12.編集者との打ち合わせ
頼子はようやく重い腰を上げた。
陣も、もう大きい。そろそろ本格的に仕事を再開してもいいだろう。
そうと決まれば、早速営業活動だ。
今まで単発コミカライズで作って来た〝営業先〟に、自身を売り込みに行く。
定型文を作り、ポートレートを添付して各社の担当編集者に営業爆撃を仕掛けた。現在はどこもコミカライズ漫画家不足と聞いている。そのブルーオーシャンに網を投げ、いい作品があれば是非ゲットしたい。
その間に、自分自身でもネタを作っておく。
(二の矢、三の矢で学費を稼ぐのだ!)
今の頼子に、怖いものなどない。
数週間後。
早速、仕事の相談をしたいという出版社が現れた。
返事をくれたのは、以前単発コミカライズで共に作業したことのある男性編集者だった。
顔合わせの約束を取り付ける。頼子は編集者とは直接顔を合わせておく主義なのだ。
久々に慣れない化粧をし、少し気合の入ったパンツスーツに着替える。
一応、名刺も作っておいた。
陣の入学式用に購入した本革の重たいバッグとスプリングコートを引っ張り出し、一張羅という一張羅を全て纏う。
約束したのは、電車で一本の場所にある、出版社にほど近い喫茶店だった。
頼子が喫茶店に入るなり、
「あっ。雨貝先生、お久しぶりです!」
喫茶店の奥の方で、編集者が手を振って来る。頼子は馴染みの顔に少し笑顔を取り戻した。
この編集者は頼子より十歳ほど若い。編集者なのでかしこまった格好はしておらず、バンドTシャツにカーゴパンツというラフな出で立ちだった。髪をアニメキャラみたいに青く染めている。名を早瀬といった。
二人はコーヒーを頼むと、話し込んだ。
「早瀬さん、お久しぶりです~。〝海苔令嬢〟以来でしたっけ?」
「そうです、そうです。その前は〝就活令嬢〟でしたよね?」
「お世話になっております~」
彼は特にトラブルなどになったことのない、レスポンスも早い、やりやすい編集者だった。だからこそ、また一緒に仕事をしたいと思ったのだ。
「ちょうどよかった。今、いい漫画家さんを探していたところだったんです」
「次はどういったジャンルの原作ですか?」
「いくつか持ってきています。最近は漫画家さん不足で、原作を選んでいただける状態なんですよ」
早瀬は企画書をいくつか取り出した。
頼子はそれを受け取り、じっくりと読み込んだ。
どれも作画カロリーの高そうな令嬢モノである。最近の頼子が多く手掛けてきたものだ。
頼子は尋ねた。
「これ、原作はWeb上にありますか?」
「はい。全部、原作はネット小説です」
「へー」
「どれも20万字ほどなので、単行本だと5冊くらいに収まるかと」
頼子はふむふむと頷いた。
「ああ、それぐらいなんですね……5冊で切りよく終わるなら、いいですね」
「どれも完結作品なので、引き延ばしをしない予定でいます。最近は完結作品を読みたいというニーズもあるんですよ」
「ああ!少年漫画も最近、その傾向ですよね」
「とりあえずWeb上の小説を読んでみて、一番よさそうな原作があったら教えてください」
頼子は4作品をブックマークした。
「では読んでみて、一番よかった作品からお返事させてもらいますね」
「お返事お待ちしております!」
二人は喫茶店を出ると、ネタ出しの続きをしながら駅まで一緒に歩いた。
改札の前でお別れだ。
「じゃあ、また」
声が重なって、少し気まずさを残しながら互いに頭を下げつつ去って行く。
頼子が改札に入った、その時だった。
改札の向こうに──仁王立ちでこちらを見つめる、玲がいたのだ。




