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9.5-1




◇◆ロイ◇◆




澱みを浄化し終えたスマラグティー国を抜け、同じく澱みのなくなったウィリディス国内を進む。


浄化(任務)を終えたという達成感と解放感。自国に入ってからは安堵からか疲れも出てきた。

こういう時が一番危ない!大事な大事な聖女様を奪われないよう、俺たちは気を引き締めてお守りしなくてはならない。


「みんなちょっと疲れてるね~。まぁ私もだけど。ごめんね、私に癒しの力があったらよかったのに、浄化の力しかないからなぁ」

「「聖女様!!」」

「そんな事おっしゃらないでください!」

「澱みを浄化できる偉大なお力があるのは聖女様だけなのです!」

「聖女様はいらっしゃるだけで尊いお方です!」


ある日の昼食時、聖女様を囲んで食事をしていると、聖女様が唐突におっしゃった。


なんて事をおっしゃるのだろう!

聖女様はただいらっしゃるだけで俺たちの活力や幸せになっているというのに!


「ありがとう。そんな風に言ってくれて嬉しいわ」


ニコニコされている聖女様は本当に思ってらっしゃらないようだ。

“また言ってる”みたいなお顔をされてるし。


本当なのに!

俺たちは心からの、本心を言っているのに!


俺たちの真心が届かないのが悔しい。

いや、悔しいなど聖女様に不敬だ!


ただ、俺たちの感謝の気持ちが伝わったらいいのにと思う。




その日の夕方。

今日は野営なので早めに飯の準備を始める。


町の宿なら出来上がった飯が出されるし、風呂もある。やわらかな寝台もあってしっかり休めるけれど、どっちかと聞かれたら、俺たちは野営を選ぶ。


何故か? 

野営なら聖女様のお近くにいられるからだ。

もちろん聖女様がいらっしゃらなければ町の宿一択だけど!


「私も手伝うね~♪ 浄化の力を込めて作れば、少しは体内環境も整うかもしれないし…」


ほら!こんな風に幸運が降ってくる事もある!

後半のお言葉の意味はよくわからなかったけど。


聖女様は俺たちと一緒に炊事場に立たれた。

聖女様は前々から、こんな風に気さくに混ざって調理される事がある。

楽しそうなお姿を見ているだけでこっちも楽しくなる。 そうだ!


「聖女様、昼に言った事は本心です。皆、心から聖女様のお側にいるだけで元気になるし幸せなのです」


昼からずっと思っていた事を、隣に立つ聖女様にお伝えすれば、


「あぁうん、わかってるって。みんなからの熱すぎる思いはちゃんと伝わっているよ。なんせ二年も言われ続けてるからね」


少し恥ずかしそうなお顔でそう言われた。


そんなお顔もお可愛らしい…… 


はっ!俺は何を思ってるんだ!

天上人であらせられる聖女様に対して可愛らしいなどと!


だけど本当にそうにしか見えないんだから仕方がない。

まぁ俺だけの気持ちだし、心の中で思っているならいいだろう。


それから俺たちは聖女様と楽しく夕食を作った。

浄化の旅の最中ではよくある幸せな一時。


本来なら長期の遠征や野営続きはきついんだけど。

味見をして笑顔になった聖女様を見る。


こんな日々がずっと続けばいいと、願った。







◇◆ルイーセ◇◆




ウィリディスの王宮に戻って数日。

明日は祝賀会という忙しい時だというのに、聖女様は朝からウキウキと何やら料理をなさっている。


もちろん聖女様のなさりたい事を止める、などという事はしない。

私は聖女様にお目見えした次の日(ほぼ初日)の厳しいお言葉と、この先どんな事があろうと聖女様の意にそわない事は絶対にしないと誓った事を忘れた事はなかった。


それからの生活で、お叱りを受けた緊張も、天上人に対する緊張も解けた。

二年以上お仕えして、聖女様から信頼をいただけていると思えるようにもなってきた。


そして、長く厳しい浄化の旅を共に過ごすうちに、こんな言い方はお恐れ多いけれど、言わせてもらえるならば、絆のようなものが生まれたように思う。


聖女様は澱みを浄化できるという以外にも、身分や常識などまったく気にしない、自由な考え方を持った素晴らしいお方だ。


お仕えしている毎日が楽しいし、気持ちも強くなる。

出戻りで再嫁のあてもない女でも、聖女様のように前向きに強く生きていけば、きっといい人生になるだろうと思える。


聖女様にお仕えしている幸せ。

騎士たちはもとより、私も聖女様のためなら命を差し出せると迷いなく言える。




「さぁ、どうぞ召し上がれ!」


そんな特別なお方の手作りの品々と、手ずから淹れられたお茶を出されて、私たちはどうしらたいいか、かしこまってしまった。


私たちといっているけれど、一緒にするなどとんでもないない方々と、何故か同じ席についている。

浄化の旅の最中は同じ食事の席についていたけれど、それとこれとはまったく別だ。

聖女様!どういう事でしょうか?!


「二年と少し、あなた達にはお世話になりました。召喚自体がどうとかは今はおいといて、一度はきちんと感謝を伝えたかったの。

不自由のない生活をさせてくれて、危険から守ってくれてありがとう」


お恐れ多くも、聖女様から感謝の言葉をいただいた!(聖女様は日常的に「ありがとう」をおっしゃられているけど)


それから私は、それよりももっと驚く事を伝えられた。

私以外の皆様は知っている様子だったから、驚いたのは私だけだ。


聖女様が! お国に帰られるなんて!


聖女様にはずっとお仕え出来ると思っていた。

だけど…、聖女様がお国に帰りたがっている事は知っていた。

聖女様の願いはどんな事でも叶えて差し上げたい。


聖女様がいなくなる……

哀しすぎて考えたくもない。


だけど…、

聖女様の望みが叶うのだから、喜んで見送って差し上げなくてはならない。


聖女様、ルイーセは生涯お仕えしたかったです。

涙が後から後から止まらない。


「ルイーセ、そんなに泣かないでよ」

「聖女様も泣いておられます」


聖女様から抱きしめられた。

とても驚いたけど、私も強く抱きしめ返す。

そうして私たちはそのまましばらくの間泣いた。


聖女様に抱きしめられたところから温かくなる。

いただいた、身に余るお言葉で胸も温かくなっている。


あと二日。

聖女様、精一杯勤めます。




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