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残りの二人は入り口の方へと向かうとあっさりと見つかった。六人揃った大所帯で移動するとどう考えても時間がかかるけど、あまり入り口のほうまで戻り切っていなかったみたいだ。もっとも、二人の状況はにらみ合っている……というわけではないが、こう雰囲気が良くない状態だった。普通はそうだろう。私と学人のように相手が殺さないとはっきり宣言し武器まで渡すということ自体が少ないはず。近づいてきただけでも怖いくらいなのに。
とりあえず二人と合流し、この謎の場所に残った八人が集まった。
「……さて、聞きたいんだが」
「何?」
学人が私に声をかけてくる。学人の立場は五人……今は四人となっているがキャラクターたちのリーダー格だ。警察という立場と年長者である点が強い。まあ、他の面子が犯罪者、学生、ゴスロリ少女。一人電気工というのもいるが、電気工がリーダーをするというのも変だ。社会的立場と能力とその他いろいろを考えて誰がどう考えても警察である学人が引率、リーダーをするのが妥当だ。そういうこともあって私に話しかけてきたのだろう。
私たちの場合、そういったまとめ役やリーダーはいない。誰かゲームマスターでもやっていればその人物がまとめ役になっても良かったかもしれないが、今回はそもそもゲームマスターはおらず全員プレイヤーだ。であれば誰がリーダー的な立場を引き受けるか、ということになるがそもそもそんな話をしてもいない状態では決めようもない。学人が私に話しかけてきたのは自分とのつながりがあるという点が理由だろう。他の友人達は他人……私も他人だけど、繋がりの分友人達よりも近い関係性だ。
「君たちだ。君たちはいったい何者だ?」
「…………」
それを答えることは難しい。正直に言っていいものか。
「あ、あの……キャラクターとか言ってたけど、どういうことですか?」
「何かゲームやってるといきなりここに連れてこられたって聞きましたけど」
「その前に、あなたたちは何者ですか? 名前、教えてください」
「日本語喋った!?」
「インド語じゃないのか!?」
「いやいやいや! インド語って何さ!?」
ヒンドゥー語? いや、そもそもガンジスの出身地はインドなのかしら?
「…………生まれはタイですが、私日本育ちです。日本国籍も取得してます」
「へー、そうなのー」
「……そうだったのか」
「ちょっと幸也!? 自分のキャラの設定も覚えてないの!?」
「いや、設定してない部分だからな!?」
幸也の発言からキャラクターの設定していない部分でも彼等には存在しているようである。
「…………」
「はっ!」
学人からの視線が痛い。
「…………よし、じゃあとりあえず自己紹介しましょう!」
「……まあいつまでも君と呼ぶわけにもいかない。お互い名前を知るのはいいことだろう」
「じゃあ、どこに行きます?」
「……どうせあの広間の先まで行かなければいけないんだから、その手前まででいいだろ。中に入るのは後回しで」
中にはまだ達樹の死体が残っているだろう。そんな場所で悠長に語り合うのは難しい。別の所で話してもいいが、話し合いをした後すぐに動ける方がいいし、別の道には化け物もいる。それが今はまだ動かないとしてもいつの間にか動いて立ちはだかる可能性だってなくはない。ならば扉のところまで行きいつでも広間に入り先に行けるようにしておいた方が安全だ。ここは戻ったら入り口で袋小路になるというのもある。
「じゃあ、そうしましょう」
ぞろぞろと八人連れだって扉の前まで移動する。移動した後は自己紹介タイムである。
「………………」
「………………」
「………………」
誰も自己紹介を始めない。こんな場所で自分から進んで話し出すという自己主張力の高い人間も少ないか。
「じゃあ、私から」
誰も言わないのであれば結局言い出しっぺである自分がするしかないだろう。彼らのリーダーである学人のプレイヤーである私が私達のまとめ役に近い立場になるのかもしれない。
「私は嘉村夜江。ごく普通の社会人、そこの警官、古島学人をプレイヤーキャラクターとして操作していたプレイヤーよ」
はっきりと断言する。プレイヤーとキャラクター。この世界や彼らの立場や事実はどうあれ、それははっきりと言わなければならないことだろう。真実を隠してもそれは不信感を持たせるだけ。お互いの立場、立ち位置をはっきりしておいた方がいい。
「……そのプレイヤーというのは」
「それは後で話すわ。今はそれぞれ自己紹介をして、お互いの人物像を理解したほうがいいと思う」
「……わかった。俺は嘉村……呼び捨てさせてもらうぞ、彼女が言ったが古島学人。警官だ。彼らのまとめ役をさせてもらっている」
そうしてそれを切っ掛けに私の友人も、そのキャラクター達もそれぞれ自己紹介を始める。そうして自己紹介しているといくらかの事実が分かる。例えば彼らの設定していない項目に関して。アルバート・ガンジスはそれこそ幸也の設定していない項目ばかりである。外人というのもあるが、幸也が日本語設定で話しているというのもある。そういった複雑な状況のせいか、それに適合した状態になっているようだ。そういえば母国語とか外国語の設定もしていないようだしそうなるのもしかたないのかもしれない。まあ外国語が母国語になっていると面倒だから楽でいいが。
