ラウンド9『対決と衝突』
【前回まで】
瑛人が殺され生きる気力がない涼子のもとに、死人となった瑛人が現れるが、涼子からは視認されない。
そして瑛人は「明日までに解決する」とメッセージを残して去っていった。
瑛人が霊界に戻りいつもの講習所に入ると、
既に集まっていた冬子と竹中、そして前川。
「間宮、色々わかってきたぞ」
竹中の少し含みがある言い方に"妙案"を窺わせる。
「その話は私から」
前川から対策について以下のように説明した。
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①怨霊の呪いは【恐怖】によって発動される
②怨霊の成仏させるためには【護符】が有効である
③ただし護符が有効なのは怨霊が【弱った】時のみ
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「え?そんだけ?」
驚く瑛人だが、前川は③が重要だと言う。
「怨霊は通常お祓いや、呪いで相手を弱らせます。ただし瑛人さんにはその力はありません」
「……」
「そもそも本物の霊媒師だったトミヨに同じ土俵で勝てる日本人は今いませんからね……」
しかし「だからこそ」と冬子は言う。
「やっぱり瑛人さんのボクサーとしての出番ってわけですよね!?」
これには前川も頷く。
「はい…!図らずも間宮さんが講習の時に質問していた『怨霊は殴れるか?』……あれしか弱らせる方法はありません」
「けどいくら間宮でも①の恐怖を感じないって出来るのか?俺は無理だぜ?ビビった瞬間にトミヨの呪いで捻りドーナツみたいになるんだろ?」
と、竹中の常識的な言葉に皆が黙り込んだ。
ただ、その暗い雰囲気の中、瑛人はひとり目の中に光を宿している。
「それでもやるさ……」
その後、前川による霊界屈指の『護符』を臨時で申請をあげ、即日発行となった。
◆
前川はデスクに座って瑛人に護符を手渡した。
「間宮さん、いいですか?プレッシャーをかけるわけじゃないですが、この護符は『もしも』という保険で霊界が長らく効力を溜めていました」
つまり、と前川は続ける。
「泣いても笑っても一回きり……トミヨが膝をついて動けなくなってから、ですからね?」
瑛人からすれば百も承知の話よりも、前川の異変にが気になった。
「前川さん……手、震えてない?」
瑛人の指摘でそれに気づいた前川が少し恥ずかしそうに笑う。
「ははは……本当だ……役人失格ですね……」
「そんなことはないよ、前川さんだから俺も自分の死を受け入れられたし……なんて言うか……感謝してる」
前川はいつもの照れ笑いのような顔から、少し真剣な顔をして瑛人を引き止めた。
「ん?」
「間宮さん……少しだけお話し聞いてくれませんか?あなたなら……あなただから話したい」
◆
バスに向かうと停留所に冬子と竹中がいた。
「ここまででいいからな?」
瑛人は二人を気遣い、
あくまでトミヨとはサシで臨もうとしていた。
「わかってますよ!そんな怖いとこ行きたくないですから……」
「悪いな瑛人……俺に出来るのはここまでだ」
竹中が申し訳なさそうにするのを瑛人は笑う。
「なに辛気臭い顔してんだよ?俺一人で大丈夫だって!」
はにかんでバスに乗り込んだ。
バスのドアが閉まると役場から騒がしい声が聞こえた。
窓がないため瑛人は見えなかったが、ほぼ全ての死人からの声援であったことはわかった。
バスはゆっくりと走り出した。
◆
バスは時間にして20分ほどで、かつて瑛人が殺された現場近くに到着した。
運転手に礼を告げると、初めてこのバスに乗った時のあの少し冷たい運転手だった。
「………」
「負けんなよ?」
この無口な男は運転手になってから、
おそらく初めてであろう人間臭い言葉をかけた。
瑛人は返事の代わりに拳を突き上げてバスから降りた。
◆
瑛人はまずあの路地に行くがトミヨの姿はなかった。
これは瑛人の中では想定内だった。
なぜならトミヨの犯行は常に幸せそうな人間がターゲットだった。
被害者の暴力団だった男とは無論話せなかったが、
断片情報だけ聞くと組で出世した直後の犯行、
そして佐伯は彼氏とのデート後に殺された。
(と、なると……)
瑛人は資料にあったトミヨの生前最後の棲家でもある
路地横の薄汚いアパートを見上げた。
(202号室……そこから幸せな奴を見ているんだろう)
瑛人は階段を登り、トミヨの部屋の中に侵入した。
死人には臭いはないが、おそらく生きた人間がここに踏み込めば3秒あれば倒れるだろう。
部屋中はゴミだらけで大小無数の蝿がたかり、
体液と首吊り特有の糞尿が撒き散らかされ、
そして窓際に首を吊ったロープと、
腐って千切れた首と胴体が転がっていた。
随分とボサボサで長い髪の毛だった。どんな顔か見たく髪を少し掻き分ける瑛人。
その隙間から白目になった目玉を覗き込む。
(こんな婆さんにに俺は殺されたのか……)
その瞬間目が動いた ーー
瑛人は条件反射に横を回避すると、
既に後ろからトミヨが飛びかかっており、
間一髪でトミヨの奇襲をかわした。
トミヨは勢いつけて飛びかかったたが、虚しくかわされたため、つまずき、やや前のめりになった。
しかし転ぶ手前で踏みとどまり、
ゆっくりと姿勢を正していく。
「……あ、あぁ……」
首を180度曲げて、
背中にいる瑛人を睨み、呪いをかかる。
「ぎゃっ…がっ……?」
首を傾げるトミヨに、瑛人が冷たく言い放つ。
「あぁ、知らなかった?……ビビらなきゃいいんだってよ?テメーのクソみたいな呪いはよ!」
そう言うと瑛人は素早くトミヨの懐に走り込み、
そのままトミヨもろともアパートの壁から地上に落下した。
【次回予告】
ついに激突する両者…!
次回最終ラウンド、果たして勝つのは!?
次回投稿 7月21日




