17.ズル休み家族
ファミマで弁当を買うと、四人は再び第二公園に戻って来た。
東屋のような場所で、四人は向かい合って座る。
(おかしなことになったな……)
武尊はまるで現実的ではない景色を眺める。不登校児、目の見えない男、仮病の息子が揃っている風景は、今後二度と見ることはないだろう。
「いただきまーす」
コンビニ弁当を食べながら、武尊は悠斗の様子をちらりと確認する。
陣が言った。
「大城は今日、何で休んでるの?風邪?」
悠斗は首を横に振る。
「ううん、違う。なんか全部嫌になって休みたくなった」
横で聞いている武尊はヒヤヒヤしたが、翔馬は普通に美味しそうに弁当を食べているだけだ。
「あー、そういう日もあるよね~」
全休している陣が気楽にそう言ってのける。武尊はギョッとして悠斗を叱った。
「おい!悠斗、そういうことは言っちゃダメだろ!」
「え~?何で?」
「ズル休みだなんて……」
すると翔馬がふふっと笑う。
「いいじゃないですか?うちなんか毎日ズル休みみたいなもんです」
武尊は、今度は青くなった。
「あっ、そういうつもりで言ったわけじゃ……!」
「気にしないでください。今時、自主休校ってそこまでの悪事じゃないでしょ。みんな色々な事情があるんでしょうし」
「そ、そうですか?」
武尊は自分の偏見が暴かれたような居心地の悪さを感じた。それを察して翔馬が続ける。
「子どもには子どものペースがあります。親の仕事は、それを〝どんな感じかな?〟って横でチラ見して、大丈夫かどうかたまに確認することだけですよ」
すると陣が「パパ、目見えないじゃん!」とゲラゲラ笑った。翔馬も「そうだよね~」とゲラゲラ笑う。武尊はそれにもギョッとした。
(あー、なんかヤダ)
武尊は田中家の二人とは相容れない気がして、早くこの場を立ち去りたかった。なぜか彼らにとんでもなく痛い場所をつつき回されている気がした。
(悠斗、早くご飯を終わらせてくれ……!)
しかし悠斗は陣と話を続けている。
「よーし、陣。これ食べ終わったら、鉄棒の練習しようぜ!」
(こらこら、悠斗~!)
武尊は早く帰りた過ぎてソワソワして来た。すると隣で翔馬が問う。
「大城さんも、今日はお仕事お休みですか?」
武尊は我に返った。
「あ、そうなんです。今日は妻の方が仕事に出てまして」
「そうでしたか。奥様と育児を分担されているんですね」
「はい、まあ……田中さんの奥様も、お仕事で?」
「ああ、そうなんですよ。今日はリモート会議があるそうで、ちょっと二人とも家を追い出されました」
「へー、リモート!」
コロナ禍から、リモート出勤可の企業も増えたと聞く。
(美樹がリモートしてくれると、こっちも仕事に出られて楽なんだけどなぁ)
だが接客業はリモートが出来ないので無理である。
(悠斗だって学童と習い事疲れで、こんな我儘を言い出さなかっただろうし)
夫婦のすれ違いは勤務時間のすれ違いで起こるのだと、武尊は疑わなかった。
「いいですね。リモート出勤が認められていると、奥様にも気持ちの余裕があるでしょう?」
翔馬は怪訝な顔をした。
「えっ。そうですかね?」
「女性は家にいた方が疲れないでしょう。育児と仕事のバランスも取れるし……」
「?」
「お子さんも落ち着きますよね」
「???」
翔馬は眉間の皺をさらに深くして反論した。
「別にそんなこと、ないですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「家に居ようが出勤しようが、仕事は仕事です。どっちも真剣にやってるんだからキツいことに変わりはないですよ」
「でも、家だからな~」
「うーん?大城さんは、家での仕事は楽だと思ってます?」
「そりゃ楽じゃないですか?他人と接しなくていいし」
「リモート会議は他人と接しますが」
「ああ、まあ、そうですね……」
「楽な仕事なんてないですよ。何だって、それなりに疲れるものでしょう」
武尊はなぜ翔馬がこんなことを言うのか分からず、不思議そうな顔で相手を見つめていた。
陣と悠斗はコンビニ弁当を平らげると、鉄棒で逆上がりを披露し始めた。その悪びれない様子を見つめながら、武尊は内心イライラした。
(悠斗のヤツ……明日はちゃんと学校に行くんだろうな?)
このまま育児を押し付けられたら、仕事は溜まる一方になってしまう。下手に息子に学校以外の居場所を作られてしまうと、登校しなくなるかもしれない。
「悠斗、そろそろ帰るぞ」
武尊が唐突にそう言い出して、悠斗は口を尖らせた。
「えー?何で?」
「何でもだっ」
翔馬は目こそ見えないが、見守っている。
ふと陣が口を開いた。
「大城、また遊ぼうぜ」
武尊はそれを聞いて目を吊り上げたが、翔馬は何も見えていない。悠斗は父の苛立ちを察してうつむいてしまった。
「あれ。どうしたの?ねえ、大城ってば」
「また遊ぼうな、田中」
「うん!」
悠斗は父親に引きずられるようにして公園を出て行った。
一方その頃。
頼子は編集者・早瀬とのリモート会議で、驚きに目を見開いていた。
「えっ!?私がOK出した全ての原作者さんから、コミカライズを断られたっていうんですか!?」
「はい。私としましても異例の出来事で、ちょっと困っておりまして……」
「原作者さんからお話は聞いてますか?理由があるとしたら、何でしょうか?」
すると早瀬は少し悩んでから口を開いた。
「……絵柄が古いそうなんです」
「え……!」
「どの原作者さんも若い方で……そう感じるようです。僕はそうは思わないんですが」
フォローが入ったものの、仕事が取れないことに変わりはない。頼子は愕然とした。
(そんな……!このままじゃ、陣の教育費用が……!)