あとはもう一つ、ここに来る前の事。私たちははっきりとゲーム中に呼ばれているのだが、彼らの呼ばれた状況に関しての情報が手に入る。例えば学人は仕事中、瑠奈はショッピング中、鵺夜は部活動中、ガンジスはコンビニで買い物をしている所だったらしい。車を置いてきてそれが盗まれていないか心配だ、ということである。外国じゃないんだから。まあ、その個人の事情は置いておいて、つまりは彼らもここにくる以前の状況が存在するということだ。ゲーム内のキャラクターであれば、もしかしたら殺しても少しは罪悪感が薄れる可能性はあっただろう。しかし、彼らはそうでない可能性が高い。であればやはり殺すという選択肢は…………余程のことがない限りは本当に最終手段だ。
「さて、それじゃあ話してほしい。キャラクター、と言っていたそれは? プレイヤーとは?」
「…………」
友人たちに視線を向ける。不安そうな表情をしている。真実を言っていいものかどうか、判断がつかないのだろう。私だって言っていいかどうかなんてわかったものじゃないけど、それでも言わなければならない。隠し事をしていれば後ろから刺されてもおかしくない。刺せるかどうかは置いておいて。たとえそれが彼らにとって自分たちの存在を揺るがすようなことであっても、真実を知っておいた方がいい。
「まず、私達がここに来る前の事から。ゲーム中って言ったけど」
「ああ……そのゲームとやらがないか関係あるのか?」
「ええ。テーブルトークロールプレイングゲーム……って知っているかしら?」
その言葉にガンジスはわからないと言った表情だ。しかし他の面子はある程度は理解しているようだ。
「聞いたことはある……あまり詳しくはないが」
「私も……そんな感じです」
「趣味でちょっとリプレイとか見たことはあるかな。面白いの多いし」
「知らないの、私だけですか」
ガンジスがしょぼんとしている。大人の男がそんなふうにしても可愛くはない。
「……って、ちょっと待って? つまりプレイヤーとキャラクターって」
「ええ、概ね考えている通りだと思うわ。私たちはあなたたちをゲームのキャラクターとして、ゲームで遊んでいた。そういうことよ」
「……つまり俺たちはゲーム内のキャラクターだって言うのか?」
「信じられません」
「…………」
四人とも難しい表情をしている。その言っていることを真実として受け入れたくない、まあ当然だとは思う。
「ちょっと違うかもしれない。あなたたちはここに来る前の事があるでしょ? それに、私達がキャラクターに設定したこと以外も詳しいプロフィールが存在する。ちょっと今回はその場でキャラクターを作ったからかなり即席であまり詳しくは作ってないのよ。でも、あなたたちは詳しい設定が存在する」
「……僕たちはあくまで設定を基準に選出されてここに連れてこられただけの人間、ということですか?」
「そういう可能性はあるわ」
「どういうことですか? 私にもわかるように教えてください。お願いします」
説明を簡単にするのは難しい。
「えっと……」
「あんまり気にしなくていい。あんたらはゲームのキャラクターじゃなくて現実に存在する人間で、俺たちがやってるゲームのキャラクターっぽいからここに連れてこられただけだ。あの糞みたいな声のやつのせいでな」
「……そうですか」
理解はしたようだが、不満そうだ。まあ、直人の言う通りであればつまり私たちのせいで連れてこられたということになる。原因はまた別だが、文句を言える方、言いやすい方に文句を言うのはよくあること。
「それで、どうするんです?」
「何か決めているみたいだったけどー?」
「……あの声は自分に繋がっている相手を殺せば戻れるって言い方だけど、お互い殺し合いを本当にしたいわけじゃないでしょ? だから、ほかに手段がないか、そう考えたのよ。皆はこの場所の最初の看板に書かれていたことは覚えてる?」
その言葉でそれに反応できたのはこちらでは幸也、あちらでは鵺夜である。
「……願いをかなえる輝く杯、ですね」
「それで俺たちを元の世界に戻すように願う、か。あまり現実的じゃないな」
「そもそも現実的ってここにいること自体が現実的じゃないわ。それにこのゲーム自体、あのゲームマスターが用意したものよ。きちんとゲームとしての体を成しているのであれば、その終わり方もきちんと決められているはず。であれば、最後、一番奥まで行くことを想定したゲーム運びになっているはず」
もちろんそれはちゃんとゲームとして成立するようになっていれば、だろう。あの声の主が最悪な奴だったらただ私たちに殺し合いをさせたいだけでこんな部隊を作り出した可能性もある。だけど、相手も相応に矜持というものがあるのならば……期待は出来る。期待したくないけど。
「……一番奥まで行けば、なんとかなるかもしれないってことか?」
「そうね」
「ならそうしよう。もともとここに来た時はそうするつもりだったんだ。殺し合いなんてものはしたくない。それでいいだろう?」
そう学人が自分の仲間たちに声をかける。納得は言っていない様子ではあるが、頷いた。
「それでいいわね?」
「いいわよー」
「……ま、どうしようもないしな」
「しかたない」
こちらもそれで頷いてくれる。はあ…………八人で行動? ちょっと面倒というか、難しいというか……でもどうしようかしら。本当に。




