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「頭を垂れよ! 王の御前である!」
カルナックに案内されルフェが王の前に連れてこられる。そしてそれを確認し、王のそばにいる高齢の人物、何者かは不明だが恐らくは王の側近か何かの人物がルフェ、およびカルナックに向けて言う。それに伴い、カルナック他この場にいる騎士たちが騎士として臣下の礼をする。ルフェもその動きに気づき、同じ行動ではないものの、ルフェなりに礼を示す。
しばらくそのままその場が静かになるが、すぐに王から声がかかる。
「騎士たちよ。姿勢を戻してよい。客人もそのように無理に礼をせずとも良い」
そう言われルフェおよび騎士たちが元の体勢に戻る。
「そなたがルフェか。此度の王都に襲撃してきた魔物の群れを討伐した協力者だと聞いている」
「はい」
「……一目見ただけでその話が本当かどうかは信じられぬ姿ではあるが……騎士たちがわざわざうそを言う必要もない。その場の状況から見ればその言が真実かどうかも知れよう。であれば真実なのだろうな。此度の魔物の討伐の強力、この国の頂点に在る者としてそなたに感謝を示す」
言葉だけではあるが、王である以上簡単に頭を下げることは許されない。そもそもこの国にある者としてルフェの行いは当然の物であるともとらえられるのである意味こういった感謝の言葉も本来は王が直接言う必然性もないだろう。今回のように王の前まで連れてくる必要はなく、騎士たちに謝礼をもっていかせたり感謝をしていたと伝えるだけでもいいはずだ。
今回このような形で王が直接礼を告げるのはルフェの勧誘、およびルフェという人間を直接確認するため。また王自身も騎士たちや王都、その住民たちへの被害が最低限と言ってもいいくらいに少なくしたことに対するルフェへの特大の感謝を持っている。それを直接言いたいと思う気持ちもあった事実がある。また話を聞いた王子も直接見てみたいということで意見が一致した形だ。
「ありがたく思います」
「今回の件、そなたの協力なしに無事には済まなかっただろう。その行いに我々から何もない、というわけにもいくまい」
王は視線を横にいる側近の方に向ける。その視線を向けられ、そちらは視線を横へ向ける。そうして最後に視線を向けられた人物は王の横まで袋をもって歩いてくる。重そうな結構な大きさの袋。
「金貨だ。額は詳しく知らぬが、この袋に入れられるだけ入れてある。まずこれをそなたに渡そう」
王がそういうと袋を持った人物がルフェの前まで袋を持ってくる。両手で持っていてもなお重そうだ。それをルフェが受け取り片手で持つ。
「それと……今回のことでそなたの実力が示された。ぜひとも騎士団に迎えたいと思うのだが、どうか?」
今回の事の本題の一つである。王都の入り口を守る騎士団ですら守るので精一杯、王城を守る騎士たちや他の入り口を守る騎士たちを加えても被害が甚大となったものをほぼ一人で殲滅したルフェは強大な実力者である。そんな実力ある人間を放っておくわけにもいかない。
「……申し訳ありませんが、断らせていただきたく」
そのルフェの言葉に周囲がざわつく。その騒めきの中に含まれる心情としては色々ある。ルフェが騎士団に入らなかったことに対する喜びであったり、王の言葉を断ったことに対する怒り、騎士団に入ることを選ばなかったことに対する疑問、戸惑いなど。
「理由を聞いても良いかな?」
「…………世話になった人や、待たせている人がいるので。狩猟組合にも所属しており、そちらで仕事もしています。今住まわせてもらっている所にも多大な恩はありますしそれらの恩を返したいので」
「ふむ……騎士になっても恩返しは出来るのではないか?」
「……それでは出来ないことの方が多いので」
理由としては少々難しい感じの内容だろう。ただ、戦力としては入ってほしい所ではあるが無理やり所属させたところで不和の原因となるだけだ。そもそも騎士になる訓練や試験、それまでの教育も受けていない以上騎士としての常識や知識、必要な儀礼作法などを持っていないルフェを騎士にするのは難しいし教育する人間も必要になるだろう。そういうこともあり無理に所属を勧めないことに決める。
