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全員で扉の中に入る。以前は私たちが呼び出されたその場所、特に何もないその場所。
「…………?」
何もない? それは少々奇妙なこと……いや、ちょっとだけある。赤い、血の跡が。血の跡だけが。
「達樹の死体は何処?」
「え? あ、確かになくなってるな」
自分たちの友人が殺された。それはいい、その事実はきちんと認識している。しかしその死体はどこかへと消えていた。
「……化け物が来て持っていた可能性は?」
「引きずった跡とかないと思います……」
「そもそも化け物が死体を持っていく理由は?」
「学人は黒井魔人がいなくなるまでいたんでしょ? 何かなかった?」
「いや、特に何も見ていない…………流石に死んだ彼にまで気を向けていなかったからはっきりとは言えないが、少なくとも何か起きたような様子はなかった。だが、もしかしたらあの時点で消えていた可能性はある。黒井が消えたのと同時に。もし死体を見ていればその確認をした可能性は高いからな」
学人は警察だ。それゆえにその手の技術はあるはず……多分。簡単に死体とかの見聞くらいは出来るんだと思う。でも、それをしなかった。それは死体を確認できなかった、いつの間にか消失していたから。あの後彼は私を追ってきていたからそれに意識を割いて死体のことを完全に忘れていたという可能性はあるのかもしれない。
「………………」
「死んだ人のことはいいでしょう? 今は奥へ向かうのじゃないですか?」
「っ」
死んだ人がどうでもいい、なんて言われると友人を失ったこちらとしては頭にくる。しかし、彼の宗教観か死生観か、生まれの違いとかもあってそういったかもしれない。そもそも彼らにとっては赤の他人だ。身近で死んだことに感情を動かされるとしても、こちらほどの関心を持つことはないかもしれない。それに今は先に進む方が大事なのは確かだ。もしかしたら、という可能性だってある。
「おい……」
「そうね、奥へ行きましょう」
「夜江?」
「……何とかする方法もあるかもしれない」
願いを叶える輝く杯。もしかすればここから戻るだけでなく、達樹をよみがえらせることができるかもしれない。期待できるかどうかはわからないが、それができる可能性を考慮に入れておく。
広間の先、その扉の先へと向かう。二つの分かれ道の先でもそうだが、ここから先は完全に未知のエリアだ。奥がどのような構造かわからない、どんな危険があるかわからない。突然化け物と出くわす危険を考慮して拳銃を持つ学人、その肉体が放つ武術が武器となる鵺夜が扉を開く。私達の側から積極的に先導する人物がいないのは正直どうかとも思うけど、つい先ほどまでゲームをしていただけの人間が武器を持っているわけもないし、一般的社会人が武力を持つわけでもない。学生に先を進ませるのは正直どうかとも思うのだけど、ステータス上では問題ないのでいいだろう……と思うことにする。
「うわっ!?」
「……っ!」
二人が扉を開け、その先を覗き叫ぶ。彼らの見た光景は私達もその扉の隙間から薄っすらと見える。彼らほど近くではっきりと見たわけでないからこそ彼らのように叫ばないが、それでもやはり遠目で見ても気味が悪い。
ぎょろりとした目、牙の生えた口、六本指の腕、触手の生えた足、何の生き物かわからない化け物の頭部、様々なものが壁から生えている。壁も肉質の壁からうぞうぞと動くでかい蛆が固まったようなものとなっており、床も不気味に鼓動する気味の悪い触手の塊のようだ。学人が恐る恐るその床に足をつけ、その肉の隙間に埋まらないかを調べている。明らかに隙間のようなものが見えるのだが、床はしっかりと固定されているのか沈みこんだりすることはない。その不気味な鼓動、脈動のような物、振動、そういったものは変わらず存在しているけど。
「……とりあえず歩いていけそうだな」
「でも気味が悪いですね……壁から生えている物とか」
目みたいなものぎょろぎょろと動いているが、こちらに視線を向けてくるとはない。奥へと入りこめばどう動くかはわからないが、本当にそこにあるだけなのかもしれないし監視のような役割を持つのかもしれない。そのあたりは今は不明だ。
