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「はあ…………はあ……」
翌日、昨日と同じように無言で進み、そのままアーシェが倒れこんだ。昨日のように何か言うこともなく倒れたのでこっちの方が困ったものである。昨日のようにいかないのは理由としては明白だ。昨日やった山賊殺しの影響だろう。直接見せてはいないけどやっぱり人を殺したと言う事実はかなり大きなものだろう。
「大丈夫か?」
「…………はい」
声に力がない。相当無理している感じである。
「……やっぱり不安か? 人殺しが近くにいるのは」
「っ! 違います!」
「おい……倒れたばかりなんだから無理するな」
「…………はい」
ふらりと倒れこむ体を支える。横にするよりも木などに立てかけたほうがいいか?
「ちょっと……休んでから言います。ただこれだけ…………私はミツヤスさんのこと信じてます。だから、不安とかそういうのはないです」
「そうか」
少し休んで起き上がれるようになり、アーシェの方からこちらに話してきた。
「えっと……その……私が何も言わなかったのは、ミツヤスさんが怖いとか、ミツヤスさんに不安があったとかそういうのじゃないです。ミツヤスさんがあの人たちを………………殺したって言うのはわかります。でも、それでミツヤスさんのことを人殺しだとか、悪い人だとか……そういう風には思いません。あの時、私は何もできないで、なにも気付かないで、ただ……立っているだけで、全部ミツヤスさんがやってくれていて……確かにあの時は怖いとか不安とか、そんなふうに思ったけど、全部、全部ミツヤスさんがやってくれたんだもん! 私に見せないようにもしてくれてたのに、ミツヤスさんのこと悪くなんて言うわけないもん!」
「落ち着け」
「ごめんなさい! 全部ミツヤスさんに任せっぱなしでごめんなさい!」
「大丈夫だから、な……うん、大丈夫だ、大丈夫……」
なぜかアーシェの方が泣いてこっちに抱き着いてくる。別に俺はそのあたり傷ついた感じではないんだが……まあ、その点ではアーシェの方がショックが大きかったのかもしれない。アーシェの言う通り、こちらに任せる形になって人殺しをさせた、という感じに思ったのだろう。自分のためにこちらに人殺しをさせた、それはかなり心情としてはつらいところがあるのかもしれない。まあアーシェがいようがいまいがあいつらを殺すことにはなっただろう。山賊や盗賊の類を生かしておけば別のところに被害が出るだけだ。見つけ次第、出会い次第、襲われ次第可能な限り殺しておくべきなのだから。
「えぐっ……ミツヤスさん、大丈夫なの? 人を殺すって怖いことだよね……?」
「そりゃあ普通の人間を殺すのは怖いだろうな。だけどああいう山賊や盗賊って言うのは人を殺して、捕まえて、ぼろぼろにしてその全てを奪う悪い奴らなわけだ。そのまま放置している方がもっと多くの被害者を出してろくなことにならない。ある意味魔物みたいなものだと思うべき相手だよ。俺はそのあたり十分手にかける覚悟はできている。今までも旅の過程で魔物を退治する最中、そういう手合いと戦ったことは何度もある」
最初は色々と思う所はあった。しかしそもそも俺がこの世界でずっと奴隷をやっていて、その過程で売られていく奴隷もいくら見たことだろう。自分が管理して、売買に手を貸していたのだからそのあたりの感情は今更だ。そして師匠について魔物を退治し、そういうやつらと会って討ったこともあった。最初は思う所があったがもう今更だろう。
「それに、アーシェが無事でいるほうが大事だしな。何されるか知ってるか?」
「よく知りません」
「そうか。まあ、色々と酷いことになる。俺にはあいつらよりもアーシェの方が大事だから、アーシェを守るためならいくらでもああいう手合いを殺すのに躊躇はないよ」
「……ミツヤスさんにそんなこと思ってほしくはないです」
「そうか。でも優先するべきは俺やアーシェの安全の方だ。それは忘れないでくれ」
「……はい」
その後は少し休んだ後、山の頂上に到達する。先ほどまでの重い会話、雰囲気を振り払うかのような広く雄大な景色。まあこの辺りは山の類はあまりない。かなり広い草原や丘陵、森などが見える。この辺りは、まだ荒野や砂漠の類はない。どちらかというとなかなか大変な地形が多いのは向こう側の方だったかな……旅生活はしていたが、あまり地理の類は詳しく覚えていない。あっちこっちに行ったり来たりだった。
「わー……すごいですね」
「そうだな。高い所からは色々なものを見下ろせるからな」
「あ、あそこ街ですよね」
アーシェの指差す方向には小さく街の影が見える。まあ結構遠くだ。ここから山を降りて二日くらいは歩くだろう。
「次の行き先だな。まあその前に山を降りなきゃならないが」
「ふええ……でも、登ってくるよりは楽だよね……」
下りの方がきついと言われいているがそれは言わないでおこう。希望があったほうが元気が出る。
「……どうする? そこに頂上ということで休憩できる山小屋があるが」
「え? 使っていいんですか?」
「まあ一応な」
本当に場所だけ提供してくれるくらいだろう。
「頂上の山小屋で休んでちょっと遅めに街に到着するか、それともできるだけ急いで野宿でも街に向かうか」
「……街に行きたいです。宿で休みたいかな」
「そうか。なら早めに降りようか……まだ日は高いしな」
登りが登りだったから一日で降りれるとは思えないが。
それから何度か野宿を入れ登りの半分くらいの日数で山を降り、平野を進み街へと向かう。その途中狩りや錬金術に使えそうなものを見つけるとちょっとだけ採取し、夜休む時間にちょっとアーシェが錬金術で色々と作っていた。まあ虫除けの類も必要だったしそういう点では有用だしそういうものがあったほうがいいが。そういった物を採取したりするとどうしても遅くなるので本当に見かけてすぐに取れるものやどうしても邪魔になったり狩りやすい所にいたくらいである。
平野の方では特に危険の類はない。基本的に平野は見通しが効き、肉食の魔物というものはあまり獲物を捕るのが難しい環境だ。もちろん全くいないと言うわけでもないが、警戒したり場合によっては逃げてもいいのであまり危険ではない。そのかわりこちらも動物魔物共に狩るのは難しい。向こうの警戒心が強いので近づこうとすると逃げたり隠れたりするからだ。俺なら多少どうにでもなるものの、無理に獲る必要もないのであまり気にしない。せいぜいがこの平野でも取れるような薬草などが主である。
対魔物、戦闘分野に関しては俺の方が強い。まあそれを専門にしてずっと戦ってきたのだから当然と言える。しかし薬草や魔物素材に関してはアーシェの方が知識は高かったりする。それは錬金術で使う機会が多いと言うのもあるし、どれがどのような効果があるのかを知らなければ利用も難しいからなのだろう。そういう点ではアーシェには勝てない。まあそういう素材を使うのはアーシェだし、俺が活用できるのはギルドに依頼で提出するくらいなので別にいいのだが。
「待たれい! 街に入るならば何か身分証を確認したいがよろしいか!」
「あ、はい」
「はい大丈夫です!」
街まできて恒例の中に入る際の身分証明確認である。しかしこの兵士妙に芝居がかかった喋りだな。たまに変な兵士がいることがあるのはすでに経験済みだが……まあ喋りが変なくらいだし大したものでもないか。
身分証明として冒険者証を兵士に見せ、問題なしと判定され中に入る。ついでに兵士に泊まれる宿屋を紹介して貰いそちらに行き、そこで宿をとり久々に野宿でない部屋でゆっくりと休めることとなった。もちろんだが二人部屋である。




