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◇◆ロイ◇◆
「待たせた」
「いえ!ありがとうございます!」
いつかのエミル様の部屋で、あの時と同じに挨拶なしで本題に入る。
「魔法陣は完ぺきに構築できたが、問題がひとつある」
「なんですか?」
「聖女様の世界から聖女様は無事にこちらにお出でなされたが、こちらの世界の者が無事にあちらの世界に行きつけるかがわからない事だ。
前例もない、聖女様のような言い伝えもない。もしかしたら界渡りできず、命を落とすかもしれない」
あの方に会えず死ぬのは嫌だ。
だけどそれしか方法がないのなら、……行くしかないだろう!
「死なずに聖女様の元に行けるかもしれないんですよね?」
「あぁ。だが言った通り何もわからない。最悪、肉体の死だけではなく魂の消滅までありうる。それでも行くか?」
「行きます!聖女様に会えないのなら死んだと同じですから!」
エミル様は薄く笑った。
「羨ましい。私は自分を送れないからな」
「……エミル様の分も聖女様にお仕えします!!」
こうして聖女様の世界に旅立てる事になった。
召喚の間には、エミル様と第二王子殿下、コンラード第二騎士団団長(副団長から団長になった)スヴェン様が見送りに来てくださった。
「聖女様がこちらの世界から持っていかれた物が、ロイ・アルダールを導くだろう。その時を待つように」
「はい」
エミル様から言われる。
こっちの世界から持っていかれた、たったひとつの物。俺が贈った首飾り。
それを聞いて、七年の間気持ちを強くもつ事が出来た。
「聖女様によく仕えるよう」
「はい」
殿下は、国中のすべての者の思いを込めておっしゃられた。
「鍛錬を怠らないように。いつでもどんな時でも聖女様をお守りするように」
「はい」
コンラード団長が低い声で言う。
眼光鋭く、ますます強くなられたようだ。
俺も精進します!
「ルイーセは幸せだと、聖女様にお伝えしてほしい」
「はい」
驚いた事に、ルイーセ様はスヴェン様と再婚された。
お子を成せないルイーセ様に、自分は次男で家を継ぐ事はないからと、スヴェン様が何年もかけて熱心に口説き落としたとの事だ。(第二騎士団にいるオッド情報)
「ではいってまいります」
エミル様が詠唱を始めると、俺は虹色の光に包まれた。
ふと気づくと、何か、重力のない空間を漂っていた。
目は閉じているのか、開いているのに見えないのか、何も見えない。
そういえば身体の感覚もない。
俺は、 ……死んだのか?
ゾッとした。
けど、覚悟はしていた。
ただ、死んでも、魂だけになっても、聖女様のお側にいきたい。
叶うなら、何らかの形でお守りしたい。
そう思っているのに、意識も薄れ始める。
嫌だ!死んだのならそれは諦める!
だけど俺の魂はあの方のものだ!あの方の元にいくんだ!
俺は、もう一度あの方にお会いするために七年がんばってきたんだ!!
聖女様! 聖女様!
……葵様!
“ロイ…”
聖女様!
“君とずっと一緒にいたかったなぁ…”
俺もです!
いや!俺はずっと一緒にいたいです!!
聖女様の声が聞こえた。涙が出るほど懐かしいお声だ。
不思議な事に、それは聖女様の想いだとわかった。
“ロイ大好きだよ。”
あぁ!あぁ!!
俺も!俺もお慕いしております!!
お伝えすればよかった!
いや、お伝えすればいいんだ!
絶対に絶対に
聖女様にお会いするまで諦めない
直接お名前を呼んで、できる事なら想いをお伝えするまでは―――
世界を渡る程の想いが奇跡を呼んだのか。
聖女様の世界にたどり着いた俺の魂は、記憶を持ったまま生まれ変わった。
両親は北欧人だけど、仕事のために日本に在住していた。
聖女様!きちんと戸籍があります!聖女様と同じ都内に住んでます!
