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王都を出て半年が過ぎた。
スマラグティー国の浄化は順調で、すでに終盤だ。
隣同士、風土は似通っているし、国土面積も同じくらいという事なのに、半分とまではいわないけど、なんでウィリディスの時よりこんなに早く浄化が進んでいるのか?
アルベルトの話によると、ウィリディスとスマラグティーを中心に少しずつ澱みが消えていっているようなのだとか。
まるで聖女の力が徐々に周りに広がって、それが澱みを消しているように思われるとか。
よくわからないけど、聖女パワー?
ふ~ん…。 私は考えた。
何百年単位だろうと、この世界には定期的に澱みが現れている、らしい。
そしてその度に、どこからか聖女を召喚して浄化をさせている、らしい。
らしいらしいと不確かなのは、この世界が元の世界でいうところの産業革命以前の近世くらいの文化レベルだからだ。
百年前は大昔で、記録はあやふやになってしまう。
召喚された聖女たちが、私のように召喚された国以外にも浄化をしに行ったかはわからない。
まぁ、私が派遣の話をした時のウィリディスの感じでは、きっと聖女を他国には出さなかったんじゃないかと思うけど。
聖女様は奪われてはならない大事な大事な命綱だもんね。
では他国に浄化しに行かなかったのに、今回現れるまで世界に澱みがなかったのは何故か?
もしかしたら、聖女の存在自体に澱みを浄化させる力があったんじゃないか、と仮定する。
召喚した国から、ゆっくりとだけど、大陸中の澱みはなくなっていく。
聖女がいる国がどこにあるかで、澱みのなくなりかたは違ったでしょうけど。
聖女を中心に放射状にその威力が広がっていくのだとしたら、大陸の中心辺りからが一番早く澱みはなくなるよね。
ウィリディスのように大陸の西よりにある国からなら、一番東の国に行きつくまでには時間がかかったかもしれないとか。
この仮説は、多分当たっていると思う。
そうじゃなかったら、現れた澱みが何百年後だろうと全部なくなってる説明がつかないじゃない?
今回澱みがなくなっていっているという現象が、その証拠だと思う。
そっかぁ…
聖女がいるだけで世界から澱みがなくなっていくのか。
聖女がいなくなったら澱みはあり続けちゃうのかな?
今までの聖女さんたちは元の世界には戻っていないようだし。
生涯をこの世界で過ごして、澱みをなくしたのかな…。
重い。重いよ。
イヤな事に気づいちゃったなぁ。
いやまぁ、私が元の世界に帰っても(帰れたらね)またどこかの国で次の聖女を召喚すればいいって話なんだけどさ。
当代一という程でなくても、エミル以外にも優秀な魔法使いはいるだろうし。
私がいたら別の聖女は召喚できないからね。
世界には同時に聖女は二人現れないと、召喚された当初聞いた。
でも召喚できなかったら……?
いや、この世界の人たちが召喚といってるだけで拉致だからね!
まったくもって肯定はしないけど!
でもこの世界の人たちに触れて、本当に心底困っている現状を見て、全否定もできなくなってる気持ちもあるんだな。困った事に。
だからって我が身を犠牲にしてこの世界に留まる気持ちはない。日本に帰るという気持ちは変わらずある。
あるけど…。
すっぱり割り切れない、同情やら罪悪感みたいなもんもあるようになってしまった。困った事に。
あ~ぁ。気づかなければよかった!
今日は、この先にある澱みに向かう最後の大きな町で散策をしている。
食料調達なんかをする間の短い時間だけど、ここのところ元気のない私の気晴らしにと計画してくれたのだ。
ごめんよ、なるべく態度に出さないようにしてるつもりだったんだけど。
日本に帰りたい気持ちは変わらないけど、ずっと心のモヤモヤが晴れないのよ。
最初から見捨てるっちゃ見捨てる気はあったけどさ。
拉致被害者だもん当然じゃない?
だけど…、って! あー、こう堂々巡りしちゃう訳よ!
今だけはみんなの気持ちをありがたくもらって、街歩きを楽しもう!
