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私を〝ママ友〟と呼ばないで下さい  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
それぞれの事情

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14/21

14.塾、どこにする?

 一方その頃。


 美樹は学童に悠斗を迎えに行くついでに、学童のチラシコーナーから塾のパンフレットをゲットしていた。


 夜道を歩きながら、美樹は息子に語りかける。


「塾に通えば、悠斗はもっと頭よくなっちゃうわよ~」


 悠斗は黙っている。


「もっといい中学行きたくない?大学付属中学なら、大学まで入試無しで行けるらしいわよ!」


 悠斗は黙っている。


「ちょっと塾の見学に行ってみようか。バスで送迎してくれるんですってよ!」


 すると、ようやく悠斗が口を開いた。


「嫌だ」


 途端に美樹は口をへの字に曲げる。


「何で?塾に行ってくれなきゃ困るわよ~」


 悠斗ははっきりとこう言った。


「僕は困らない。困るのは、パパとママでしょ」


 美樹は呆れたようにため息をついた。


「はあ~。そうよ、困るから塾に行ってちょうだい。悠斗、分かるでしょ?」

「……何が」

「パパとママの仕事のことよ!預け先がないんだから、仕方ないのよ」

「……」

「あっ、そうか。中学受験が嫌なのね?それならとにかく、塾に通ってくれさえすればいいわ。頭も良くなるし、いいことづくめじゃない」


 すると悠斗はこう吐き捨てる。


「僕には、何もいいことがない!」


 美樹は笑い飛ばした。


「何言ってるの。悠斗が東京で不自由なく幸せな暮らしが出来るのはね、パパとママが働いているからなの。もしどちらかが働けなくなったら、途端にこんな生活は立ち行かなくなるわよ?」

「……」

「それにね、悠斗の将来も、親の収入で決まってしまうのよ。貧乏なら借金して進学しなくちゃならなくて、返済にとーっても時間がかかるの!おじさんになっても借金を払い続ける生活になっちゃうわよ」

「……」

「悠斗、これが賢いやり方なの。分かってくれるでしょ?」


 すると悠斗は減らず口を叩いた。


「いいよ。借金する。だから塾には行きたくない」


 美樹はそこでようやくうろたえ始めた。悠斗は赤ちゃんの頃から非常に聞き分けがよく、全く手のかからない子どもで、親に口ごたえなどしたことがなかったのだ。


 なぜ今まで言うことを聞いていたのに、塾にだけは行きたがらないのだろうか?


(……どうしよっかな)


 美樹は疲れた頭を働かせた。


「そうだ。お友達と一緒に行けばいいんじゃない?」


 美樹もかつて、親に言われた習い事を拒否したことがあった。結局その後、友達が行っている教室へ一緒に通うようになったのだ。


 再び悠斗は黙ってしまった。美樹はそれを〝折れた〟と解釈し、更に畳みかける。


「お友達と一緒なら、きっと楽しくなって来るはずよ。そうね、きっとそうよ」


 悠斗は黙っている。


 美樹はその沈黙を〝同意〟とみなした。




 悠斗が寝静まってから、美樹は武尊と通塾について話し合う。


「……っていうわけなのよ。なんだかすごく嫌がるもんだから、お友達と一緒に行ったら?って提案したの」

「ふーん、そしたら悠斗は何て?」

「黙っちゃった。でも、行って貰わないとこっちが困るんだから」

「ま、そうだよな……」


 親としては背に腹は代えられない。悠斗に我慢してもらうしかない。


「一人っ子でもこんなに大変なんだから、そりゃ少子化は解決しないよな」

「中学受験させたがる親が増えるのも無理はないわ、親が教育している暇がないもの。私立なら情操教育がしっかりしているだろうから、放り込んどけばOKってなところがあるわよね」

「手間を省かなきゃ、人生やってらんないよ……」


 美樹はビール缶を開けながら、ふと考える。


 お金に余裕が生まれれば生まれるほど、なぜか暇が無くなって行くのだ。そして暇が増えればあっという間に生活が困窮してしまう。


 なのに子育てには圧倒的に時間がかかる。だから育児世帯が困窮するのも無理はないのだ。のんびりしたいらしい息子には悪いが、両親ががむしゃらに働かないとその先にあるのは一家離散、そして死だ。


 と、そこまで考えて気づいた。


(あら……?私ったら、ずいぶん思考が短絡的になってるわねぇ)


 美樹はアルコールで不安を誤魔化しながら、その不安の正体を自分なりに言語化した。


(私、疲れてるのね)


 それっきり、美樹は考えるのをやめる。くよくよ悩むのは、自分らしくない。


「さーて。話もまとまったし、早速塾に申し込むわよ!」

「行ってくれるといいな」

「行って貰わないと困るのよ。私たちの生活がかかってるんだから!」


 美樹の手に思わず力が入り、ビール缶は軽くひしゃげた。

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― 新着の感想 ―
まあ、子どもは将来のことより今を大事にしますよね( ˘ω˘ )
子どもに「理由を教えて?」と言えないのか……。
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