6.5
◇◆ロイ◇◆
聖女様の拉致未遂なんてものがあっても浄化の旅は続く。
あれから特に怪しい気配はなく、旅は順調に進んでいる。
聖女様を奪おうとした国が“見せしめ”にでもなったか。
それで他の国が手を出してこなくなったのなら役には立ったと思おう。
許しはしないがな!
「お疲れ様!今日も無事澱みを浄化できたよ!これでこの辺りの人たちは安心して暮らしていけるよ!」
今日も無事澱みの浄化が終わった。
聖女様は毎回必ず、こうして我々に労いのお言葉をかけてくださる。
「聖女様のお力のおかげです。ありがとうございます!」
我々は恐縮して、それから心からの感謝を申し上げる。本当にその通りだし。
何故か聖女様はいつもはにかまれる。
そんな照れたような笑顔は、何よりのご褒美だ。
天上人であらせられるのに、聖女様はとても謙虚でいらっしゃる。
そんなところも皆が慕うゆえんだろう。
もちろん俺もその一人だ!
ウィリディスの時からだけど、浄化(魔獣討伐)の後には、聖女様は毎回騎士の間を回って歩かれる。
ケガがひどい者には少し留まったりしながら、聖女様曰く“化膿止め”をしてくださっているのだ。
澱みを浄化できる聖女様は「傷も浄化できるのよ♪」との事で(すごい!さすが聖女様!)そう言われる通り、前回も今回も、浄化の旅で負傷した者の傷がひどくなる事はなかった。
聖女様は、この世界をお救いしてくださっている他にも、こんな風に一人一人にも慈しみのお心を持ってくださっている。その上
「ロイ!今日はちょっと手強かったね!浄化まで時間がかかっちゃったけど大丈夫だった?」
などと気さくにお声がけしてくださったりする。
それは俺だけじゃなく、怪我がひどい者や、活躍した者など、あぁ聖女様は俺たちの事をちゃんと見てくださっているんだと、ますますやる気がわいてくるのだった。
皆、これからも一生懸命励むと心に誓う。
聖女様にお褒めいただく事が、我らの働く力になるのだから。
◇◆オッド◇◆
久しぶりにロイとの夜番の時の事。
火を絶やさぬようたわいもない話をしていると、小さな気配を感じた。
「お疲れ様。お水が欲しいんだけど、すぐ飲める水ってある?」
聖女様だった!
「聖女様! 少しお待ちください!」
私は素早く立ち上がると、炊事場の方に走った。
聖女様が水を所望されている。
それだけを思い、立ち上がった後に、残った方が聖女様とご一緒出来る事に気がついた。
気づいたけれど、立上がってしまったからには仕方ない。早く戻る事だけを考えて走り出した。
新鮮な水を汲んで足早に戻る、と
聖女様とロイは見つめ合って。
笑い合った。
今私は、何を見た?
それは二人にしかわからない事のように思えた。
「……聖女様お待たせしました」
「ありがとう」
やっと絞り出した声に、聖女様は礼を述べてくださったけど、
私は動悸が激しくなっていた。
聖女様とロイが何かなんて欠片も思わないが、それでも他の者たちとは違う何かがあるように思えてならない。
天上人であらせられる聖女様が、俗世の者とどうにかなるかなどという考えはなかった。
そんな事は考える事さえ不敬だと思った。
だから私は……
いや、きっと私の思い過ごしだ。
聖女様は天上人なのだ。浄化の旅でもなかったら、我々のような下々とは相まみえる事などなかったお方だ。惑わされるな。
そう思うそばから認めたくない考えが心を乱す。
惑わされるなと言い聞かせているのは、目を逸らすいい訳ではないか?
スマラグティーで過ごす日々の時々に、ふとした違和感があった。
皆に平等にお優しい聖女様だけど、ロイを見る回数は他の者より多い気がする。
ロイの話に一番笑顔になられていると思う。
特別ロイとだけしゃべられる事はないけれど…。
それにあの、拉致未遂の川での時の事…。
いや、こんな考えは聖女様に不敬だ。
そうして、私はまた目を逸らした。




