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【WEB版】だから違うと言ってるでしょう  作者: 錫乃


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【書籍発売記念SS】兄と弟

書籍化記念のSS。今回はミハイルとオーブリー、二人のお話。



私が七歳になった年の春先、生まれてからずっと領地にいた弟が王都の侯爵家本邸へとやってきた。


リンデルト侯爵領には母の実家もある。私の時にも、母は王都ではなくリンデルトに戻って出産したのだそうだ。

ただ、オーブリーは魔力量の高さから生後すぐから体調が思わしくなかった。

そのため、王都に戻ってくることができないままリンデルトで育った彼は、体調が落ち着いた五歳の春にようやく母と共に本邸に来ることが出来たのだ。

それまで、リンデルト領城館を訪れて赤ん坊の顔は見てはいた。だが、とにかく身体が弱くすぐに熱を出したり腹を下したりする子で、あまり近くに寄らせてはもらえなかった。オーブリーの体調が変化するたび右往左往する両親を見ると、幼心にも自分がここにいては邪魔になるのではと感じて、あまり長居はせず王都の本邸に帰るようにしていた。

だから、オーブリーがリンデルト領から王都へ来ると聞いた時も、母の腕に抱かれたオーブリーが侯爵家本邸の玄関ホールにいるという状況になった時点でも、現実感が持てずにいた。

王都とリンデルト領に離れて暮らしている間、通信魔道具で顔を見ながら話をしていた母が目の前にいることすらなんだか不思議な感じだった。


「これからは兄弟二人、いつも一緒よ」


母が目に涙を浮かべながら言うのに、黙って頷く。

物心ついた時にはもう母は通信魔道具越しの存在で、どんな風な顔をして、どんな風に接したらいいのか、正直わからなかった。

唯一、王都の侯爵邸で一緒に居た(月の半分近くは留守だったけど)父を見遣るが、母とオーブリーを見る優しい表情は私がこれまで見て来た父とは違っている気がして。


父と母と弟と、そしてその輪の中に入りきれない自分。


なぜだか無性に逃げ出したくなったその時、温かくふっくらした小さな二つの手が伸びてきて私の両頬に触れた。


「…………る」

「る?」

「さわれる……ぼくのあにうえだ、ほんとにいたっ」

「え……?」


私とよく似た色の大きな瞳いっぱいに涙を浮かべてオーブリーが言った。

何のことだかわからずに戸惑っていると、父と母が苦笑しながら説明してくれた。


「肖像画と、通信魔道具越しにしか会ったことが無かったから、ミハイルが本当にいるのかいまいち信じられなかったみたい。

こうして直接会えるのを本当にとても楽しみにしていたのよ」

「えー……」


理由を聞いてもますます戸惑うばかりの私の頬にぺたぺたと両手でさわりながら、オーブリーはぽろぽろ涙をこぼしている。


「ほんとだぁ、ほんとにあにうえいたぁ……うれしい、ぼくのあにうえだぁ」


ぷくぷくした頬を伝う大粒の涙をポケットから取り出したハンカチで拭ってやる。短い腕が伸びてきてぎゅうっと抱き着かれたので、そのまま母上から引き取って腕に抱えた。

リンデルト領を出て王都に来れるほど体調が回復したとはいえ、弟の身体はまだまだ細く、子供の私でも支えられるほど軽かった。

舌ったらずな高い声であにうえと呼びながらしがみついてくる小さな弟に、戸惑いも、勝手に感じていた疎外感も、溶けて消えていった。


「うん、私がお前の兄のミハイルだよ、オーブリー」

「あにうえぇ……う゛えぇえん」


自分は家族の中の異分子かもしれない、という思いは、それからも長く私の心に留まることになる。

それでもこの小さくか弱く、愛らしい弟を全力で守ってやろうと思ったのは、まぎれもない本心だった────



「……それにしてもまぁ、ずいぶん頑丈にたくましく育ったものだな」


剣の鍛錬をしていた弟を見ながら幼い頃の思い出を振り返りつつ感慨深く呟いた。

午前の仕事が早めに片付いたので本邸に戻ってきた。いつもならまず帰邸してすぐ妻の所に向かうのだが、オーブリーが鍛錬場にいると聞いたのでふいに思い立って覗きに来たのだ。


王都に来てから、オーブリーは見る見るうちに元気になっていった。もともと勉学より身体を動かす方が性に合っていたのもあり、騎士としての実力をメキメキ上げていくうち、ひ弱だった幼少期の記憶など消し飛ぶほど頑強に育った。

育ちすぎて今では私の背を軽く越え、王立騎士団の第四師団で副師団長を務める騎士になった。周囲の手助けもあったが、何より本人の努力の結果辿り着けている現在(いま)である。たいしたものだと思う。


「兄上っ!」


私の存在に気付いたオーブリーがぱぁっと満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。さきほど「よくぞここまで大きく育ったもんだ」と思ったばかりだが、人懐っこい性格はあい変わらずだ。

家族の前ではいつまでも子供っぽいオーブリーだが、外ではしっかりしているそうだからなんだか不思議だ。


「おかえりなさい! ここに顔を出すなんて珍しいね!

あっ、久々に手合わせする!?」

「いや、今じゃもう私では相手にならんだろう。怪我してオーロラに叱られたくない」

「ええー??」

「今日は午後からの勤務か?」

「うん。

週末だからリントも帰ってくるでしょ? だから明日は休みを取るつもり」


妻の弟であるリント・バーリエを、オーブリーは弟子だと言いながら稽古を付けたり、なにかにつけ構ったりしている。


「どっちが懐いているんだかわからんな……」

「なに? 兄上?」

「……なんでもない。昼食、一緒にどうだ?」

「じゃあシャワー浴びてから食堂に行くね!」

「ああ」


使用人に湯の準備を頼みながら元気よく自室に向かうオーブリーの後姿を苦笑しながら見送ってから、私はあらためて妻の所へと向かったのだった。


天真爛漫なちびオーブリーにミハイル少年即落ち(笑)

王都にいるミハイルの成長が見たい夫人は、映像と音声を送れる魔道具を用意してもらうほか、月に一枚はミハイルの日常生活を描いた肖像画を送ってもらっておりました。

オーブリーが見ていたのは母によるミハイルコレクションです。

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