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「別にいいですけど」
「…………随分あっさりと、いやいいんだが」
ルフェのあっさりとした返答にカルナックも決めるのが早いそして軽い返答にカルナックも少々面食らう。しかしその返答自体はカルナックにとっても都合がいいので問題はないのだが。
「それでは今からでも構わないかな?」
「えっと……」
「お行きなさいな。あなたの手伝いがすぐに必要な仕事もありませんし」
「じゃあすぐに行くということで」
そうしてルフェは宿を出てカルナックと共に王城へ向かうこととなったのである。
「………………」
「…………いや、すまない」
「特に気にしないでください。こちらも気にしていないので」
王城へと向かったルフェは奇異な視線で見られている。ルフェの立場上、彼の持っている服は極々普通の街の人間の服である。本来そんな服の人間が王城に入ることはめったにない。いわゆる礼服を着て身だしなみを整え王城へと入る。それが一般的なのでルフェの格好は珍しい、変、可笑しい、なぜこんなところにいるかなどという感じの視線で見られるのである。
それだけならばまだそこまで厳しいものでもないが、それ以上にどうしてルフェのような人間がここにいるのか、カルナックになぜ連れられているのか、何故王城へと訪れるのか。様々な視線の中、敵意のようなものも垣間見える。特にその視線はルフェが王城に呼ばれたことを知っている人間の視線だろう。ルフェが今回呼ばれたのは王都入り口での魔物との戦いにおける貢献によるものだ。
それ自体は悪行でもなんでもなく、善いことのはずだがそうであってもそういう行いの結果ただの街の人間であるルフェが王城に来ることのできるという栄誉、それに対する妬み僻みの類がある。また、ルフェの実力に関してもだ。ルフェ自体の実力を危険視するもの、それだけの実力をルフェが有することに対する謂れもない嫉妬や妬みまたは恐怖などもあるだろう。特に騎士団の一部にはルフェが魔族ではないかという人間すらもいる。それだけあの時ルフェが行ったことは異常であり、ありえないことであり、危険なことである。
それゆえに様々な視線がルフェに突き刺さっている。それを一緒にいるカルナックは痛いほどに感じている。しかしルフェはその視線に対してまるで動じない。敵意もあるが、それが向けられていても現状でまだ敵として在るわけではなく必要な対処を必要な時にするだけだ。その動じない態度がさらに視線に含まれる感情を強めているのだが流石にそれには気付いていないようだが。
「カルナック隊長。そのものが例の?」
「ああ。騎士隊長に件の人物を連れてきたと連絡してくれ。私は彼を部屋に案内し呼び出しがあるまで待つことにする」
「はい、わかりました。客人の待機部屋ですね」
「ああ」
そう言ってカルナックはルフェを王城にある一つの部屋に案内した。そこでルフェとカルナックは呼び出しを待つことになった。
「ところで俺は何で呼ばれたんだ?」
「ああ……まずは今回君のとった行動、それに対する礼と褒美だろうな」
ルフェは今回王都を襲う魔物の群れを撃滅した。あの時ルフェが動かなければ場合によっては王都は酷い被害を受け死亡者や建物の被害が大きくなっただろう。場合によっては王城王家騎士団、それらの被害もかなりのものとなり国が傾く結果になった可能性もある。それを未然に防いだルフェの功績はある種救国の英雄と言ってもいい。いや、それは流石に少々過剰かもしれない。ただ、王都を襲う魔物の群れ、その危険を排除したルフェは騎士団全体で出すような成果を一人で出したことになる。その功績は大きなものだろう。
「別にそういうのはいらないんだけど……」
「そうもいかない。本来ならば今回のことは我々騎士がどうにかしなければならないことだったのだ。それを君のような…………王都に住む民に任せる結果となってしまった。我々であれば何ももらえなくとも、騎士としての栄誉があるが君にはそうではないだろう。成果には相応の対価があってしかるべきだ」
「そういうものかな……」
今回のことはルフェにとってはアイネの身の安全を守るためのものでしかない。宿を守る、王都を守る、それらは結局アイネに迫る危険の排除につながるからやったことである。場合によっては逃げていてもおかしくはない。それにただそれができるからしただけでありそんなに称えられるようなことでもないとルフェは考えている。
だが確かにカルナックの言ったことも事実ではある。ルフェは確かに王都の民を守ったのである。騎士達も知らない侵入した魔物の被害も未然に防いだという事実もあるくらいだ。
「今回の成果は大きい。大きすぎる。だから君は直接王に会い、王から礼を賜ることになるだろう」
「……え!?」
寝耳に水である。流石に話がでかすぎるのでは、とルフェは考える。実際にでかい話なので仕方がない。
