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特に情報は得られたなかった。そうして宿に戻って二人で話し合う。今後のことを決めるために。
まず最初に決めるのはこれ以後もアーシェの師匠を探し続けるのかそれとも戻るかである。まず現時点で手掛かりの一つもつかめていない状態、アーシェの師匠である錬金術師の仕事についても知ればもしかしたら何かの用事で呼ばれそちらに出向いたと言う可能性もある。一年帰らないと言うのもそれくらい遠くに出向かなければならないと言う事情であれば仕方がないと思う。そもそもアーシェの師匠はアーシェが自分を追ってくることを考慮しているとは思えない。残っていることが前提であると考えるべきだが。
しかしアーシェの答えはやはり師匠を追うということだった。
「そこまでしてどうして師匠を追うんだ? やっぱりまだ学び足りないとかそういう理由か?」
「んー…………最初はそう思ってたんだけど、今は少し違うかなー?」
「と言うと?」
「私、師匠が何やっているのかってあまり知らなかったし、師匠のところで言われるまま錬金術やっていたばっかりだったなーって思ったんです。でも、師匠のことを聞いて、錬金術師のことも聞いて……もっと何かできないかなって思って。だから師匠を追って直接家の中でしかできないことばっかりやるんじゃなくてもっといろいろ知りたいって思って…………あと、ずーっと街の中にいたばっかりだったから旅していろいろ見てみたりしたいなって思うのもあるかな?」
なるほど。今までずっとただ言われるがままにやってきただけであれやこれやを見てこなかった。でも初めて外に出て色々と経験して色々と知って、もっと何かをしたいって思ったのか。まあずっと家の中で缶詰でただ勉強してきただけであれやこれやと楽しいこと面白いことを知らなかったと言うのも影響しているのだろう。むしろ最初に起きたことは下手したらトラウマになりかねない出来事だったと思うけどな。
「それで……その……ミツヤスさんには迷惑かけると思うけど……これからも、一緒に旅してくれませんか?」
「…………」
「あうう……やっぱりだめですよね……」
何も言っていないのだが。まあそもそもからして断られる前提で考えていたのかもしれない。このままなし崩し的に別れても困るだろう。
「ダメとは言っていない。そもそも最初に旅についてきてほしいと言ったのはアーシェの方だろ? 俺はそれを了承して旅についていくことにしたんだからこれからもそれは変わらないよ」
「え!? でも……そもそも最初の時も私が無理に頼んだような感じだし……」
「気にするな。本気で嫌なら見捨てていくこともできる……もし見捨てていなくなってたらアーシェはどうする気だった?」
その点に関しては少し気になるところではある。もし俺がいなくなることでアーシェが住んでいるところに戻るのであればむしろそうしたほうがいいのかもしれない。
「……多分師匠を追うのには変わらなかったと思います」
「そうか。ならなおさら俺が抜けるわけにもいかないだろうな。アーシェは一人で旅なんてできないだろ」
「できますよ……! 物だっていくらでも持っていけるし、魔法だって使えるもん!」
そう勇ましげな表情で言うが、まず無理だろう。この世間知らずの娘が一人で旅をして、悪い奴隷商にでも取っ掴まって売られるか、盗賊山賊に掴まってぼろぼろにされるか。そうでなくともどこかでお金を使い切って帰ることすらできないのではないだろうか。俺がいれば安全とは言わないが、少なくとも一人旅よりも安全だろう。
「最初に狼に囲まれてがぶがぶ噛まれていた人間の台詞とは思えないくらいに勇敢だな」
「はうっ」
「狼でそれなら人間相手はまず無理だろ。そもそも人殺しできるか?」
「む、無理です……」
「いい話があるんだと話しかけられたがどうする?」
「話を聞きますよ。いい話なんでしょ?」
駄目だ。不安すぎる。
「普通はいい話があるなんて言ってくる奴はいないだろ。アーシェがもしおいしい食べ物を手に入れたら誰かに譲ったりするか?」
「……えっと、ミツヤスさんなら譲ってもいいかも?」
「俺じゃなくて普通の奴な。まあその様子ならまず譲らないだろ。アーシェと同じような考えならアーシェにいい話を持ってくるのは変じゃないか?」
「そう……ですね」
「そういうのは大抵路地裏に連れ込んでぐちょぐちょにされるからな。もしくは奴隷にされてどっかに売られるか」
「ぐちょぐちょ!? 奴隷!? さすがにそれはやだ!」
「まあ、そういうことをアーシェは知らないだろ? 一人で旅なんて無理」
「あうう…………無理ですー」
まあそうだろうな。単純に移動するだけならお金もあるし持ち物も幾らでも持っていける、服もかなり頑丈で汚れも問題なく旅には適しているのかもしれないが、いかんせん本人の知識や能力、精神性の問題がある。俺もそこまで優秀というわけでもないが、師匠とずっと旅三昧だったわけだし経験的にそういった俺自身の問題はなんとでもなるだろう。
「だから俺がついていく。アーシェだけじゃやばそうだから」
「はい、お願いします……」
ずーん、とちょっと気落ちした感じだ。まあ仕方がないかもしれない。徹底的にこき下ろされたような感じだし。でも一度アーシェは自分がどの程度できないかを分かったほうがいい。どの程度できるかではなく、どの程度できないかを。
翌日。旅に必要なものを順次足りていない物を購入する。ちょっとした時間とはいえ野宿なりなんなりを経験し、何が足りていないのか、何があったほうがいいのかを少しだけわかっている。それで足りていないと思われるものを購入しつつ、アーシェの鞄に多くを入れる。俺自身が持つ分はあれどもアーシェのかばんはやっぱり便利だ。一つあるかないかで旅の難易度が変わってくる。
その日は一日街であれこれ見て回り過ごし、翌日朝に旅立てるように早めに寝ることにする。できれば野宿を経験することは少ない方がいい。だから朝に出て早めに到着できるようにする。
翌朝。いつも通り目が覚め、アーシェを早めに起こす。
「起きろー」
「うーん……おはよーございます」
のそりと起き上がるアーシェ。まだ半分くらい寝ている感じだな。まあ起こしさえすれば二度寝しなければ直に目も覚めるだろう。
「……あ、ミツヤスさんおはようございます!」
「おはよう。宿で朝食が出るからそれを食べて早めに次の街に行くぞ。すぐにでられるように準備な」
「はいー」
アーシェは鞄もあって寝ている間に汚れた服を着替えるくらいである。すぐに準備を終え、宿の朝食を食べチェックアウト、先日のうちに旅に出る準備は終えているので街の外に出るだけである。




