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あの拉致未遂の後からは特に怪しい気配はなく、浄化の旅は順調に進んでいる。
私を襲ったどこぞの国が“見せしめ”にでもなったかな? 怖いから考えない☆
さて、今日は大きくて古い澱みの浄化をした。
澱みの大小や、出来てからの古さなんかで浄化までの時間が変わる事、それと比例して澱みから生まれる魔獣の強さや量が変わる事は、スマラグティーもウィディスと同じだった。
場所が変わっても澱みの作りは同じようだ。
大陸中の澱みは全部そうなのかもしれない。
そういう訳で、古くて大きい澱みは危険度が跳ね上がる。
ウィリディスの騎士たちとスマラグティーの騎士たち、今日は手強いと踏んだコンラードと、スマラグティーのコンラード的位置の騎士、フレデリクと初めて会った天幕の中で、フレデリクの後ろに立っていた強そうな騎士も一緒に戦っている。
祈る私は相変わらず戦うみんなをガン見する。
もちろんしっかり祈っているよ!
だけど戦うみんなは相変わらずめちゃくちゃカッコいいのよ!
やっぱりコンラードはすごいな。
視界の中で一番目を引く。
私は剣技なんてまったくわからないけど、これが“流れるような”という動きなんじゃないかと思う。
あんなに大柄でめちゃくちゃ力もありそうなのに(実際あるけど)まったく荒々しさがなく、軽々魔獣を倒していく。
真逆の位置にいそうな男の人なのに、優雅という言葉が頭に浮かぶ。
スマラグティーの、あの騎士もすごい。
剛柔でいったら剛の戦い方かと思う。
コンラードと同じく恵まれた体格はパワーがみなぎっていて、どんどんがんがん魔獣を屠っていく。コンラードのような優雅さと真逆の、豪快な戦闘だ。
スマラグティーの騎士たちが“兄貴!”とついていってるように見える。
そんな超目立つ二人には霞むけど、ロイだって活躍しているよ!
二人のような華はないけど、危なげない剣使いで安心して応援していられる。一頭一頭、確実に倒していく堅実な剣だ。
や、剣技は全然わからないけど!
何というか、恋愛フィルター越しだから誰よりカッコよく見えちゃうのかも。
そんな事を思ってられるのは、相手が魔獣で離れた場所から見てるからなのだと思う。
3Dの映画を見ているというか?
これが間近だったり、人同士の切り合いだったら話が変わる。
剣と魔獣は、やっぱりどこかファンタジーだと思ってしまってるのかもなぁ。
ケガ人は現実だけどさ!
みんなケガなくがんばれ!
私もがんばって、なるべく早く澱みを浄化するよ!
祈る私の隣にはアルベルトとエミルがいる。
他、十人くらいの騎士君たちもね。
アルベルトは意外にも(失礼!)私を守れるくらい強いのよ。
もちろん一国の王子を危険な場所に行かせられない理由から魔獣討伐には加わらないんだけど、それ以外にも、私専属の護衛の気持ちでいるらしい。王子様なんだけどね!
エミルからはほのかに冷たい空気を感じる。
これはエミルが魔法を使っている時の現象だ。
エミルの結界は完璧だけど、戦闘中の意図的な混乱に備えて、万が一の時のために、私が祈る間はエミルが何やら追加で守りの魔法を展開してくれている。
ちなみにルイーセも一緒にいるよ。私の側がどこよりも安全だからね!
