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澱みのなくなったスマラグティー国を抜け、同じく澱みのなくなったウィリディス国内を進む。
私を元の場所に戻すのはエミルが魔法陣を構築するだけだから(だけっていうのもナンだけど)どこででもできるらしいけど、召喚した時と同じ場所の方がぶれが少なくすむんだそうだ。
同じ時、同じ場所へ。
あの朝、出社しようとして部屋のドアを開けたあの瞬間に。
この世界に来て二年と少し。
元の世界での時間の流れがどうなっているのかわからない。
エミルはできるだけ召喚したあの瞬間に戻そうとがんばってくれたらしい。
ありがたい!ありがたいよ!
エミル、ありがとう!!
スマラグティーの澱みが全部浄化し終わって、ウィリディスの王宮まで魔法で移動しますかと尋ねられた時、私は魔法移動じゃなくて馬車移動を選んだ。
来た時と同じに馬車で戻っているのは…、やっぱり少し、ロイとの別れを惜しんだからかな。
帰れないなら帰りたい気持ちが大きいけど、いつでも帰れるとなったら人っておかしなもので、惜しむような気持ちがでてきたっていうかね。もちろん帰れるからなんだけど。
行きと同じく帰りも、町では高級宿屋に泊まり、宿屋のない村では村長さんの家に泊めてもらう。
どこに立ち寄っても「聖女様にお越しいただけるとは生涯の誉れです!」と大歓迎された。
「聖女様のおかげで平和な生活に戻りました」と感謝もされる。
復興も進んでいるようでよかった。
もちろん野営も多い。だいたい半数くらいの割合かな。
野営だと騎士たちと距離が近くなる。
たわいないおしゃべりなんかをしたりして、元の世界に帰る日までの日々を過ごしている。
もちろんロイともおしゃべりする。というか、やっぱりお別れを意識しているから、ちょっと多く話しちゃってるんだよね。
今まで贔屓をしない聖女様だったのに、我ながら残念だよ。
私は有終の美は飾れないなぁ。立つ鳥跡を濁しちゃってるよ。
だけど、元の世界に帰ったらもう二度とロイに会えないんだもん。
帰る気持ちは変わらない。
だからってロイへの想いは、ここに残ると決められない程度のものではない。
ロイの事はちゃんと好きだよ。ここが日本だったら告白してお付き合いしたいくらいだ。(聖女じゃない私にOKしてくれるかはわからないけど)
だけど、ロイ一人と、日本にあるすべてを秤にかけたら…
やっぱり日本の方が重いんだな。
それに、もしもこっちを選んで後悔する事になったら…。
そしたらさっさと日本に帰ればいいじゃないかとお思いでしょうが!
そんな簡単な気持ちでこっちを選んじゃいけないと思う。
ロイへの想いとは別に、この世界の人々の、聖女への思いはとても切実で真剣なんだから。
もしもこっちを選ぶなら、この世界に骨を埋める覚悟をしなければと思う。
そんな覚悟はできないわぁ。
ロイの事だけでいっても、そもそも告白もしてないし付き合ってもいないんだから、結婚の先(同じお墓に入る事)を考えてもしょうがないんだけどさ。
今までの全部をなくして恋を選ぶには、少し若さが足りないかな。
まったく一から人生を始める勢いも気力も、アラサーには難しいよ。
私には覚悟ができない。決断もできない。
だから、後悔が少ないと思われる方を選ぶのだ。
とか結論付けたのに、未練たらしい恋心。ほんとに見苦しいったら。
私こんな女じゃなかったんだけどなぁ…。
そんな風にウダウダしながらも最後の時間を過ごして、とうとうウィリディスの王都についた。
数日休んだら祝賀会が開かれて、私はそれに出席する。
聖女様がまた一国を救ったし、出稼ぎで得たお金はこの国の復興に使われるからね。
まぁ、めでたいっちゃめでたい。
それをけじめとして、祝賀会の次の日に日本に帰してもらう事になっている。
私が元の世界に帰る事は国の上層部の一握りの人しか知らない。
アルベルトの側近のスヴェンとコンラードでさえ、王宮に戻って来てから知らされたと思う。
もちろん騎士君たちは誰も知らない。ロイもね。
言うつもりはない。言っても仕方ないし。
告白と一緒だ。
あぁでも、ルイーセには感謝を伝えてから行きたいな。
彼女にはたくさんお世話になったし、心もずいぶん助けてもらった。
元の世界に戻ったらもう二度と会えないんだもん。
ルイーセはこっちの世界でできた大切な友達だ。
それとまぁ、私は拉致された訳だけど!それでも今まで無事に過ごせた事には感謝しよう。
帰してくれる約束も果たしてくれるしね。
祝賀会の前日。
私は、侍女が使うキッチンでパウンドケーキを焼いている。
小さくてもこのキッチン、ちゃんと窯もあってパンやケーキも焼けるのだ。
王宮の大厨房は祝賀会の料理を作っているから、とても使わせてとは言えないし。
まぁ使い勝手はこっちのほうがよかったかも。
私は料理はするけれど、お菓子はあまり作った事がなかった。
だけどパウンドケーキは材料が全部同じ量、一ポンドずつというのを本か何かで知っていて、これならできるかとやってみたのだ。
一ポンドが何グラムかわからないから、一キロずつの分量にしちゃったけど☆
下手にアレンジせず、小麦粉、バター、砂糖、卵だけでシンプルに作る。
焼いている最中からい~い匂いがしてきて、焼き上がりは思ってた以上に美味しそうに出来た!
