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「ミ、ミツヤスさーん!!」
「…………休むか」
「は、はい……お願い、しますっ……」
ばたり、と地面に倒れこむアーシェ。別に体調が悪いとか怪我しているとかそういうものではない。アーシェはそもそも師匠の手伝いを幾らかしているためか体力はある。錬金術はいつも見せる箱に入れて何かを作るという工程が基本にあるようだが、作った物を運んだり持ち込んだ物を整理したりと肉体作業はないわけではない。
しかしそういった体力はあくまでそういった作業に対する適正的な物であり、根本的にアーシェに体力があると言うわけではない。何が言いたいかというと、アーシェには旅をし続けるだけの体力はないのである。せめて平地ならばまだ体の調子を騙しながらギリギリやっていけなくはないのかもしれないが、それがあまり整備されていない山地、それも登りの道となるとかなりの体力を消費する。よく降りるほうが肉体に対する消耗はきついと言う話だがどちらにせよアーシェには酷だろう。
なので今は時々山道の途中でアーシェを休ませている。平地とは違い山は色々と大変なことが多い。場合によっては野宿用、狩猟者用の山小屋などがあってそれを借りられることもあるかもしれないが基本的には野宿となる。こういう場合は獣除け虫よけなどがいるのがなかなか大変だ。虫よけはアーシェが錬金術で自作できるので問題ないが、獣はどうしようもないだろう。まあその辺の獣くらいであれば俺だけでも十分何とかなるのだが。
「はあ……はあ……」
「大丈夫か?」
「……ちょっと休めば……なんとか……はあ」
アーシェはあまり疲れたとか無理とか言わないタイプだ。それがこちらに対して遠慮してなのか、もともとそういう性格なのかはわからないが。そのせいでかなり疲労してその様子から休むのが必要だと判明するケースが多い。倒れるまでがんばるなといいたくなる。
「最初は…………凄いなーって思ったんです……遠目から見るとなんかすっごくおっきな山があるなーって。でも……それを登るのって大変だったんですね……」
「そうだな……行っておくが、この山そこまで高くないぞ」
「ええっ!? もっと高い山があるんですか!?」
「ある。雪が積もってたりもするな」
「ふええ……」
かなり驚いた様子だ。そもそもアーシェは街の中で過ごしていたようだがそれ以前はどうだったのだろう。恐らくは貴族か何かだったはずだから結局変わっていないのかもしれない。それでも山の一つや二つも見ていないのは……平野出身ならあるのか? 移動もずっと馬車の中で出してもらえないとかだったら見たことないのもあり得るのか。もしくはあの師匠とやらについたのが幼い時代だったとか。まあそういったことを考えても本人が話さなければわからないし無理に聞く意味もないな。
「まあ、そんな山にはよほど山登りが好きか、そこに稀少な薬草でもあるとかでもなければ登らないな。そもそも崖のようなところもあるだろうしかなり危ないだろう」
「そうなんですかー」
まあ俺はそういう山に師匠に連れられて登ったことがある。崖から崖に飛び移ったり、空を飛ぶ魔物に掴んで乗ったり、その魔物を足場に別の足場に飛び移ったり…………何度死ぬかと思ったことか。まあ経験としては十分すぎるほどだ。
「……さて」
「どうしたんです?」
剣を抜いた俺に反応するアーシェ。
「アーシェはゆっくりしていろ」
「何かあるんですか?」
「ちょっとした馬鹿がいるだけだ」
少しして旅商人が通る。休んでいるこちらを見て興味を持ったのか声をかけてきた。
「おや、こんなところで休んでどうかしました? 大丈夫ですか?」
「はいー、大丈夫ですー……」
まだ少しけだるそうにアーシェが答えている。旅商人はにんまりと笑顔を浮かべ言葉を続ける。
「そうですか。お二人だけですか? 他に誰かいらっしゃるわけではないのでしょうか?」
「そうです……ミツヤスさん?」
「ん? どうかしたか?」
「えっと……」
特にいつも通りである。
「そうですか。しかしお二人で旅とは大変でしょう。何か買っていきませんか? 安くしますよ?」
「え? 別にいいですよー。旅の道具はちゃんと持っていますから」
「いえいえ、こちらとしても旅の途中で荷物を減らせれば少しは楽ですし……」
