ラウンド0『エピローグ』
ホラー映画観ててたまに女主人公の彼氏が幽霊に殺されたあと、当然のように幽霊と一緒になって女主人公=恋人を襲うシーンを見るといつも思う。
『なんでお前も幽霊になってその霊と戦わんの?』
と。
ただ、私はそこまでマッチョでもなく、そもそも幽霊同士って物理攻撃OKなん?
という疑問がありますので、小説で設定を加えて叶えるべく投稿致しました。
主役は私も少ーーしだけ、齧ったボクシングを極めているプロボクサー瑛人が、どうやって殺され、どうやって奮い立ち、どう立ち向かうか?という若干爽快系なストーリーです。
ストックはあと半分程度書いて終わりですが、多分15話いかない程度で終わりだと思います。
もしよければご照覧くだされ。
いま、小さな部屋で瑛人が涼子と対峙している。
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「涼子…明日のデビュー戦にもし勝ったらさ…」
改まった瑛人が目の前の恋人である涼子の目を見た。
デビュー戦と言うのは、瑛人のプロ初のボクシングの試合である。
「勝ったら…?なに?なにかくれるの?」
そんな軽口を言うが、涼子はもう瑛人の次の言葉がわかっていた。
なぜなら昨日部屋の掃除をしていた時、
偶然見つけてしまった、小さな箱。
しかし、涼子はそれでも直接瑛人の言葉で聞きたかった。
「くれるって…うん、まぁ…」
この肩透かしな涼子の言葉にはにかみながら、少しだけ間を空けて、決心したように声を上げた。
「……俺の人生を涼子に…捧げたい!」
「………!」
涼子はわかっていてもその言葉の意味に感動し、思わず両手で口元を抑える。
「そして涼子の人生も俺も…くだはい!…やべ、噛んじゃった…ください!」
「もう、せっかくいいところだったのに!」
そう言いながらも涼子は瑛人の言葉に声にならない涙を流して頷いた。
そして瑛人は椅子の後ろに隠し持っていた小さな箱を取り出す。
「涼子…俺と…結婚してください」
涼子は止まらない涙を拭こうともせず、
ニコリと笑い、左腕を伸ばした。
差し出された左手の指の中で、なにかを主張するように薬指だけがピンとまっすぐ伸びている。
「ねぇ…」
涼子は立て続けに言う。
「ねぇ、フリでもいいから、その指輪を私につけてよ?」
瑛人はまるで見えない指輪を持っているように、
親指と人差し指の感覚を少し空けて、涼子の左薬指に透明な輪を通した。
「…瑛人、明日…絶対に負けんじゃねぇぞ?…ふふ」
「お…おう!」
改まった、お互い少し気恥ずかしい、少し芝居気がある空気から、いつもの日常の雰囲気に変わっていく。
「ねぇ?今日…する?」
涼子が顔を赤らめて聞いた。
「いや、明日試合だしな…」
「なんか、それ迷信らしいよ?」
「マジか!?」
瑛人はこれまでボクシングのためにある程度は禁欲をしたり、大事な試合前では特に本能を抑えていた。
少し思案したが、今日みたいな特別な日くらいはいいだろ、と気軽に考えた。
「じゃ、走り込みかねてゴム買ってきます!」
くすくす笑う涼子が、かけてあるサウナスーツを手渡した。
瑛人はそれを着込み涼子に軽くキスをする。
「早く帰ってきてね?」
涼子は笑いながら瑛人の背中に声をかけた。
「おう!」
と親指をおどけて立てて振り向き、ニカっと瑛人が笑う。
これが涼子が見た瑛人との最後の会話であり、
最後の笑顔であった。
◆
瑛人の家からコンビニまではすぐ近くだったが、
買い物の品が品のため、軽い走り込みを兼ね、
1キロほど先のコンビニに向かった。
途中から住宅街が広がり、その脇の小道を行く。
たまたまなのか、
街灯3基が等間隔に立っており、灯っているが電球が切れかかっているのか怪しく点滅を起こしている。
そして2基目を瑛人が通り過ぎた時、真っ暗になった。
「うぉっ…」
不覚にも声を上げた瑛人は真っ暗になり立ち止まる。
大事な大会前に怪我をするわけにもいかないため、
ポケットにあるスマートフォンを取り出した。
(懐中電灯ってホーム画面からだっけ?)
スマートフォンのライトを立ち上げ正面を照らした時、
目がくり抜かれた女が顔の前にいた
『え゛げがばい゛ゔぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛が』
この不明瞭な言葉のあと、再び街灯は何もなかったかのように灯る。
路上には瑛人のスマートフォンと取り残されて放り出されていた。
◆
「ちょっと…ほら!ほら!あなた!」
「……っ…ん?」
瑛人が起きるとバスに乗っていた。
あとで気づいたが、バスにはフロントガラス以外に窓はない。
40人くらいがバスに座っていて、見回すとみんな下を見て顔がよく見えない。
「あれ?おれ…あれ?…え?」
記憶を辿るがなぜこのバスに乗っているかもわからず、それどころか頭がなかなか冴えず、
自分が誰なのかもわからなのかもよく思い出せない。
「寝るのはいいけどさ…肩にもたれかかるなよ」
瑛人を起こしたバスの隣の男は迷惑そうに言ったため、瑛人が頭を下げる。
しばらくして、サウナスーツを見てようやく自分の記憶がどんどんと甦える。
「あ、たしか…」
(俺は誰かを待たせてる…誰かが俺を待っている)
" 早く帰ってきてね? "
「涼子!!」
瑛人が思い出したと同時に叫ぶと車内はやや騒然とした。
子供の泣き声も聞こえたがいまの瑛人には関係ない。
文句を言われようが隣の男を押し除けて、シートとシートの間を掻き分けて運転席に進む。
『お客様、走行中は席からお立ちにならないようにお願い致します』
と、まさに瑛人に向けたマイクでアナウンスされるが、それを無視して瑛人は運転席までたどり着く。
「なぁ、止めてくれ!」
目ぶかに被った運転手に叫ぶように何度も声をかけるが無視されてしまう。
イライラした瑛人は思わず運転手の肩を触ると、
ーー ぞくっ……
そう思ったのは無理もない。
それほどまでに運転手の体温は冷たかった。
「席にお戻りください」
目深に被った運転手はようやく瑛人に顔を向けて言うと瑛人はその場で尻餅をつく。
なぜなら…
この男の顔の鼻から下が千切れたように切り離されていた。
この人外に近い男の顔を見たことで、もう一つ記憶を取り戻した。
ーー 思い出した…俺は『あの女』に…殺された…
【次回予告】
瑛人の向かう先で待ち受けるものとは!?
そして瑛人のある固い決意が決まる!
次回投稿は本日22時予定です。
よろしくお願い致します。




