10.5
◇◆ロイ◇◆
王都に戻って数日、今日は聖女様の偉業をたたえる祝賀会が開かれる。
約一年前にも、ウィリディスの澱みをすべて浄化し終えて祝賀会が開かれた。
その日はお恐れ多くもこの俺が!聖女様をエスコートさせていただいたのだ!
あまりの緊張に、飛びそうになる意識を何とかつなぎとめて、どうにか大役を務めた。と思う。
あんな緊張はもう二度と味わいたくないけれど、聖女様をエスコートできた栄誉は末代までの自慢になる!
いや、子孫を残す相手はいないのだが。
あの日の聖女様お綺麗だったなぁ…。
あまりの美しさに(聖女様はいつも美しいけど!)言葉を失ってただ見惚れた。
先に聖女様にお褒めいただき、やっと一言縛り出せたのは本心だ。
いつもだって白いワンピースをお召しだけど、ふんだんにほどこされた刺繍と宝石がちりばめられた真っ白なドレス姿の聖女様は神々しく、聖女様本来のお姿なのかもしれないと、少し距離を感じて淋しく思った。
そんな事を思い出しながら、式典用の騎士服を着て王宮に上がる。
聖女様、今日もお綺麗だろうなぁ。
今回は第二王子殿下が聖女様のエスコートをされる。
今日はじっくり聖女様を見られると思いながら、俺は大広間に整列する第二騎士団の列に並んだ。
諸々の授与も終わり、堅苦しい時間から華やかなパーティーの時間になった。
王宮の警備は第一騎士団が担っているけど、聖女様をお守りするのは俺たち第二騎士団だ。しっかりお側で護衛する。
とはいえ、全員で聖女様のお側にいるのも邪魔だからな。
俺たちは交代で、普段食べられない美味いものを食べに行ったりもしている。
そんな時間がしばらく続いて、少し赤いお顔をされた聖女様が
「少し席を外します。護衛は一人で」とおっしゃられた。
護衛は一人か!
みんな“自分を選んでください!”と熱い視線を送る。もちろん俺もだ!
「ロイ、お願い」
「はい」
一生分の幸運はまだ続いているのか、運よくお供を仰せつかって、聖女様とバルコニーに出る。
吹く風が気持ちいい。
聖女様は機嫌よくていらっしゃる。
しばらくたわいもない会話を交わす。
そのうち聖女様が、ジッと俺を見られた。
それが続く。
長い長い!! なんだ?どうした? 俺のどこか変なのか?
それともたんに酔っておられるだけか?
そうだとしてもこれは恥ずかしすぎる!!
「あの…、聖女様…」
「あ、ごめんごめん。ちょっとね」
聖女様からの視線が外れると、ホッとしたような、少し残念なような。
俺はどうしたらいいかわからない心持ちになって、そうだ!と思い出した。
懐から小さな包みを取り出す。
いつかの街歩きの時に聖女様が気に入られたように見えた首飾りだ。
お渡しできるかなんてわからなかったけど、もしも機会があったなら、贈らせていただきたいと思っていた。
ここだ!今だ!
がんばれロイ・アルダール!
「あの…、聖女様、もしよろしかったら、これを…。いつかの街歩きの時に、聖女様がお気に召したように見えたので…。
……あの、よろっ、よろしかったら、贈らせて、ください」
女性に贈り物なんて初めてで、めちゃくちゃ緊張した!目が泳いでいるのか手が震えて見える。かんだし。
「あ、これ…。
ありがとう!これ、ちょっとほしかったのよ!よくわかったわね!」
聖女様は喜んで受け取ってくださった!
よかった!やっぱり聖女様はこの首飾りをお気に召していたんだ!勘違いじゃなくてよかった!
俺はホッとしたのと、聖女様に喜んでいただけたのでとても嬉しくなった。
だけどその後の聖女様の、
「本当にありがとう……。
大事にする。これを見ればいつでもロイを思い出せるわ」
聖女様のお言葉、お声の感じに、高揚していた気持ちが一瞬で冷えた。
なんというか…。別れの言葉のように感じたから。
「……聖女様? それはどういう、事ですか?」
ふいに、聖女様と話した時の事を思い出す。
澱みを浄化する旅の間に、何度も聖女様とお話しさせていただく事があった。
なかでも聖女様のお国の話はとても興味深く印象に残っている。
印象に残っているのは話の内容だけじゃなく、聖女様のお声や表情もある。
それはどう見ても故郷を懐かしんでいるようで…。
それはそうだよな。俺だって他国に赴任なんてなったらウィディスを懐かしむし、帰りたいと思うだろう。
国内でさえ、故郷から王都に出てきた当初は淋しくて帰りたい気持ちがあった。
今ではすっかり王都に慣れて、しかも聖女様の護衛などという栄誉ある任務についているので、そんな気持ちはすっかりなくなったけど。
聖女様…、やっぱりお国に帰りたいですか…?
いや、あの言い方は…
帰られてしまう、のか…?
「聖女様…」
聖女様を召喚したのはエミル様だ。当代一の大魔法使い。
召喚できたのだから、お帰しする事もできるのかもしれない。
我が国の澱みはすべてなくなった。
もう聖女様に我が国に留まっていただく理由はない。
聖女様がお望みなら、もちろん見送って差し上げなければならない。
我が国は救ってもらえたのだから。
そう思うのに、
聖女様とお別れするのはどうしても嫌なのだ。
あぁ、聖女様が困っておられる。
聖女様を困らせたくなんてないのに。
沈黙する二人の間に、風とは違う冷たい空気が流れた。