そう言って旅商人は持っている持ち物を漁り始める。まあ、この辺りが頃合か。俺はその旅商人に斬りかかる。
「ミツヤスさん!?」
「っ!」
大きく跳び退る旅商人。漁っていた持ち物から取り落としたのはショートソードだ。
「ちっ! おい! 出てこい! 囲むぞ!」
「ずいぶん手間のかかることをしてるな」
「え!? え!? ええ!?」
アーシェだけは驚いて何もできていないが、いわゆる山賊たちである。旅商人に偽装して不意打ちでもする気だったのかは知らないが…………随分丁寧にやるものだ。まあ結構偽装は雑だった感じだったがな。
「なんだばれちまったのか」
「ばれようがなんだろうが二人だ。どうとでもなんだろ」
「へへっ、久しぶりの女だぜ」
ぞろぞろとろくでもないぼろ格好の山賊どもである。もしくは盗賊か? まあどっちでもいいな。しかし随分と舐められたものだ。たったの八人で周囲を囲んでいるだけで勝ったつもりか。まあこっちはアーシェという足手まといつきなうえに戦力になるのはたった一人。これで自分たちが不利だと思う集団もいないか。
「はっ。大人しくしていればよかったのによ。そうすれば痛みも感じずにあの世に送ってやったっていうのに」
「ずいぶんふざけた話だな。俺は殺される気なんてないんだがね」
「ああ、いいぜ。殺さずにじわりじわりと痛めつけてやるよ。まあ治してやらねえからそのうち死ぬかもな。そこの女は俺たちが有効に使ってやるぜ?」
ふうん……ずいぶんな奴らだ。
「アーシェ」
「な、なに!? 戦うなら私も……!」
「俺を信じて目瞑ってろ。見ても気にしないなら目を開けててもいい」
「え?」
「すぐにどっちか選べ。まあ目を瞑るか瞑らないかだ。三……二……」
アーシェの動きが手に取るようにわかる。言われた通り目を瞑ったようだ。まだそのあたりの覚悟はできてないか……まあアーシェに殺しをさせる気はない。覚悟なんてせず、穏便に安穏にしていたほうがいいだろう。
「っ! 殺すぞ!」
賊のうちの誰かが不穏な雰囲気に気づいて叫ぶ。まあ、それも遅い。
「一!」
こういう時は零で動くべきだろうけど、もうアーシェが目を瞑っているし気にする必要はない。一歩踏み出し、周囲の時間が遅くなる。俺が速くなったのか周囲が遅くなったのか、まあそれはいい。一歩踏み出したそのままの勢いでまず先ほどの商人のふりをしていた賊を切り捨てる。そのままステップを踏んでくるりと方向転換、周囲を囲む賊の方へと向かい一気に二人斬り捨てる。この時点でだいたい半分か。ちょっと急がないとダメそうだな。どうせならまだ生き残りがいないか確かめておきたかったが……まあそれは別の正義感のあるやつがここを通ったときに任せよう。残った賊を一気に斬り捨てる。最後の相手を切り捨てる前に時間の流れが戻る。それと同時に剣が賊を襲い、何かを叫ぶ前にその命を奪った。
「…………ふう」
油断大敵。この時点で本当にまだ他に残っている相手がいないか。気配でなんとなくわかるが、それでも安心安全ではない。俺もなかなかの剣士である以上そうそう隠し通せるものではないが油断は大敵だ。息を吐きながらも周囲を探り……本当に安全とわかった時点でアーシェの側による。
「アーシェ」
「え、ミ、ミツヤ」
「まだ目を閉じたままで。このまま手を引いていくから開けていいってところまで来たら開けていいから」
流石にこの惨状を見たらひどい状態になりそうだ。アーシェの手を掴みアーシェを案内する。ぎゅっと手を掴む力が強い……まあ、不安だろうな。そのまま道を少し行った所でアーシェに目を開けていいと言って目を開けさせる。
「よかった……ミツヤスさん無事だったんだ」
「無事じゃないのにどうやって手を引くんだよ……とりあえず、あいつらはなんとかしたから」
「……はい、ありがとうございます!」
少し明るめな笑顔で言われる。ただ、言葉にちょっと震えがあった。まあ賊をどうしたかなんて言わなくてもわかるだろう。実際に見ていなくても、そういうことをした、そういうことをする相手がいると言うのはちょっと不安や怖さというものがあるだろう。
しばらくはそのまま無言で道を進み、途中で野宿となった。山だから虫よけを使い虫を避けつつ、獣は俺が相手をする。流石に獣相手にアーシェに見張りはちょっとつらそうだ。眠気は強いが、うっすらと眠るだけでも十分睡眠は解消できる。浅い眠りなら気配の探知は維持できるからまあなんとかなる。