全員でひとまず扉の先へと向かう。道は左右に分かれ、そこからまとまって一本道になっている……左右の道は手前へと戻る曲がり角になっている。
「なあ、これもしかしてあの分かれ道の化け物がいた場所の先ってここなんじゃないのか?」
「……もしかしてさっきの広間を通らずに行けたんじゃ?」
手前から続く道を見てすぐにその可能性に思い至る。私もそう思う。
「くそ、あそこで倒していればこんなことになってなかったんじゃ……」
「あのゲームマスターがそうできる可能性を残したかはわからないけどね」
「物理攻撃無効じゃ倒せないとかねー」
「……まあ、無謀に挑むよりはましか。ゲームが終わるか、ここに来るかの二択と言われるとあれだけど」
仮に彼らがゲーム通りになっていたとしたら、化け物と戦って犠牲者が出ればそれらは帰らぬ人になっているだろう。いや、今も黒井のせいでこちら側の一人が帰らぬ人なんだけど。もし人がいなくなっても全員呼ばれる可能性があったとしたら? その場合、相手を殺してって言うのは無理……その場合はどうしただろう。やっぱり別の方法があるということに考えが至るのだろうか。
「今更言っても始まらないわよ。さ、行くわよ」
「君は前に出るな。俺が前を行く」
「…………」
意気を示し先へと進もうとしたが、学人に止められる。不満はあるけど私が前に出ても肉壁になるくらいしかできないのだからしかたがない。
そうして八人揃いながら先へと進む。そうして進んでいると道が二つに分かれている。
「……分かれ道ね」
「どちらに行く?」
「……みんなで相談しましょう」
そうして八人集まるのだが、そもそも相談というのは良くない。
「わかりません…………」
「……結局両方行くならどちらから言っても同じでは?」
「結論任せます」
「……ダイスで決めると楽なんだけどな」
「なんとなく、どっちに行っても変わらない気がする」
「情報ないし、決めようがないわねー」
意見が全く統一しされない。まず判断材料が少なすぎる。そもそも私と学人が半ばリーダー役なせいもある。他に決める人間がいるから自分が決める必要がないということなんだろう。つまり責任を誰かに押し付けたほうが後で文句を言いやすいということである。友人なのに薄情な。
「……どうする?」
「そうね……二手に分かれましょう」
「二手に分かれる?」
私の発言で場がざわつく。まあ、せっかくまとまって行動しているのに人数を分けるのは何故かとも思うだろう。人数が多い方が色々な物事に対処しやすい…………と、思うかもしれないが実は違う。何故かというと人数が多くても役に立たない人間の方が多いからだ。特に私達の方。
「二つの道を全員で一つずつ調べるのは時間がかかる。時間をかけて調べてもいいかもしれないけど……その場合の安全は保障されない。人数が多くても時間がかかるだけで移動の手間も決定の遅さもあるし、そもそも戦える人が少ない以上あまり数だけいても仕方がない。二手に分かれ調べたほうが速いし、それぞれの行動決定が早いわ」
「……しかし」
「そもそもこのゲームで化け物と戦う方がおかしいの。相手の強さは人間で勝てるような強さじゃない音が普通。あったら即逃げるべきってくらい。人数が多いと逃げにくいでしょ? 道幅もそれほど広いってわけでもないし」
「あー、確かに普通は化け物と戦う前提じゃないよな……普通は」
そう言いながら直人が鵺夜の方を見る。ゲーム的なステータスで言えば鵺夜は戦闘用のキャラクターである……はずだ。一応学人も武器を持っているが、拳銃は威力もあるが一定の相手には効かない場合もある、というか威力最低値にされたりすることもあるので難しいところ。まあ便利で使いやすいのは事実だし、持たせやすいからそれはそれでいいんだけど。
現実的に言えば武術持ちだろうけど、そもそも化け物相手に通用するような武術かは疑問。
「………………」
「人数分け決めるけどいい?」
「……建設的な意見が出ないからそれでいい」
学人は警察の人間だがこういう場合のマニュアルはないだろう。ゲームでこういう場合のことに慣れているこちら側に任せた方がいいのかもと思ったのかこっちの意見に文句はないようだ。他の面子も特に何も言ってこない。そういう点ではありがたい。そうして道の先を行くチーム分けを行うことに決定した。




