7.5
◇◆ロイ◇◆
スマラグティーの浄化の旅が始まって半年が過ぎた。
浄化は順調で、すでに終盤だ。
スマラグティーはウィリディスと大きく変わらない国だというのに、ウィリディスより早く浄化が進んでいるのは不思議だ。
俺のような者にはわからない、聖女様の偉大なお力のおかげなのだろう。
いや、俺の事なんてどうでもいい!聖女様だ!
ここ最近、なんだか聖女様の元気がないように思われる。
旅のお疲れが出たのか?ウィディスに続いてスマラグティーと、二国も浄化してくださっているし。
聖女様のお力がどうなっているのか、下々にはまったくわからないけど、天上人だってきっとお疲れにはなるだろう。
……本当にまったくわからないけど。
それとも何か、憂いがおありなのだろうか?
天上人の憂いなど、下々の我らがどうにかできる事とは思えないけど、下界の事であるのであれば、どうか少しでも重荷をおろしてほしい。
我らで出来るのであれば担うので。
何にしても、少しでも聖女様がお健やかに過ごせるようできる事はないか、我々は考えた。
そうして、単純な事だけど、この日の街歩きになった。
短い時間なのが申し訳ないけれど、少しでも聖女様の気晴らしになればいいと思う。
皆の願いは叶ったようで、聖女様は楽しそうに散策なさっている。
少し前を行く聖女様はルイーセ様と女性騎士と一緒に楽しそうだ。
我ら男どもは少し離れて護衛する。
いかつい男が周りを囲んでいたら何事かと思われる。かえって目立ってしまうだろう。
それでも少しでも聖女様のお側に寄りたくて、皆ちょっとずつ距離を詰めてしまうのは実家にいた犬を思い出して笑える。や、俺もだけど。
楽しそうに笑われている聖女様。
今日の散策にお連れしてよかった。護衛に選ばれた我らは一様に安堵した。
笑顔の聖女様は本当にお美しい。
いや、どんな聖女様もお美しいが。
聖女様が笑顔でいらっしゃるのは俺たちも嬉しい。
そんな風に過ごす事しばし。
聖女様が露店の一つで何かに目を止められた。
女性に贈り物などした事のない無粋な俺でも、キラキラしい装飾品が女性に好まれるものだとは知っている。
しかし、どんな宝物でも思いのまま手に入れられるだろう聖女様が、こんな庶民向けの安物を欲しいと思うのだろうか…?
聖女様がジッと目を止めておられるそれは、たぶん琥珀の首飾りだ。
ふいに聖女様が俺を見られた。
なんだ? なにがあった?! 俺が混乱していると、
聖女様は嬉しそうに笑ったのだ!
俺を見て? 俺の何を?
見つめられたままの俺は、とてもじゃないが見つめ返していられない!
目が泳ぎまくったのは仕方ないと思う!
その後、聖女様は何事もなかったように歩き出す。
当然、皆後をついて行く。
が!俺はそれどころじゃなかった!
心臓が激しく脈打って、きつい訓練後よりも息苦しい!
「お客さん、買わないんだったらよけとくれよ。でかいお人に陣取られてたんじゃ商売にならないよ」
店主に声をかけられてハッとする。
「あぁ、すまない。 ……では、それをもらおうか」
「まいどあり!」
聖女様が見ていたと思われる、琥珀の首飾り。
俺を見て…、何かを確認するように、俺と目を合わせておられた。
俺の瞳の色と同じ、琥珀色の首飾り。
女性と付き合った事のない俺でも知っている、恋人同士の決め事…。
わーーー!!!
そんな事ある筈がない!!
俺は嬉しすぎる、俺に都合のいい考えを振り払って、皆を追いかけた。
手には琥珀の首飾りをにぎりしめて。
◇◆ルイーセ◇◆
「ルイーセ、あまり高価なものじゃないけど、受け取ってくれる?」
ここのところお元気がなかった聖女様の気晴らしにと街歩きをした日の夜、聖女様から首飾りをいただいた。
これは昼間、散策していた時に買い求められた首飾り。
聖女様はそれだけを買い求められていて、そのたった一つのものが私への贈り物だったなんて!
「聖女様!ありがとうございます!生涯の宝物に致します!」
お恐れ多かったけれど、余りの感動に高ぶる感情を抑えて、さっそく首飾りをつけた。
「うん、思った通りよく似合う!」
聖女様は、うんうんと頷きながら笑顔でおっしゃった。
その笑顔も最高の贈り物です!
私だけに向けられる聖女様の笑顔を見て、いただいた首飾りと共に人生で一番の贈り物だと思った。
寝台に横になりながら、今日一日の事を思い出す。
礼拝堂と浄化の旅の日々しか送られてこなかった聖女様。
澱みから澱みへの移動はあるけれど、奪われてはならない聖女様はとても狭い場所での生活を送られてきた。
あんな風に、どこかを散策するなんて初めての事だった。
聖女様、本当に楽しそうだったなぁ…。
何を見ても興味深そうだった。
揚げ菓子を頬張っていたお姿は失礼ながらお可愛らしかったし、装飾品を見た時は、庶民むけの品だというのにキラキラした眼差しを向けていらっしゃった。
少しでもお元気になられたのならよかった。
こういう機会はなかなか難しいと思うけれど、また作って差し上げたい。
私たちの世界のためにご尽力してくださっている聖女様に、少しでも何かお返しが出来たらいいのだけれど…。
眠りにつく一瞬前にそう思う。
感謝のお言葉と共にくだされた首飾り、それと、後から思い返した時に甦る、楽しかった街歩きの一時は、私の生涯の宝物となった。