「仕方あるまい。そなたがそういうのであれば、騎士に迎えるのはやめておこう。代わりに何か欲しいものでもないか?」
騎士になることに代わる内容を求められるルフェ。すぐに考えろと言われても難しい所ではあるが先にカルナックに言われていたため一つの内容を代替報酬として提案する。
「なら俺が今住まわせてもらっている宿の支援をお願いします」
「宿の支援……とな」
現在ルフェの住む場所である虹烏の旅亭。別に虹烏の旅亭に限らないが現在王都に滞在している人の数は減っている。先日の王都への魔物の襲撃により、また同じことが起きないか、今回の事による王都への被害状況、ひとまず安全を確保するためにというわけで王都の宿に滞在している人間が減っている。必然的どこの宿にも空きができる。特に虹烏の旅亭は他の宿に泊まれなかった人間の受け入れ口でもあるため他の宿に空きができれば余計に人の数は減る。
もともと虹烏の旅亭はそこまで宿としての競争関係になく、半ば趣味でやっているようなものである。ただそうであっても商売は商売であり、宿の維持費から仕入れる食料の代金、客が来ないとしても準備はしっかりとしなければならない。その分だけ赤字になってもお金は使われる。
「……ふむ、済まぬな。そういった商売事に対する個別の支援は私からは出来ぬ」
王が支援してしまえばそれは少々問題となる。全体への支援であったり、王族が直接かかわっている事業や商売、店舗などならばまだ話は違うかもしれないがそれが個人経営のものであれば王が支援するわけにはいかない。
「そうですか」
「しかし、そうだな……私からの支援は出来ぬ。だがそなたが支援するのには問題がないだろう。後でそなたを案内した騎士……カルナックに今回の騎士に引き立てることの代わりに金貨を持たせそなたに届けさせよう。それでそなたがその宿に支援するといい」
「……ありがとうございます」
咄嗟の対応としては十分な話だろう。ただ王としては今回のことに対し単に金貨を渡すだけで済ませたという状態であり、少々褒章の内容に納得がいってはいない。ただ、現状ルフェの望みが分からない上に今回の出来事が突発的であまり多くの人間が知らない出来事、少なくともルフェの単独での魔物の群れの撃滅を多くの人間が知らないため、対外的に栄誉や叙勲みたいなわかりやすいものを示すことが難しい。内容的にも多くの人間はその内容を信じるのは難しい内容だ。王自身その目で確認していないため伝聞という形で知り、今も半信半疑の状態である。
結果、こういう形であまり大々的な形にはなっていない。その内容を知っている騎士たちや王の側近など、あまり広範囲に知られていない案件だったりする。それでも形式自体はそこそこ整えてはいるが。
「ではこれにて王への謁見を終了とする!」
側近の人がそう宣言して謁見が終了する。ルフェはカルナックに連れられてこの場を去ることとなる。しかし、ルフェは一つのことに気づいていた。
「帰る前に一つやらないとな」
「どうした?」
「何だろう。適切な言葉が思いつかないが……怪しい奴をぶっ倒せってことで」
「っ!?」
ルフェがそう告げたところで、カルナックの目の前にいたルフェの姿が消える。まるでそこにいなかったかのように。しかし今までいた人間が消え去るなんて言うことがあり得るはずもない。いや、そもそもルフェはその唐突な消失の経験者ではあるのだが、この場でそういうことが起きようはずもない。
それはただの高速移動である。目の前で会ってもそれに気づかせないような超速度での移動。音速とか光速とかそういう次元の移動速度ではない。いや、流石にそれくらいの速度で動かれれば気づかないかもしれないが、そういう速さとかを超越した転移に近い移動である。
その移動でどこに行ったのか。それが分かる前に、一つ起きた出来事があった。
「ぐあっ!」
一人の騎士が部屋の中央へと蹴り飛ばされた。そしてその騎士のいた所にはルフェがいた。ルフェがその騎士を蹴り飛ばしたのであった。