それと、パウンドケーキを焼いている間にサンドイッチなんかも作ってみた♪
きっと寝食を削って働いているだろうアルベルトやスヴェン、エミルは元々食べる事に関心が薄いから聖女様の手作りで釣って、コンラードは体格的にいっぱい食べるだろうと種類も色々、たくさん作った。
よし、これでお茶会の準備は出来た♪
「さぁ、どうぞ召し上がれ!」
祝賀会前日でめちゃくちゃ忙しいでしょうけど、この世に聖女様より優先される事はないでしょ♪と、攻略対象sを招待した。
それとルイーセが居心地悪そうにソファーに座っている。
聖女様の手作りと、手ずから淹れたお茶を前に、お茶会の招待客はかしこまっている。
やだなぁ、野営の時と同じだよ!
絶賛された料理が(うん、我ながら美味しくできた!)食べ終わり、お茶を淹れなおしたところで、私はしっかり五人の顔を見て言った。
「二年と少し、あなた達にはお世話になりました。召喚自体がどうとかは今はおいといて、一度はきちんと感謝を伝えたかったの。
不自由のない生活をさせてくれて、危険から守ってくれてありがとう」
「「聖女様!!」」
五人の声がかぶった!そんなに驚く?
気が合ってるねぇと、ちょっと笑ってしまった。
「そんな!こちらの方が感謝でいっぱいです!我が国を救ってくださってありがとうございました!」
「それはもう何度も聞いたって」
ウィリディスの浄化が終わった当時、毎日毎日聞いたし。
「聖女様?」
攻略対象sはジーンとした顔をしているけど、ルイーセは何だかわからない顔をしている。
私はチラリとエミルを見た。すぐに冷たい空気が流れてくる。
「エミルありがとう!」
エミルが防音魔法をかけてくれたから、今ならルイーセにも話せる。
「ルイーセ、今から話す事は、ここにいる四人と国の上の人しか知らない事なの。そう長い間じゃないから秘密にしてね」
「はい、それはもちろんですが…。そんな大事を私が聞いてもよろしいのですか?」
「ルイーセには聞いてほしい。私の大切な友達だから」
「聖女様!お恐れ多くも友達などとは!滅相もありません!」
あ、やっぱり思った通りの反応だ。
国家の大事を知らされるのか?!と緊張したルイーセは、友達という言葉に顔を赤らめた。
「ルイーセがなんといおうと、私は勝手に友情を感じてるからね!
で、本題だけど…。明日の祝賀会を終えたら、明後日エミルに私を元の世界に帰してもらう事になってるの」
「えっ……」
「ルイーセ、この世界に来た最初の日から今日まで、本当にありがとう。身の回りのお世話だけじゃなくて、居心地のいいようにしてくれた心配りも、女同士にしかわかりあえない困り事も、みんなあなたがいてくれたから何とかやってこられたと思う。一緒に浄化の旅で苦労してくれた事も、今となっては笑える思い出になってるし。 ……あと二日よろしくね」
「聖女様……」
ルイーセの瞳から大粒の涙が零れた。
後から後から止まらない。
「ルイーセ、そんなに泣かないでよ」
「聖女様も泣いておられます」
これはもらい泣きだよ!
私たちは抱き合って、しばらくの間泣いていた。
ふと、グスグスと鼻をすする音に気付く。
音のする方を見ると、
コンラード!
涙が似合わなそうな大男の、もらい泣き?
あぁでも…。
コンラードはこういうところあるかもなぁと、笑ってしまった。
ありがとう。
湿っぽい終わりにならなくてよかったわ。




