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9.5-2




◇◆アルベルト◇◆




祝賀会前日の朝、聖女様から可愛らしい招待状が届いた。

聖女様のあらゆるものに関して、可愛らしいなど不敬だと思うけれど、通常の招待状とは違う、カードに書かれた短い文章と小さな絵が、祝賀会準備で殺伐としていた気持ちを和ませてくれた。


寝る間も食事する間もない程忙しかったが、聖女様より優先するものはない!


私とスヴェンは、死に物狂いで午前中と、午後の仕事もお茶の時間分終わらせて、聖女様のお部屋に向かった。


部屋の前でコンラードとエミルと会う。

この顔ぶれで集まるのも何日かぶりだ。

帰城してからは祝賀会の準備に忙殺されていた。

今日はいったい何のご招待だろう?


スヴェンがノックをし、返事を待って入室する。

ドアを開ける前から甘い匂いが漂っていたが、中に入ると一層強く、いい香りが迎えてくれた。


「さあさあ、座って座って!!」


見るとテーブルの上には、サンドイッチや焼き菓子などの軽食が並べられている。


すでに座っていた侍女長が慌てて立ち上がった。

顔色が悪く見えるのは気のせいではないだろう。


「アルベルト達が座らないとルイーセが座れないじゃない。早く座ってよ。 

ちょっと待ってね、今お茶を入れるから」


私たちが座ると、聖女様に促された侍女長もソファの端の方に小さく座った。


「お茶を入れるから」の言葉に、皆ソワソワと落ち着かない。

聖女様手ずからの茶を出されて、我々はどういう事なのかと妙な緊張感に包まれた。


「冷めないうちにどうぞ!」と勧められてはいただかない訳にはいかない。


「こっちも食べて!」と聖女様自らサーブされた軽食は、驚く事にすべて聖女様手作りだという。


これまでの野営時でも、炊事場に立たれた聖女様の手作りをいただいた事はあったが、()()()()()()()という事に感激した。


出されたものはどれも美味しく、我々は恐縮しながらも食べ進めるという器用な事をやっていた。


そうしてテーブルの上がすっかりなくなったところで、聖女様は我ら五人の顔を見られておっしゃられた。


「二年と少し、あなた達にはお世話になりました。召喚自体がどうとかは今はおいといて、一度はきちんと感謝を伝えたかったの。

不自由のない生活をさせてくれて、危険から守ってくれてありがとう」

「「聖女様!!」」


五人の声がかぶった。

召喚自体がという言葉には、一瞬私とエミルの顔がこわばったが、おっしゃられた内容は思ってもない事だった。


聖女様がそんな風に思っていてくださったとは!

我らは感激して、口々に感謝の言葉を言い募る。


「それはもう何度も聞いたって」


聖女様は苦笑いされている。


ですが聖女様!何度お伝えしても足りないのです!

その上、我らに感謝のお言葉までくださったのです!


あぁ…

心から、生涯聖女様にお仕えしたかったと残念でなりません。

他の者も皆、同じ思いだとわかる。


ただ一人、侍女長の不思議顔に、聖女様が事情を話された。


その後、涙涙の一幕があったのだが…

まさかそこにコンラードが混ざるとは。

女性同士哀しくも美しい別れが、コミカルな幕切れになってしまったのは、まぁ笑える思い出になったのでよしとしようか。







◇◆スヴェン◇◆




死ぬ…。死んでしまう…。


これまでも、殿下から押し付けられた仕事量に死にそうになってはいたが、聖女様から(勝手に)いただいている癒しや活力のおかげで永らえてきた。


それもなしに働かさているこの現状、いつご先祖様が迎えに来てもおかしくない。


聖女様が足りない。もう何日お姿をお見かけしていないだろう。

仕方ないとはわかっているが。


この度の、スマラグティーの全ての澱みを浄化した祝賀会は、何としても成功させねばならない。

それが我が国をお救いしていただき、それからスマラグティーを救い、その上世界をも救ってくださっている(今のところ仮説)聖女様への御礼だ。


飲まず食べずはまだしも、この三日はほぼ寝てもいない。

それでも踏ん張れるのは、祝賀会の翌日にご帰還されてしまう聖女様を思うやりきれなさのためだった。


ずっと、聖女様にお仕えしていけるのだとばかり思っていた。

いや、私が直接お仕えしているのは第二王子殿下だけれど。


聖女様のご帰還を聞かされたのは、ウィリディスの王宮に戻ってからだ。

突然の話に、私とコンラードは言葉を失った。


聖女様がいらっしゃらなくなってしまう…。


あまりの哀しみに、私は聖女様との別れを考えないよう忙しく仕事をしている。

コンラードも馬鹿みたいに鍛錬していると聞く。


聖女様、私たちはこれから何をよすがに生きていけばよいのでしょう…。




祝賀会を前日にひかえた朝、聖女様から招待状をいただいた。

殿下の付き添いでではなく、私にもちゃんと一通の招待状だ!ほぼ閉じていた目が開いた!


殿下と、指定された時間に聖女様のお部屋におもむくと


「さぁ、どうぞ召し上がれ!」


テーブルの上には、たくさんのサンドイッチや焼き菓子など軽食が並べられていた。


全部聖女様の手作りだという。

その上茶まで手ずからお淹れくださった。


その後のお言葉も…。なんという感激!


招待状だけでもかなり元気になったけれど、このお心を込めたおもてなしに、一気に生き返った気がする。


我が国をお救いくださり、世界にまでそのお力をそそがれている聖女様のお心遣いに、ふと、もういいと思えた。


聖女様はか弱い女性の身でありながら、浄化の旅などという過酷な日々を二年近くも過ごされ、魔獣のいる澱みを浄化してくださった。


そんな危険な事だけじゃなく、色々と大変なご不便もあったと思われる。

それなのに聖女様は不満を言うでもなく、我らを救ってくださったのだ。


聖女様がお国にお帰りになりたいというのなら、喜んで見送って差し上げよう。

いらっしゃらなくなっても、聖女様との思い出は生涯心に残る。

哀しみしかなかった気持ちが落ち着いた。




お茶の席を辞する時、聖女様は一番最後にドアを出ようとした私の袖を引いた。


「スヴェン、あまり食べなかったでしょ?あなたはきっとあまり食べられないだろうと思って、スヴェンの分は別にしておいたの。これ持って行って。

今までずっとお疲れ様。アルベルトが私にばかり時間を使うから、その分の仕事がスヴェンにいってたでしょ?きっと大変だったと思う。もしかしたら一番苦労したかもね?本当にお疲れ様!」


笑顔で、やわらかい包みを手渡してくださった。


聖女様!!


そのお言葉だけで報われました!

ありがとうございます!!


目の前がぼやけた。

まずい。これではコンラードを笑えない。


だけど。

認めてもらい、労ってもらう事が、これほど嬉しかった事はない。


聖女様のお言葉、スヴェン生涯忘れません。

聖女様のお言葉を胸に、この先も励んでまいります!




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