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私を〝ママ友〟と呼ばないで下さい  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
私はあなたが嫌い

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9.自分に無責任な自分

 玲は職業訓練のパンフレットを手に帰宅した。


(私、何がしたかったんだっけ……?)


 様々な資格に目を滑らせながら、彼女は今までの自分の人生について思いをはせた。


(子どもの頃は確か、お花屋さんになりたかったような)


 次に、大学に入るきっかけを思い出そうとする。


(そうだ。偏差値が高くて、一番箔がつくところを選んだ。ただ、それだけだった──)


 高校生の頃の玲は、未来の自分に無責任だった。こっちの方がカッコイイから、あっちの方がおしゃれだから。そんなしょうもない基準ばかりで人生を決めて来たような気がする。


(いい大学に入れば、新卒採用で楽出来ると思った。でも……)


 彼女の卒業の年、リーマンショックが起きた。玲自身も内定取り消しの憂き目に遭ったのだ。


(それで、付き合ったばかりの直也に「結婚しないか」って言われたんだっけ。私ったら、浮かれちゃってすぐに結婚しちゃった……)


 玲はかつての無鉄砲な自分をどつき回したかった。


 でも、時間は元に巻き戻せない。


(手に職か。確かに、女の子は昔からそう言われて来たよね)


 〝普通〟に生きるのは難しい。


(そういえば、他のママさんたちって、どこで働いてるんだろう)


 タワーマンションは二馬力でペアローンを組んでいる夫婦が多いと聞く。玲の周りにも、共働きは多い。


(ちょっと聞いてみようかな。意外な穴場とか、資格があるかも)


 そんなことを考えていると、春流が帰って来る。


「ただいまー!」


 玲は、息子の前では〝いつもと変わらない母〟を演じようと思った。


「お帰り、遅かったね」

「うん!ちょっと友達と遊びの相談をしてて……」

「へー、誰と?」


 すると春流は言った。


「同じクラスの大城悠斗。今週の土曜日、家に来ないかって誘われた!」

「そう……」


 交通当番で一緒の大城美樹だ。ああいう気ばかり強い手合いは正直関わり合いになりたくないタイプだったが、春流のためなら何でも出来る玲なのだった。


「私も行った方がいいかな?」

「うん。でも、家がどこにあるのか分かんない」

「そっか。春流はこのマンション以外の人と遊ぶの、初めてだったね」


 美樹の家は最近建てられた分譲住宅地の中にあることを玲は知っていた。


「お菓子持って行こうか。仲良くなれるかな……」




 土曜日。


 玲は春流を連れ、大城家の前に立っていた。


 美樹が出て来る。


「あら、綺堂さんいらっしゃーい」

「お、おはようございます……」


 美樹は朝からテンションが高い。玲は気圧された。


 美樹の背後から、悠斗が出て来た。


「おっす、ハル~!」

「いえーい、ゆうと~!」

「お邪魔します……」


 玲は美樹の家に入った。三階建てのペンシルハウスだ。まだ新築の匂いがする。


 悠斗は最新のゲーム機を買い与えられていた。春流は持っていない。教育の方針で、ゲーム機は持たせないようにしていたのだ。男児たちはすぐに対戦型ゲームで遊び始めた。


 一方、母親たちは玲の持って来たお菓子をつまみ始める。


 玲がずっと愛想笑いを続けていると、美樹が言った。


「綺堂さんは今日はお仕事お休みですか?」


 玲はぎくりとする。確かに現代は働いている母親の方が多いので、会話を始めるにはこういった切り出し方が無難なのだろう。玲は首を横に振った。


「いえ、今は無職で……」

「あら、専業主婦ですか!?羨ましいわ~」


 玲は苛立ってうつむいた。〝今は〟などと予防線を張ろうとする見栄っ張りな自分もみじめだった。


 美樹は構わず言う。


「綺堂さんって、あのタワマンに住んでるでしょう?東京を一望出来るっていう」

「はあ……」

「うちもあそことここで、住まいを迷ったんです。でも、二馬力で買えるのはこっちが精一杯でした」

「二馬力……」


 玲は美樹に、気になっていることを尋ねた。


「大城さんは、働いていらっしゃる……?」


 すると美樹は胸を張って答えた。


「ええ。今は、○○スーパーの店長をやってます」

「店長!?すごい……」


 玲が素直に驚いて見せると、美樹はここぞとばかりにまくし立てた。


「高卒から正社員で入ったんですけどね、20年もかかってようやく店長ですよ。大卒の皆さんはひとっとびに店長になれますけど、学歴の足りていない私はとても長くかかっちゃいました」

「え~でも、そこまで長く働けるなんてすごいです~」

「すごくなんかないですよ。行くあてがないから、ずっとしがみついていただけです!」


 そう言いながらも美樹の鼻の穴は膨らんでいた。玲はその様子を見ながら、強烈な嫉妬を覚えた。


 美樹は社会に必要とされているのだ。それなのに。


(私は……何も成し遂げられていない。夫に浮気されたのも、きっと軽んじていい女と思われたからだ)


 玲は暗澹たる気持ちになった。専業主婦というものはお気楽に見られるが、社会からお荷物扱いされたり、〝働け〟の圧をかけられたり、夫がいなくなったら路頭に迷うなど、社会的立場が異常に弱い。


 働かなくては人間扱いされない。それが現代社会なのだ。


 玲は意を決して美樹に尋ねた。


「ねえ、大城さんのいるスーパー……正社員の中途採用なんてしてたりするかしら?」

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ブレイブ文庫様より
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― 新着の感想 ―
相手は美樹やぞ。 バトれバトれ〜 楽しみ方を分かってきた気がします。
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