私が浄化の祈りの最中は、ルイーセも一緒に祈っている。
祈りの間はずっと目を閉じているよ。元は貴族のご令嬢だし、魔獣討伐なんて怖くて見ていられないよね。
「お疲れ様!今日も無事澱みを浄化できたね!これでこの辺りの人たちは安心して暮らしていけるよ!」
「聖女様のお力のおかげです。ありがとうございます!」
いやいや、半分は君たちの力だよ。
浄化(魔獣討伐)の後は、毎度騎士君の間を回って歩く。
ケガがひどい人には少し留まったりしながら化膿止めをする。
「お疲れ様、わぁ痛そう!ちょっと触るよ。
“傷が早く癒えますように”(傷の上に手をかざしながら祈る)
ムリしないようにね!お大事に!」
「聖女様!ありがとうございます!ありがとうございます!!」
いい大人が泣きなさんな。
こんな感じで、ウィリディスとスマラグティーの騎士たちの中を巡回している。
粛々と浄化は続く。
王都を出て四ヶ月が過ぎ、スマラグティー国の澱みを半分浄化した。
これならウィリディスの時のように一年かからず澱みを浄化し終えるかも。
その時私は日本に帰れるのか、帰れないのか。
大きな期待はしちゃいけないけど、もしかしたら旅の途中で帰れる術が見つかるかもしれないかも、とか。
……いや、期待しちゃいけない。ずっと帰れない方が濃厚と思っておこう。
日本に帰る、帰れると考える。うん、嬉しい。
ここの生活には慣れないしね。
非現実なキャンプ生活が長いし、王宮の生活と比べたって現代日本の方が格段に天国だったよ。
日本には楽しい事も美味しい物もたくさんあって、生活を豊かにしてくれていた。
一緒に過ごすみんなには愛着みたいなものも感じるようになったけど、日本にいる家族や友達、少ないけど会社の同僚との付き合いの方が長いしね。
まぁ、恋人はいなかったから、そこのところはこっちが勝っちゃうのはしょうがないけど。
や、ロイは恋人じゃないけどさ!
ロイと、もう二度と会えなくなると思うと…、やっぱり淋しい。
切ないというか、哀しいというか。
帰れるのなら、これ以上想いが深くなる前に帰りたい。
恋ってさ、その激しさは一時の感情だとしても、人を惑わすよね!
思春期の頃の柔らかな心じゃなくなったアラサーでも、やっぱりそんな風に思うとは、我ながら驚きだわ。
真夜中、ふっと目が覚めた。
喉が渇いたな…。
隣の簡易ベッドからはルイーセの安らかな寝息が聞こえる。(聖女専用のテントだけど、ウィリディスの浄化の旅の時からずっとルイーセと一緒に使っている)
私は起こさないようにそっとテントの外に出た。
夜番の騎士君の元に行くと
お、ロイとオッドじゃないの!
「お疲れ様。お水が欲しいんだけど、すぐ飲める水ってある?」
「聖女様! 少しお待ちください!」
オッドは素早く立ち上がると、炊事場の方に走っていった。
思いがけなくロイと二人になったわ。
話をしながら待つ。
交代とかないの? 一晩中寝ないの? 徹夜して移動の時とか昼間どうしてるの? なんて。
ロイは、はい!はい!と小さい声だけどキビキビ答えてくれる。
相変わらず生真面目だなぁ。思わず顔がほころんでしまう。
「早朝番と交代して仮眠をとりますので大丈夫です!」
「仮眠で大丈夫なんだ…。若いってすごいわね」
さすが二十代半ば。
鍛えてないアラサーにはムリだわ。
……言葉が途切れた。
静かな夜の時間。
時折り吹く風は心地よく、目の前には想う人がいる。
そういえば…
スマラグティーに発つ何日か前にも、ロイと二人で話した事があったなぁ。
今夜は月は見えないけど。
ロイと目が合う。
あ、ロイも思い出しているね。
何故かお互いそうわかって、二人で笑い合った。
「……聖女様お待たせしました」
「ありがとう」
オッドが渡してくれた水を受け取りながらお礼を言うと、あれ?火に照らされたオッドの顔色が悪いように見える。
ロイは大丈夫と言ったけど、やっぱり夜勤って疲れるんじゃない?経験ないからわからないけど。
夜勤だけじゃない、昼夜問わず守ってくれる護衛騎士たちに、改めて感謝だわ。
気持ちはきちんと、日々ありがとうを伝えよう。
それから、眠気が訪れるまでしばらくの間おしゃべりをして過ごした。
ロイとこんな風に話すのも随分久しぶりだ。
やっぱちょっと嬉しいわ。いや、かなりかな。
真夜中のテンションに、問われるまま日本の話なんかもしながら(かなり驚かれたけど)穏やかに、夜は更けていった。




