺は竹中っていうんだけど、君は?」
「俺は間宮…」
「そうか、間宮…間宮はどうやって死んだんだ?」
瑛人は自身の死因はわからなかった。
覚えてるのは路地を走っていたら急に人間には見えない女と目が合い、そのまま気づいたら今このバスにいた。
そう言うと竹中は
「あれじゃないか?幽霊とか?」
(幽霊?)
「いや、霊感とかないし…ああいうのって、普通は誰かを殺したり、廃墟とかに行って殺されるとかは映画ではよく見るけど…」
瑛人は続ける。
「俺が走っていたあの道は住宅街だからもし殺されてるんなら、たくさん人が死んでるんじゃないかな?」
「けど、アイツはたしかに人じゃなかった…クソ…」
瑛人は言葉にして話すことで段々と冷静になれてきた。
「竹中は死んだ後のこと、どこから覚えてる?」
「俺も同じだよ…気づいたらこのバスにいて…」
「ただ、間宮と違って自殺だから『あ、俺死ねたんだ…』ってすぐわかったよ」
「なんで自殺なんか ーー」
瑛人の言葉を竹中は遮った。
「止そう、多分俺が死んだ理由は未練があるお前には理解できないし、それを理解できない間宮に俺もイラつと思う…」
「なんで俺に未練があるって…」
瑛人がそれを口にする前に竹中が答えを出した。
「さっき誰かの名前を叫んでたけど、あれは間宮の恋人か奥さんだろ?」
「……」
「大切な人がいる、それだけで俺の死んだ理由はわからない。けど、それでいい…今はもう…何も考えたくないんだ…」
「ごめん…」
「いいんだ、それより何かやってたのか?身体がガッシリしてるな?」
瑛人の身体を触る竹中に
「まぁ…まだ無名だけどプロのボクサーだったんだよ。ちょうど次の日にデビュー戦でさ…」
「そっか、俺と違って夢があっていいな」
「いや…けど俺ら死んじゃったから」
まだぎこちなくも死んだことを少しネタにして2人笑ったりをしていた時、
また不気味な声でアナウンスが流れた。
『もう間も無く霊界に到着します。そのあとは"成仏"か、このまま"怨霊"になるか確認されますので、今から少しずつ考えてください』
無機質な声とは裏腹に機械的ではない後半の言葉に乗客たちが騒がしくなる。
次から次へと質問が飛び交う。
「成仏したらどうなるんですか?」
「怨霊ってなんですか?」
「決めないとどうなるんですか?」
これらの質問に対しては、この運転手らしく
『ご質問は霊界でお願い致します』
とだけ返ってくる。
段々と同じ回答に虚しさを感じて皆の声が静まっていく。
(なんだよ霊界って…そんなのあるのかよ!?どうしたら…俺は…俺は…ただ、涼子と一緒にいれたら…)
段々と自分の置かれた立場と現実に寒気がしてきた。
(もし成仏をしたら記憶は…涼子の記憶はなくなる…)
(じゃ…怨霊になったら…なにをする…また涼子に会えるのか?会って…どうする!?)
(成仏するか…怨霊になるか…怨霊になったら…なにをする!?)
(怨霊になったら…)
(怨霊になったら!?)
「質問です!」
瑛人は手を挙げた。
自然とみなが瑛人に注目をした。
「怨霊は怨霊に触れることはできますか!?」
『………』
確信はあった。
竹中から先ほど触わってもらえたこと、そして…
「触れますよね?だって、さっき俺はあなたを触れましたから!」
運転手は苦々しく答えた。
『……はい。怨霊同士なら触れることは可能です』
竹中は瑛人に今の質問の意図を聞いた。
すると瑛人な竹中に少し笑って言った。
「俺は…決めた…!俺を殺したあの怨霊を…俺が殺す!」
竹中はそのおかしな発想に圧倒されて声が出なかったが、少し遅れて笑った。
「間宮はいいな、死んでもやりたいことが出来て!」
瑛人は左の手のひらに右の拳を叩いた
おもしろい!続きが見たいと思われましたらどうかご評価とブックマークの登録をお願い致します。
【次回予告】
瑛人の目的が決まった。
ただしそれにはいくつかの条件が彼を待ち受けていた
次回は明日7月14日(火)11時ごろ予定