「さらに言えば……恐らく騎士に取り立てる話もあるだろう」
「ええっ!? 流石にそれはなあ……」
ルフェの実力であれば騎士という立場についても実力という点においては何ら問題がない。ただ、その立場になった場合の問題、騎士としての礼儀や技を学ぶ必要があったり、アイネやその関係、宿の人間との関係性、およびアイネに仕事を紹介してくれたベイズに対する礼を失することであったりといろいろな点における問題がある。そういったルフェの心情まではカルナックもわからないが、しかしルフェのように騎士というものにあこがれを持たず堅苦しい立場に縛られたくないという人間もいるだろう。そういうこともカルナックは理解しているため、一言付け加える。
「その点に関しては無理に騎士になる必要はないだろう。断ってもいいはずだ」
「ああ、それならよかった……流石に騎士になると色々と大変そうだから」
「その代わり、何か代わりになる報酬を求めるといいだろう。まあ、その前に今回の事の礼があるわけだがね」
「……礼って具体的にはどうなるんだ?」
若干緊張のあるルフェ。普段から割とそういった緊張感みたいものはないのだが、さすがに今回のような大きな事態、国の一番上の人間と会い話し、礼を貰うという状況では緊張も見せる。それゆえに礼としてもらう物は一体何なのか、そういう話になるのである。
「……本来ならばそちらの欲しいものを尋ねるべきだが、あまり無茶なことを言われても困る、今回のことに対する礼として何が適切か、状況判断が我々騎士にしかできない事態でもあった。それゆえに……まあ、金銭となるだろう。この王都で一年は働かずとも過ごせる程度の金銭だな」
「……それは高いのか低いのかちょっとわからないな」
ルフェの金銭感覚は低い。普段から狩りをして過ごすのだが、基本的にルフェの必要とするものは衣食住くらいであり、特に他の物を必要としない。アイネと一緒にのんびり過ごせればいいみたいな感じであり、そもそも村に住んでいたこともあって娯楽に対する欲求が薄い。狩人であればその装備が本来なら必要かもしれないがルフェには必要ないため余計にお金が使われない。
なので金銭に関してはアイネが預かってアイネが管理し適切に使用している。と言ってもアイネもそこまで欲がないので結局お金は使われずに貯まってく一方であるのだが。
「まあ、何にせよそこまで大層な物はない……だろう」
「……そのちょっと詰まったのは?」
「いや、もしかしたら君に興味を示した王や王子から何かを貰う可能性もあるかもしれないからな。それだけ君は特殊な成果を出しているんだ」
「……はあ」
実に面倒な状況になったものであるとルフェは感じている。そんなふうにカルナックと簡単に色々な話をしているうちに、連絡が行って王の方の準備が終わったのかルフェとカルナックを人が呼びに来た。
そして今二人は謁見の間へと向かっている。その間にルフェに王に会う上での諸注意をカルナックはする。
「いいか、決して王のことを悪く言ったりはしないように。不躾に視線を向けるのもダメだ。我々のように騎士として王に捧げる礼をする必要はないが、民草の物として王に失礼のないようにはしてほしい。言葉遣いも……できれば丁寧なものを心掛けてほしい。流石に今回はこちらが呼んだ立場である以上、多少無礼であっても許されるものだとは思われるし王もそのあたりは厳しくは言わないだろう。ただ、王以外が君にどう思うかがわからない以上できれば敵を作らないように対応してほしい。無理を言っているのはわかるのだが……」
「わかっています。できる限り、丁寧に王様にはなしをさせていただきます」
「……ああ、すまない」
ルフェに対する無茶ぶりもルフェは素直に受け止める。ルフェ自身無駄に敵を作るつもりはないため、面倒ではあるがそのくらいは出来る。もっともルフェが意識的に敵を作らないように立ち回ったところで本当に敵ができないかどうかはまた別の話である。そもそも王に会うというだけで敵を作ることになる可能性が高いのだから。
「ああ、そこだ……私が先に入る。君はついてきてくれ」
「はい」
カルナックが扉の前に立ち、その後ろにルフェが来る。ルフェが自身の後ろに来たことを確認し、カルナックは扉に向け大きな声で来訪を告げる。
「王都入門騎士隊長カルナック、召喚に応じた此度の協力者ルフェと共に参った! 扉を開けよ!」
そうカルナックが叫び、それに応じた答えが返ってきて扉が開く。内装は豪奢で華美、よくある王城内部をイメージして作られたような財を尽くした内装である。見栄を張る、というのとはまた違うがこういうのも必要なものである。物や設備にかけられる財力はそのまま王家の力および国力に相当するのだから。特に謁見の間などは他国の来客を招いたときに彼らと会う場でもあるんだから相応の物が必要である。
流石にその見たこともない光景にルフェも一瞬感嘆するが、すぐに表情を戻す。前を歩くカルナックについていき、その先にいる王に相対した。




