11.5
◇◆ロイ◇◆
「ロイ、今から話す事は国の上の人しか知らない事なの。秘密にしてね」
「……国の大事を私が聞いてもよいのでしたら、秘密は必ず守ります」
いったいどれほどの事だろう!
一瞬ビビったけれど、聖女様より大事はないと思い直す。
聖女様は真っ直ぐ俺を見て、告げられた。
「私ね、今日の祝賀会を終えたら、明日エミルに元の世界に帰してもらうの」
「…………」
やっぱりお帰りになるのか!
しかも明日?!
そうかもしれないと思っていても、本人に告げられると衝撃はでかかった。
もう、お会いできなくなる……
心に、ポッカリ穴が空いたなんてもんじゃない。ごっそり空いた。いや、ほぼ穴だ!
聖女様とお別れするのは嫌だ。
どうしてもどうしても嫌だ。
だけど…。
お国に帰りたいとお望みの聖女様を、引き留めてはいけない。
聖女様は我が国のためにお越しくださったのだ。
聖女様がお出でくださった当初、コンラード副団長から、聖女様は縁も義理もない我らのためにお出でくださった、誠心誠意務めるようにと達せられていた。
聖女様は我が国と、ついでに隣国までお救いくださったのだ。
そう、聖女様がお帰りになられるならば……
「ロイにはたくさん助けてもらったし。あぁ、助けてくれたのは第二騎士団のみんなもそうだけど。でも個人的に仲良かったと思ってるし…。
そうそう!一年前の祝賀会ではロイがエスコートしてくれたりね!
……今まで本当にありがとね」
!!!!!
身に余る光栄!!
俺が勝手に思っていた事を、聖女様も感じていてくださったとは!!
勇気が湧いた。
勇気以外の、何だかわからない力もみなぎってくる。
聖女様がお国に帰られるというのなら、俺がお供をすればいいのだ!
どうやってとか、まったくわからないけど!
どうにかしてお側にいられるようにすると、強く決意した。
聖女様がお国に帰られてしまった。
聖女様をお見送りできるのは第二王子殿下と騎士団や魔法使団の上の方々だけだ。平の俺はいつも通り訓練をしているしかなかった。
それでも、聖女様のご帰還をご本人から告げていただけたのは幸せだったのだろう。
副団長から、聖女様がもういないと告げられた皆は、言葉と顔色をなくした。
聖女様がお帰りになってしまうなら、日々感謝は申し上げていたけど、それでももう一度感謝を申し上げたかった。お別れのご挨拶を申し上げたかったと、皆顔を歪ませた。
その気持ちはわかる。俺だって皆と同じだったらそうなっていただろう。
聖女様、ありがとうございました。
聖女様がもういないと思うと哀しくて、空いたままの穴は広がるばかりですが、聖女様が直接告げてくださったおかげで、気持ちを強くもって考えられました。
これから俺がやる事を見つけました!
聖女様がお帰りになられて落ち着いた頃、俺はエミル様に面会の申請をした。
エミル様は大陸で当代一と称される方だ。忙しくされていて、一介の騎士などと会ってくださるにはずいぶん待つだろうと思っていたのに、翌日には実現した。
「話を聞こう。時間がない、簡潔に」
魔法使団トップの部屋に通されて緊張していると、開口一番そう言われた。
その目は“愚図は嫌いだ”といっている。
「お願いします!私を聖女様の元に送ってください!」
大急ぎで言った。簡潔すぎたか?!
エミル様はジッと俺を見た。
「こちらの世界の者を聖女様の世界に送る事は、理論上はできる。それを実現できるかはわかない。できたとしても、実現するまでにどのくらいの年月がかかるかもわからない。それでも待つか?」
「待ちます!」
「できなかったら生涯を棒に振る事になるが」
「それでも待ちます!俺、私にはそれしかできませんから!」
「……ではやってみよう」
俺の願いはあっけなく承諾された。
エミル様とは約二年、共に浄化の旅をしてきたけれど、とくに話した事はない。
俺の顔を憶えてくれているかさえ定かではないと思っていたのに。
「あの…、とてもありがたいのですが、理由もきかずに、何故?」
不思議に思って問うと、
「我らの国は聖女様に救われた。聖女様は莫大な財貨もウィリディスの復興にとすべて置いていかれた。
ただひとつ、ちっぽけな首飾りのみをお持ちになって。
……聖女様の望みは、できるだけ叶えて差し上げたい」
カッと、身体中が熱くなった。
聖女様!必ずお側に参ります!!
……エミル様頼みだけど。
俺は志願して、第二騎士団から新たにできた復興支援の第八騎士団に移った。
聖女様が救ってくださった国だ、よりよい国にしたかった。
剣技より体力勝負の職場だったけど、第二騎士団から移った奴らも多く、充実した毎日だ。
いつエミル様に呼ばれてもいいように、実家にも一度帰った。
この世界からいなくなるという事は、死に別れるようなものかと一応別れを告げに。
両親と兄たちからは、聖女様にしっかり仕えるようにと背中を押された。そうだ、こういう家族だった。これで心残りは無い。
思い残す事がないよう、日々職務に励んでいる。持ち物は少ない。
エミル様、いつでも行けます!
王都の方向の空を仰いで、一日でも早くと願う。
そうして、エミル様に呼ばれるまで七年の年月が流れた。




