5.5
◇◆オッド◇◆
浄化の旅を始めて一ヶ月ほどになったある日。
この日は移動日で、聖女様たち女性陣が休憩中に川で洗濯をする事になった。
天上人であらせられる聖女様が自ら洗濯をなさる…。
初めてそれと知った時は我が耳を疑った。
侍女は何をしている!聖女様に洗濯など!
そう憤ったのは今回から浄化の旅に加わった我らだけで、前回の旅からの騎士たちは慣れたように聖女様につきそう。
聞けば、聖女様はご自身の洗い物を他の者にされるのを嫌がるのだそうだ。
確かに、聖女様の持ち物を他人に触らせるなどあってはならない事…、なのか?
洗濯など、下々のする仕事ではないのか?
今回組の私たちは大いに混乱した。
護衛は、洗濯を兼ねて女性騎士がつく。
男性騎士たちは少し離れて護衛に立つ。
何故離れるのか?
聖女様は洗濯ついでに沐浴をなされるからだ。
沐浴着は薄い生地のワンピースで、それは濡れると身体のラインをはっきり見せてしまう。
何故知っているかというと、悲鳴のような歓声に(水のかけ合いをしておられただけ)反射で聖女様を見てしまった事があるからだ。
沐浴をする聖女様は、あまりにも…
いや、崇め奉る聖女様に対して、何らかの感情を抱くなど言語道断!チラリとでもそのお姿を見てしまうなんて事は許されない!
その後は歓声と悲鳴を聞き分けられるよう、辺りへの警戒以外にも一心に集中した。
楽しそうなお声に、我らはソワソワと落ち着かない。皆一度はそのお姿を見てしまった者たちなのだ。
私たちは、何ともいえない、互いに分かり合える、ある感情を…、なかった事にする。
それも今では慣れたものだ。
聖女様たち(一緒にするにはお恐れ多いが)女性陣が洗濯を兼ねた沐浴をしている間、男の私たちは聖女様に背を向け平常心で護衛するようになった。
その日、聖女様は他国からの魔法接触を受けた。
エミル様の防御魔法でその魔法は弾いたが、その時は知らず、聖女様の悲鳴に反射で振り向く。
聖女様は川に倒れ込まれるところだった。
緊急事態に、我らは聖女様の元に走る。
一番近くにいた私が一番早く聖女様の元に駆けつけた。
そして見た。一番近くだからわかった。
聖女様は、ただロイだけを見ていた。
ロイだけに手を伸ばされていた…。
それとわかって、私は一瞬戸惑った。
その一瞬に、ロイは躊躇なく聖女様を抱き上げた。
「皆、背を向けろ! 次の攻撃に備え!」
ロイの大声が響く。
一番近くで見たから気づいた。聖女様のお姿を見てはいけない!
近くまで駆け寄った何人かの騎士も、皆背を向け次の攻撃に備えた。
私も次の攻撃に備える。意識しなくとも動く身体とは別に、頭は激しく違う事を考えていた。
聖女様… 何故?
◇◆ロイ◇◆
キャッキャという歓声とは別の、小さな悲鳴が聞こえた。
反射で聖女様を見る。聖女様が川の中に倒れ込むところだった!
ただの遊びではない事は、その場の女性騎士たちの表情からわかった。
我らは急いで聖女様の元に走った。
一体何があった? お身体のご不調か? まさか何らかの攻撃か?
聖女様の元への何十秒かの間に、めまぐるしく考える。
あぁ!それよりも!
川の水を飲んだのであろう聖女様が苦しそうに咳き込まれている!
誰かを探すようにしていた潤んだ目が俺に止まる。
助けを求める手が伸ばされる。
聖女様!!
早く!早く!聖女様をお助けせねば!!
!!!!!
抱き上げた聖女様は、こんな時だというのに、一瞬で目を奪った。
いや!!
「皆、背を向けろ! 次の攻撃に備え!」
聖女様のこのお姿を誰にも見せてはならない!もちろん俺もだ!
聖女様を見ないよう、まっすぐ前を向いて歩く。
聖女様は、咳と一緒に水を吐き出される事を気になさっていた。
いいんです!
お気になさらず全部吐き出してください!
苦しそうな聖女様を見て、少しでも早く楽になっていただきたい思いが込み上げる。
苦しい思いなど少しもしていただきたくない。
代われるものなら代わって差し上げたい。
聖女様の身体を隠すように足早に女性騎士たちの元に行き聖女様を託すと、急激に怒りが沸いてきた。
誰が! 一体誰が!! 聖女様をこんな目に遭わせたのだ!!
聖女様の無事が確認できた皆が思う事は同じだ。
その場は聖女様を案じ警戒する気配から、ギラギラとした怒りへと変わった。
それは野営地に戻っても同じだった。
副団長の本気の怒り…。
自分たちも怒ってなかったらとても耐えられなかっただろう。
やっぱり副団長は恐ろしい。いや、頼もしい。
その後、大陸一の大魔法使いの本気の捜索で、聖女様に危害を及ぼした国はあっさりと見つかった。
末端の騎士にはどのような制裁が下されたのか知る由もないが、大事な大事な聖女様にお辛い思いをさせたのだ、盛大に苦しめばいい。
それは第二騎士団全員の総意だ。




