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ある集落。森の中に小さく存在するその場所にあるそこそこの大きさの建物。その建物は住む場所としてはまともに機能していない建物ではあるが、机やいすなどが用意され、集まり話し合いをする場所としては機能している。そんなただ話し合いをするための場所として用意されているだけの建物にいくらか集まっている者の姿が見える。その多くの集まった者のうち、机の前にまとまりもなく座っている影が多い中、中央、まとめ役としての位置にいる存在が言葉を発する。
「……今回の襲撃の成否をもう一度聞かせよ」
「はっ……今回の人間の国の王都襲撃は失敗いたしました……」
人間の国の王都の襲撃。それはハーメモリアの王都ログラインに対し魔物の群れが襲い掛かったことである。それは人間の所業ではなく、魔物、魔族、魔王、人間に敵対するそれらの者による仕業である。
この場にいる者、人型に近い姿をとる彼らは魔族と呼ばれる存在である。人の姿は神に近い、神を真似たもの、そんな話があるが、力の強い存在とは自然と神の姿へと近くなる。そうであれば魔族も人も多くの獣などと比べ神に近いと考えることができるだろう。同じような姿を持つ対等な相手、しかし魔と人で彼らは敵対関係にある。それは本能的なものか、それとも歴史的に因縁があるからかは不明だが、そういうものとして脈々と連なって来たものである。
魔族とは魔物の上位種のような物、というのが一般的な見解である。実質的には魔物の上位種というのはおおよそ間違った見方ではない。彼らは魔物よりもより高位に存在し、魔物の持つ破壊や攻撃の暴力的な意思を魔族も保有しているが、魔族はその意思を高位の精神と理性により抑えることができる。だからこそ彼らは魔族同士で集まり話し合い、魔物をまとめることができる。しかしそうだと言ってもその本能が消えているわけではなく、あくまで抑えているだけでありそのガス抜きは必要であるし、そもそも抑え込む必要性を考えない魔族も少なくはない。
そんな魔族は魔物という同質の生き物に命令権を持つ。これは単に彼らの上位に在るから、というよりは魔族や魔物の持つ破壊の本能などを含めた特質的な部分が影響しているのだろう。生物的なものではなく存在に刻まれた何かである。その最上位が魔王である。魔王と呼ばれるような、魔族すらもまとめ上げるだけの命令権を持つものは極めて稀に生まれる。もっとも魔王も命令権はあっても理性ある生き物となった魔族に対してはかなりその命令権は薄い。ただ王として、自分たちを統率するものとして上位に在るものと認識するにとどまるくらいである。それだけでも大きなことではあるのだが。
そうして魔族をまとめ上げた魔王は人間に対し敵対する。単純に人間が憎いから、などという正当な理由があるわけではなく、どちらかというとそれは彼らの安全のためである。魔族は魔物よりも強大な存在であり、魔物の破壊本能を抑えこんでいる。しかしそれを発散しなければいつかは爆発する。その矛先として人間に向けているのである。そうでなくとも人間に対し敵対的な思いを持つ魔族も珍しくはなく、その意思の源泉、理由はともかくとして人間に自発的に攻撃することも珍しくはない。
この場所、集落は魔族たちが建てた仮の住居みたいなものである。もっとも彼らは自分たちの住まう場所を必要としておらず、この建物も建物としての勝ちは必要とされておらず、あくまで魔族の集まる場所としてしか用いられていない。彼らも魔王を自分たちのまとめ役として上位に頂いているが根本的に彼らは個人主義の傾向が強い。それゆえに各々で好き勝手行動していることの方が多くこういった集まる場所を用意しても魔族の半数も集まらない。いや、むしろ集まるほうが奇特である。
「失敗か…………一体何が起きた?」
魔王は此度の王都への襲撃が失敗したことを報告され額にしわを寄せている。今回は魔物の数もそろえ、結構な襲撃となるはずだった。魔物の絶対数は魔物の性質上そこまで多くはなく、魔族の監視によって増やすにしても限度はある。故に今回ほどの襲撃の数を集めるのもそこそこ大変である。それが失敗したと聞かされるといったい何が起きたのかと言いたくなるだろう。それは単純に失敗したことを責める意味合いだけではなく、かの国に魔物に対する対抗策としてどのようなものがあるかという問題にもつながる。
魔物の群れは今まで多くの村を潰し、街を襲っている。どうしても迎撃する人間の少ない村はともかく、街は魔物の群れでも襲う限度がありある程度攻撃して撤退という形になるが、王都のそれはそれまでの各地への襲撃よりも数を多くしている。それで襲えば少なくともある一定以上の成果は見込めるだろう。
しかしそれが失敗、と報告される。失敗というのはまったく成果らしい成果が存在しないということである。
「わかりません。王都へ襲撃した魔物が全滅し、戻ってこなかったこと、王都に対し碌な被害が存在していないこと、それくらいしか現状はわかっておりません」