鏡で見る自分の顔は、成長するにつれ見慣れたロイになっていく。偶然か、名前もロイだ。
この世界に生まれて、この世界の事を学んだ。
言われていたとおり騎士職はなかったけど、大学を卒業して自分に合った職にもつけた。
スポーツクラブで毎日子供相手にがんばっている。
ウィリディスでのロイのすべてを置いて、命を懸けて界渡りしてきたのだ。聖女様に会いたくてたまらない筈なのに“まだその時じゃない”という思いがある。
エミル様が、聖女様がウィリディスからお帰りになった後でないと俺との記憶がないといっていたから、きっとそういう事なのだろう。
この世界に来て二十四年が過ぎた。
ウィリディスで聖女様と初めて会った二十四歳になったある日、導かれるようにどこかを目指した。
たどり着いた先には、少し外観が古いマンション。
オートロックではないんだな。不用心だ、すぐに越してこなければ。
エレベーターで五階に上がる。
外廊下を進むと、バタン!とドアの音がした。
見ると、半身を乗り出したまま止まっているのはーーー
「葵様」
やっと呼べた、愛しい人の名前。
勢いよく振り向いた葵様の顔を一生忘れない。
最初に驚いた後、嬉しい、切ない、嬉しい、愛しい、グルグル表情が変わる。
「ロイ?」
「はい」
「ほんとにロイ?」
「はい」
「ほんとに本物のロイ?」
「はい。あなた様のロイです」
葵様は(何故か)おかしそうに、笑顔になった。
◇◆エピローグ◇◆
あの後、どうしても話が聞きたくて会社を休んでしまった。
仕事も落ち着いていたし、上司からはたまった有給を消化するように言われていたから、まぁよしとしよう!
「で、どういう事なの?」
ロイを部屋に招き入れて、お茶を出したところで(ロイが淹れると言ったけど座らせておいた)尋ねた。
ロイは控え目に部屋を見回していたけど、私が帰還してからの(って、私的にはついさっきだけど!)事を話してくれた。
エミルの魔法を待って七年とか!
こっちの世界に来て二十四年とか!
合わせて三十年以上の間、私を想ってくれていたとか!
私がなくせなかった、生まれ育った世界のすべてを、ロイは全部置いて私の元に来てくれたとか!
眩暈がするような内容は、お昼を過ぎるまで語られた。
「なんというか…、まぁ…」
ところどころ相槌や質問なんかもしていたけど、最後に私は絶句した。
「私がお訪ねした事、ご迷惑でしたでしょうか…。
こちらの世界に生まれ変わって、こちらの世界の事を学びました。日本に生きる葵様が、それまでの日常で暮らしていくのでしたら、あちらの世界の事…、私の事も、目覚めた後の夢のように忘れていく事なのかもしれないとも考えました。ですが、私は…」
ロイはだんだんと俯いていく。
不安に絶望を混ぜたような声は、だんだんと小さくなって、途切れてしまった。
なんでそうなる!
「いや、驚いただけよ。だって私はエミルに送ってもらった一瞬後にロイが現れたのよ?もう二度と会えないと思っていたロイに。あなたには考える時間が十分あったでしょうけど、私はそんな時間なかったし。まず混乱するでしょ」
え…。 と、ロイは顔を上げた。
そんなシュンとしていなさんな。
私は笑顔になった。
やっと、想う人に告げられるのだ。
「ずっと言いたかったの。というか、日本だったら言ってたわ! ロイ、大好き!」
ロイは一瞬で真っ赤になった。
何か言おうと口をパクパクしてるから、追加してみた♪
「私のために世界を渡って来てくれてありがとう!こっちに来た事を後悔させないくらい幸せにするから……、付き」
「ずっとお慕いしておりました! 葵様!生涯お側でお守りさせてください!!」
最後ちょっと照れて言いよどんだ隙に、ロイにプロポーズされたよ!
生涯側でってプロポーズの言葉だよね?
お付き合いをすっ飛ばしていきなり結婚か!
「それってプロポーズと受け取っていいのかな?」
「!!!!!」
意図してなかったのか、相変わらずちょっと抜けてるなぁ。
自分で言ったくせに、さらに赤くなって固まった人を見る。
三十年以上も私を想ってくれた一途な人だ。浮気の心配はないだろう。
命を懸けて世界を渡ってきてくれたのだ、ロイの愛情は深い。その愛情に応えたい。
というか、あんな話を聞いて愛さずにはいられないでしょう!
返事は一択!
「はい!喜んで!」
数多ある物語の中から、目を止め読んでくださってありがとうございました。
0話の登場人物紹介の後書きでもお伝えしましたが、一年越しのお約束『聖女といわれても』の続編をお届けする事ができまして、ホッとしております。
こういうお話がない訳ではありませんが、まだまだ少ないですよね。
恋をとらず元の世界に帰る!という主人公を読みたくて、少数派に名を連ねてみました♪
葵さんとロイの物語は、こんなハッピーエンドで完結です。
楽しんでいただけたなら幸いです^^
長くなりました。ではいつものご挨拶を♪
ブックマークがついた時は、いつも!とても嬉しいです!
誤字脱字報告もありがとうございます!
もしも気に入ってくださったなら、次回作でまたお会いしましょう。