「ルイーセ、みんなにお菓子を買っていこう♪」
「はい。きっと喜びますね」
旅生活では甘いものは貴重だからね。
私はルイーセと私服姿の騎士ちゃん二人と、四人で歩いている。
もちろん護衛はその二人だけじゃない。すぐに助けに入れる位置に私服姿の騎士君たちも何人かいる。
こういう時の決まりごとのように、ちゃんとロイもいる。
一緒に歩いている訳じゃないけど、ちょっと嬉しい♪
さて、市場にやって来た。
色々な屋台や露店があって、見ているだけでも楽しい。
「あ、あれなんか美味しそうね!みんなへのお土産はあれにする?」
「セイラ様(私の偽名)あれは時間がたつと油っぽくなってしまいます」
「じゃあダメか~」
私が見ている先には、揚げパンなのかドーナツなのか、揚げたものに砂糖?をかけたお菓子が売っていた。
「美味しそうね…。みんなには悪いけど、揚げたてを食べちゃおうか♪」
揚げてある上に砂糖かけ。アラサーには勇気のいるお菓子だけど、旅行先で気が大きくなってる時みたいなもんよ。
人数分買って来てもらうと、私は騎士君たちの分をロイに渡した。
「みんな甘いものは大丈夫? よかったらあなたたちもどうぞ」
「「聖、ラ様!!ありがとうございます!いただきます!!」」(こっそり)
騎士君たちは激情を抑えて小声でお礼を言うと貪り食べ始めた。
私が渡したものなら石でも食べそうだよ。
「さぁ、私たちも熱いうちに食べようか♪」
揚げパンとドーナツの真ん中くらいのお菓子は美味しかった♪
お菓子を渡した事で、離れて護衛する事はないと思った騎士君たちは、堂々と私の側で一緒に歩く。
物々しい感じになるのを避けるために離れてもらってたんだけど…。
騎士服でもないし、まぁいっか。
私たちだけ甘いものを食べちゃ悪いよね!予定通りお留守番組のお土産も買おう!
目についた、行列している焼き菓子屋さんに並ぼうとすると
「ここは私が並びます。セイラ様はどうぞ街歩きを楽しんでください」
騎士ちゃんの一人がそう言ってくれた。
うんまぁ、この人数で並ぶのもジャマになるね。お言葉に甘える事にした。
「ありがとう。じゃあ近くをウロウロしているね」
食べ物コーナーは終わったようで、この辺りは雑貨や小物なんかが売られている。
なんだろ、観光地のお土産屋さんを思い出す。
こういうのってどこに行ってもそう変わらないものなのかしら?
私たちは、小物を売っている露店が並ぶ端から順々にひやかして歩いた。
なかなか綺麗なアクセサリーなんかも売っている。天然石でも小さい物だからか、手ごろな値段で売られていたりする。見ているだけでも楽しい。
ふと、琥珀色の石がついているペンダントに目が留まった。
ちょっとロイの瞳の色みたいだわ。
琥珀色の石をジッと見てから、ロイを見る。
ロイと目が合う。
あ、やっぱり近い色をしている。
私は微笑んでいたようだ。
ロイの瞳が揺れた。
異世界物あるあるでは、恋人や婚約者の瞳や髪の色のものを身につける事は定番だ。
もしかしたら元の世界の中世・近世にもそういった風習があったかもしれない、なんて思ったり。
これ… ほしいな。
思ってハッと我に返る。
恋愛脳って恥ずかしい思考が湧いてくるものだね!
その後、私は色々目移りしながら、ムーンストーンのような柔らかな色合いの石がついたペンダントを買った。
その日の夜。
「ルイーセ、あまり高価なものじゃないけど、受け取ってくれる?」
私は昼間買った、ムーンストーンみたいな石がついたペンダントを渡した。
「ルイーセは騎士のように鍛えている訳でもないし、侍女教育を受けたとはいっても元々は伯爵家のお嬢様だったでしょ。それなのに過酷な浄化の旅について来てくれて感謝しているの。ウィリディスの頃からずっとありがとう。
これを見た瞬間、きっとあなたに似合うと思ったんだ。気に入ってもらえたらいいんだけど…」
ウィリディスでの浄化の旅の時、聖女様のお世話係には侍女が何人か同行した。
だけど貴族のお嬢様には過酷すぎる野営生活に、みんな即リタイヤ。
残ったのはルイーセだけだった。それから今に至る。
ルイーセは聖女様の侍女長としての責任感と、それだけじゃない、本人に聞いたら滅相もありません!と言うだろうけど、友情といっていい感情があるんじゃないかと思っている。
まぁ私の方は勝手に友情を感じている。
今では長く苦楽を共にした仲間意識もある。
同じ歳という気安さもある。
「聖女様!ありがとうございます!生涯の宝物に致します!」
ルイーセは目を潤ませながらそう言うと、さっそくペンダントをつけてくれた。
「うん、思った通りよく似合う!」
旅の思い出に買うような、決して高いものではないけれど、ペンダントについている石は落ち着いた雰囲気のルイーセに似合う上品な色だ。
もしも、日本に帰れないとしたら…。
ルイーセとはずっとつき合っていきたい。
日本に帰れたとして、お別れになったら淋しいだろうな。
帰ってからもきっとずっと思い出すと思う。
そんな存在に出会えた事には感謝だ。




