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「ロイ、今から話す事は国の上の人しか知らないの。秘密にしてね」
「……国の大事を私が聞いてもよいのでしたら、秘密は必ず守ります」
考えたのは一瞬で、ロイはすぐに答えた。
「私ね、今日の祝賀会を終えたら、明日エミルに元の世界に帰してもらうの」
「…………」
あら固まった。
ごっそりと表情の抜けた顔をしている。
そんなにショックだったかぁ。
うん、まぁ、わかる気はするよ。
私はロイを好きだけど、ロイも私を好きだよね。
聖女様への信仰心とはちゃんと別の気持ちで。
これはずうずうしい勘違いとか、思い上がりなんかじゃなくて真実だ。
それなりに人間関係を築いてきたし、それなりに人生経験もあるアラサーなら、言わなくても分かる事ってある。
それを伝え合うかどうかはまた別の話で。
「ロイにはたくさん助けてもらったし。あぁ、助けてくれたのは第二騎士団のみんなもそうだけど。でも個人的に仲良かったと思ってるし…。
そうそう!一年前の祝賀会ではロイがエスコートしてくれたりね!
……今まで本当にありがとね」
思いつくままつらつらと言葉を続けたけど、なんと言っていいかわからなくなって、口を閉じた。
ロイは固まったままだ。
お~い、聞いてるか~?
「せ…」
ん?
「聖女様は…、お国に、帰られる事をお望みなのですね?」
「うん、まぁね…」
ロイは哀しそう、じゃなくて!
何やら強く決意を込めた顔になった。
「でしたら!何としても私が聖女様のお国に参ります!そして聖女様をお側でお守りします!!」
そうきたかー!
ロイらしい考えに笑ってしまう。
まったく君って人は!
「もし来られても、私の暮らす国には騎士の職業はないよ?」
私は笑いながら言う。
「商人でも農夫でもかまいません!」
「戸籍がなかったら就職するのは厳しいよ?私の暮らす国はその辺きっちりしてるから」
「なぁに大丈夫です!どこの国にでも闇商人はいるものです。戸籍も…、はっ!天上界にはそのような薄汚れた者などいないでしょう!困った!!」
実現しない話を一生懸命してくれる。
そうまでして私と一緒にいたいと伝えてくれる。
ありがとう。嬉しさで心が一杯になる。
あぁ、この人が好きだ。
手を伸ばせば触れられる距離にいる、こんなに好きな人を抱きしめたい!キスなんかもしちゃいたい!しないけど!
私、本当にロイが好きだわ。
嬉しいのに、泣けちゃうような思いも込み上げる。
だけど
私たちは想いを伝え合う事はなく。
それからもう少しだけ、このとりとめもない会話を続けた。
この想いは、きっとずっと、温かく心に残るだろう。
翌日、いつも通りの朝を過ごす。
ルイーセに起こされて、身支度をして、朝ご飯をいただく。
侍女ちゃんが食器を下げに行って二人きりになった少しの間に、ルイーセに最後の挨拶をした。
「今まで本当にありがとう。ルイーセの事はずっと忘れない」
「聖女様!私こそ身に余る幸せな日々をありがとうございました。お身体にお気をつけになって、どうぞお健やかにお過ごしください。
ルイーセも聖女様をずっと思っています」
最後ちょっと百合チックな言葉が聞こえた気がしたぞ?