「おいおい、クラヴァ! お前確か人間の街にてめえんとこの魔族送ってんじゃなかったのかよー! そいつから何か言ってきたりしていねえのか?」
クラヴァと呼ばれた魔王へと報告をしている魔族に対し一体の魔族が煽り立てる。魔族とはこういった頭脳戦のような行動はとらない。彼らは抑え込んではいるものの、その破壊本能が強くその意識に内在しており、それの影響のためにどうしても攻撃的な考えになる傾向が強い。それはそのまま殺し襲い戦い、攻撃意思として発達しその結果戦略というものを考えないようになる。
クラヴァはそんな攻撃性の高い魔族の中でも特殊な性質で生まれつき攻撃的な本能が弱く、魔族としては知能戦に長けた存在である。彼のその知能戦に向けられる能力は高く、魔族の一部はそんな彼の指示に従って行動する。魔族はあくまで本能的に攻撃的な意識があるというだけでそもそも頭が悪いわけではない。彼のそれが戦闘に対してよりいいものであるのならば従うのも悪くないと考える魔族もいる。弱い魔族ではあるが、その特殊能力にたける魔族も賛同者は少なくない。
しかし、魔族の上位者は大体その実力の高いものであり、攻撃的な本能の強い存在である。それゆえにこの場所に集まる者の多くは彼の考えに対して反発的な傾向が強い。魔王が彼の意見に賛同しているためある程度受け入れてはいるものの、やはりそういった小細工を弄することを軟弱、愚かと言う者も多い。
「……わからん。詳しくは調べてみないと分からないが、何やら王都の方に実力者が存在したということだ」
「どういうことだ?」
「それが……情報がうまく集まっておらず、報告するだけの内容が来ていないのです。ただ、その何者かが魔物を全滅させたのだと、そう報告されています」
魔王はその報告に眉をしかめる。それが事実であればかなり問題だ。しかし魔王以外の他の魔族はそんな報告をするクラヴァを笑ったり罵ったり煽ったり、そんな風にするだけである。今回の件はクラヴァの企てではないが、王都への襲撃に関してはクラヴァの意見を幾らか取り入れている。魔物の集め方、入り口に対し一点集中させその一部を中に入れさせるなど、普通は考えないような小細工である。魔物を操る魔族としてはただ街にがんがん襲い掛かればいい、というくらいしか考えない方が多い。
そしてそのクラヴァの意見を取り入れた結果、魔物は全滅した。そうであればそれはクラヴァの意見が軟弱ゆえにそうなってしまったのではないかと主張できるだろう。もちろんそれは王都に襲撃を仕掛けた魔族の失敗でもあるのだが、彼らにとっては自分たちには受け入れられないような奇妙で愚かで軟弱な小細工をしろと言ってくるクラヴァに攻撃できるのであればどうでもいいのだろう。
「静まれ。クラヴァが行ってきたきたことは今までいろいろな成果を出しているのは知っているだるう。一度の敗北、一度の失敗で無暗に責めるものではない」
「……へいへい」
「はーい」
魔王が注意するとその場にいる魔族も一応素直に従う。それはあくまで魔王の言葉だからであり、別にクラヴァの行いが正しいからとかそういう理由ではない。心の中ではクラヴァ憎しの意見が強いだろう。それでも彼らも理性ある魔族という存在であるがゆえにその意見は隠しておく。表情や態度に出ているので隠していることがバレバレだったりするが。
「クラヴァ。そのものについての情報収集はどうなっている? もし我々が敵対することになった場合、どれほどの危険が伴うかわからぬか?」
「はっ。今は王都に潜ませている私の手の者が情報を集めています。何やらその者を呼び立てるという話があるので、その時に何かわかるやもしれません」
「であれば、それを待つこととしよう。各自それぞれ自由にしていても良いが、今回失敗したこともあり何があるかわからぬ人間の国の王都への襲撃はしない、それを厳守せよ」
現状王都へ魔族が向かい、その何者かもわからぬ存在に殲滅されては困りもの、そういうことである。
「じゃあ村とか適当なとこをを襲うのはかまわねえんだな?」
「かまわぬ。人間の村や街を群れで襲い滅ぼすのは自由にやってよい。ただ、その場所に関してはきちんとこちらに報告を入れよ」
「じゃわたしはちょっと遊んでくーる!」
「ああ、肉が恋しい……適当に何か獲ってきて食おう」
個人主義の強い魔族、魔王ですらも場合によっては報告が入らないくらい彼らは自由奔放である。そもそもこの場に集まる時点でかなり魔族としては真面目というかまともな方だが、それでもこれである。魔王の苦労がしのばれる。
「……やれやれ」
集まり報告が行くだけでも十分というくらいだ。本当ならばもっと多くの魔族をまとめ報告したいが、彼らも彼らで独自に行動しているゆえに仕方がないところでもある。現在の魔王がクラヴァを重用していることに対する反発もあるのかもしれないが、もう少し何とかならないものか。そういう思いが存在している。




