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機械の中に入った二人のアーシェが機械を作動させ、その後元の一人のアーシェに戻った。ただ、その時点ではまだ安心しきることは出来ず、何かの問題がないか、記憶の齟齬や感情の喪失、俺やフェリに対する想いがどうなのかを調べて一応大丈夫そうなので今のところは安心、ということになった。まだ宿で夜寝るときや、そのほか何か問題が起きないかという不安はあるがそこまで今言及しても仕方がない。経過観察を行うしかない。もっともアーシェが言うにはそういった問題はない、とのことだ。あの情報でどうやってアーシェは正確に物の使い方や機能を理解しているのか。
そうしてとりあえず大丈夫だと言うことで宿まで戻ることになるのだが……また、俺が苦労することになった。もっとも今回はアーシェを外に連れていく必要はなく、俺だけが注意して移動するだけだったので大した問題はなかった。アーシェに関しては連れてきたときと違いフェリとアーシェが同時に入った記録があるので問題はない。
宿に戻ったら今度は部屋の問題である。二人部屋を引き払い、三人部屋……ということになったのが。これがこれで、ベッドをどうするかという話になった。まあ、なんというか……特にアーシェが、俺やフェリと一緒に寝たい、ということなので。三人で寝るか、二人と一人に分かれるか。なお三人別々に寝ると言うのはアーシェが拒絶した。その後色々と話し合った結果フェリの抵抗にあったが三人で川の字で寝ることに決まった。間にアーシェを挟む形であればフェリも一応納得できるようなので。
そんな微笑ましいような、修羅場なような出来事があって数日。アーシェも問題なさそうなのでアルテメットの街から次の街へと行くことにするのだが、それよりも先にこれからのことを決めなければならない。
「これからどうするつもりだ?」
「え?」
三人で集まり、旅の話をする。俺とフェリに関してはアーシェについていくつもりだから重要なのはアーシェの目的、事情、予定だ。
「俺はやりたいことがない、フェリはアーシェにつきそう。旅の目的は師匠を探す、みたいな話だったわけだが……このまま続けるか、それとも戻るかだ。一年で戻ってくるみたいな話じゃなかったか? 一応まだ時間はあるが、ここから戻るにも結構な時間がいるぞ?」
「うーん、そっか。確かに戻らなきゃいけないかも……師匠を探すのは、旅の理由みたいなものだったからそこまで重要じゃないし、でも戻らないと……お、怒られちゃう!? それは怖いから、戻ろう! ミツヤスさん、フェリちゃん!」
「……そうね、アーシェの住んでいるところも見てみたいし」
「まあ、これからのことっていうのはそれだけじゃないんだけどな」
他の色々な問題もある。
「アーシェの実家の問題とかもあるし」
「え?」
「ええっ!?」
「アーシェは貴族だろ? 流石に色々と聞けばわかる。機械のところでもアルシェリット・ヴィルレンスって言ってたしな」
「あー! た、確かに言ってたかも!?」
「…………ヴィルレンス? え、本当にヴィルレンスなわけ!?」
ヴィルレンスはかなり大きい貴族である。まあなんとなくアーシェの雰囲気というか、ずれた感じとか、持っている物の素材とかそういうのを考えればいいところの出っていうのは予測できる。それが大御所かそこまででもないか、ってだけで。
「えっと、うん……黙っててごめんね」
「別にいいわよ。貴族だからってアーシェがアーシェじゃないわけじゃないし。でも、貴族? 流石に貴族がその辺を歩いているのって問題じゃないの?」
「今更だろ。そもそもアーシェは錬金術師だったわけだし」
本当に何か重要な役目とかそういうものがあればあんな港町でいきなり放浪するような師匠の下に娘一人で送り出すわけはない。
「えーっと、一応お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかいるから、私は自由にしていいよって言われて……」
「それ、ありえないでしょ。だってアーシェって全属性とかそういう話じゃなかった?」
「うん……」
「つまり、アーシェは錬金術師になってほしいって思われてたんだろうな。数も少ないし、何か……あったんじゃないのか? 知らないけど」
貴族の事情に関しては俺も詳しいわけではない。せいぜいどこにその貴族がいるか、くらいだろう。大体の貴族は街の名前を持っているし。アーシェの事情もそこまで詳しくは知らないが、錬金術師の弟子になっている以上少なくともそうする意図はあったのだろう。それ以後、錬金術師になってからのその後どうするつもりなのかは知らないが……錬金術師の数が少ない以上、少しでもなる人間を増やしたいかったのかもしれない。全属性の魔法使いは珍しいのかもしれないが、一人で全部を担う必要性はないだろうし。複数の魔法使いを使えば同じことができるなら全属性は絶対に必要な存在ではない。しかし錬金術師は個人で全属性を持たなければいけないっぽいので全属性は錬金術師に回した方がいい、みたいなことがあるのかもしれない。まあそういう国やら貴族やらのお上の事情とやらは俺は知ったことではない。
「たとえ、貴族だろうと……アーシェが望むことを阻むなら、斬り抜けるだけだ」
「ミツヤスさん……」
「物騒ね。まあ、アーシェを守るのがミツヤスの役目だし。私もアーシェのために手伝うくらいはしてあげるわよ」
「フェリちゃんも……」
そんなふうに三人で息があっているのだが。
「もう、そんな危ないことにはならないって。でも、師匠のところには戻らないとだめかな。錬金術は私のできる一番すごいことだし、まだまだ学ぶこともあるし。あ、でも……ミツヤスさんとフェリちゃんがいるなら住むところは別にしないと。師匠のところだと部屋は多くないから」
「ああ……じゃあ戻る旅の途中にお金儲けでも考えるか」
「冒険者らしく魔物でも狩る? アーシェに加工してもらうっていう手もあるかもしれないけど」
「わたしだって戦えるよ? でも、錬金術を使うのも確かにいいかも? もっと上手く作れるようになりたいしね」
ひとまず方針は決まる。アーシェの師匠を追う形でくるりと国を一周する旅は終わらせ元の……俺とアーシェの出会ったアーシェの師匠の家のある街に戻る。その途中、皆で住まうことのできる建物もしくは土地を購入できる費用を集める。つまり旅ついでに狩りなどを増やしながら戻ると言うことだ。なんというか、今までの半ば観光じみた旅と大差はない気がする。それはそれで何も問題なくいけるということでいいんだが。
「じゃあこのまま先に進みながらあの街に戻ろうか」
「うん、そうだね! じゃ、行こうミツヤスさん!フェリちゃん!」
「あ、ちょっとアーシェ!?」
「……まったく、行こうと言われても困るんだが」
すぐにここから旅立つ準備をしているわけではない。アーシェが冷静になったら戻ってくるだろう。それまでに全員の持ち物をきちんと片付けてすぐに旅立てる準備をしておこう。
これからも、色々と大変なことはあるんだろう。それでも、アーシェがいる、俺がいる、フェリがいる。三人いれば文殊の知恵とまではいかなくとも、十分やっていける、やっていく。やれるだけの力はあるつもり……だけど、まだまだ師匠には及ばないからな。俺も今まで以上に鍛える必要があるか。いずれまた師匠に連絡でも取って鍛えてもらわなきゃいけないか。アーシェやフェリに何かあったら嫌だからな。
「っと……意外と早く戻ってきたな」
二人がここに戻ってくる気配を感じる。意外と早かった。アーシェをちょっと意地悪に迎えてやるとするか。