ふむ…。
うん、友達には知っておいてもらおうか♪
「ルイーセ、私の名前ね、葵っていうの。彼しか知らないから、ルイーセも内緒にしてね♪」
「!!!!!!」
ルイーセは感極まって泣き出した。
後から後から涙があふれてくる。
やだなぁ、昨日から泣き通しじゃない。
「ルイーセ泣かないで。美人が台無しよ」
「聖女様ったら…」
お、ノックの音。
迎えが来たようだ。
「じゃあ行くね。ルイーセ元気で、ルイーセの幸せを祈ってる!」
「聖、 ……葵様も、どうぞお元気で。私も幸せをお祈りいたしております」
最後に一度ハグをして、迎えに来たアルベルトと歩き出した。
召喚の間には侍女は入れない。ルイーセとはここでさよならだ。
またね、とは言えない。
ルイーセ、心からありがとう。
召喚の間に入る前に、私は約二年前の召喚時に着ていたオレンジ色のスーツに着替えた。
下着もストッキングも靴もカバンもメイドインジャパンだ。(日本製じゃないのもあるかもだけど)
この世界で荒稼ぎした(言い方!)そうとう額のお金は全部置いていく。
宝石にしてお持ちになってはと言われたけど、それも断った。
お金や宝石なんか、換金して私以外の人が触れた時にどんな障害がおこるかわからないからね。用心に越したことはない。
私は触って大丈夫だけど、それもこの世界にいる間だけかもしれないし。
だけどただ一つ。
ロイからもらったペンダントだけは置いていけなかった。これだけは持っていきたい。
この世界から身につけていけば…、何とか、ならないかな?
ならなかったら、その時はその時だ。
「では、聖女様。魔法陣の上にお立ちください」
「うん」
少し高くなった台座に上げてもらうと、私はみんなを見渡した。
召喚された時はいきなりの事に驚いて、何が何やらわからないままはったりをかましたっけ。
何だか懐かしい。
聖女様…。聖女様…。
前と違うのは、周りから哀しむ声が聞こえる事だ。
それと、魔法使いっぽいローブたちとか、王子様っぽい男の子とか、騎士っぽい男たちとか思った、見ず知らずのこの人たちが、苦楽を共にしてきた仲間になっている事。
まぁしゃべった事のない人もいるけどさ。
「世話になりました。私は国に帰りますが、皆の幸せとウィリディスの繁栄を祈っています」
最後なのでそれっぽく言ってみた♪
「「聖女様!!」」
「聖女様!ありがとうございました!!」
「我が国をお救いくださいましてありがとうございました!!」
聖女コールとありがとうコールが続く中、アルベルトが胸に手を当てて深く腰を折った。
それは次々と周りに広がっていって、最後にエミルがそうしたと思ったら
私は虹色の光に包まれた。
ふわりとした浮遊感。
不思議と、この世界からいなくなるんだと実感する。
ロイ…
君とずっと一緒にいたかったなぁ…
やっぱり好きって伝えればよかったかな
ロイ大好きだよ。
目の前の光が収まると―――
懐かしい景色が見えた。
私は右手でドアノブを持って外に半身を出した状態で止まっていた。
「帰ってきたんだ…」
あの朝、出社するために部屋のドアを開けたあの時に戻ってる!
エミルすごい!
寸分たがわず、あの瞬間だよ!!
なんだか、長い夢を見ていたようだな……
おっと!現実現実!遅刻しちゃうよ!
ドアを閉めて鍵をかけていると
「葵様」
聞きなれた声が聞こえた?!
反射のように振り向いて声の主を見る。
え…
「ロイ?」
「はい」
何故か目の前にロイがいた。
「ほんとにロイ?」
「はい」
「ほんとに本物のロイ?」
「はい。あなた様のロイです」
ロイだ。これは本物のロイだ。
騎士服ではないし、なんなら映画で見るような時代がかったシャツとズボンでもない。
こっちの世界の、普通にユニク〇っぽい服を着た若者姿のロイ。
「なんで?」
ロイは笑顔になった。
よく知っている、大好きな笑顔だ。
「何としても葵様のお国に参ると言いました」
「言ったけど!言ったけどさ!でも来るっていって来られるもんじゃないでしょ!」
「葵様への想いが再会を叶えたのです」
そんな事あるかぃ!
いや、ないとも言い切れないかもだけど!
いやいや、でもほんと… なんで?
「種明かしをすると、エミル様のおかげです」
「エミルかー!」
叫びながらロイに抱き着いた。
この後めちゃくちゃ驚く話を聞くのだけど、それはもう少し後の事。
もう二度と会えないと思っていたロイに会えたのだ。
まずは愛の告白をしましょうか♪




