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あなたとならなのに  作者: 悪徳渋助
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話の続き3

 それから、私は制服に着替えて顔を洗う。


 洗面台の前に立って鏡を見ると少しだけ憂鬱になった。数日前に切ったショートヘアは自分でもあまり似合っていないことがわかる。ちょっと子どもっぽいのだ。思い切ってバッサリいっちゃったのがいけなかった。なんだかそうしたい気分だったからってだけで、特別な理由もなく、中々伸びない大切な髪の毛を切ってしまった。そういう衝動的なところが直らないからやっぱり子どもなんだと思う。

 

 今日は体育がないことをもう一度確認して家を出た。

 

 二年間変わることのなかった道で学校に向かう。そして、今年もおそらくは変わることのない道だ。


 家を出るとまず向かいのマンションの植え込みの木が目に映る。春の朝の匂いというのも二年間でほとんど変わっていないように思う。


 駅に向かう。運がよければというと少し大袈裟だけど、タイミングが良ければここで楠橋くんにあう。同じ学校でクラスは別の男子だ。話は面白い。人の悪口とかも言わないので、朝会って話すのが苦にならない人だ。

 

 駅に向かう途中に、一昔前の住宅街に相応しい、一昔前のマンションがある。ベランダが幾何学的に並んでいる光景はどことなく窮屈で、夜、逆側の道から見ると無数の玄関があり、無数のオレンジの蛍光灯が少し幻想的なのだが、朝、こちら側から見るのは、どことなく退屈なのだ。


 楠橋くんが、エントランスから出てこないかと、マンションの方を覗き込む。タイミングよく彼が出てきた。少し大袈裟に言うと運がいい。


 楠橋くんは寝癖なのかセットなのかよくわからない髪型で眠そうにあくびをしながら自動ドアをくぐる。こっちに気がついて走ってくる。

 

 楠橋くんは二年前このあたりに引っ越してきたのだ。だから、中学校は別で、知り合ったのも高校に入ってからだ。一年の時は同じクラスだった。仲はそこそこいい方だと思う。


「おはよう」


「おはよう」


「ところでさ」


 楠橋くんはなにがところでなのかサッパリわからないけど、相当言いたいことがあるらしく、嬉しそうに話し始める。


 私の髪の毛、二十センチの変化を差し置いて、自分の話をしてくるのだ。こういう強引というか、自分ペースなところが彼なのだ。男子三日会わざれば刮目してみよというけれど、二年前からこういうところはさっぱり変わってない。


「何?」


「実はさ、三ヶ月くらい前から、戸澤さんと付き合ってるんだ」


楠橋くんは少しだけ自慢げにそう言った。


 私は呆れる。ため息が出そうになる。朝の七時だいだ。平日のだ。何が悲しくて恋愛で溶けそうになっている男子高校生の話を聞かなくてはいけないのだ。

それも脈絡もなく、「ところでさ」なんて切り出し方。誰も何も聞いていないのに私の顔を見るなり急にだ。しかも戸澤さんだって!? 戸澤さんといえばそこそこの美人だ。背は小さいけど、目が大きくて、鼻が高くって、ちょっとふわふわした雰囲気の女の子だ。楠橋くんには勿体無い。


「うんうんそれで?」


私は退屈なんですけどーって感じで相槌を打つ。


「それでさ、最近デートで色々行ったんだけど、このへんってあんまり遊ぶところないからさ、テーマパークとか、どこ行けばいいかなあって。河原に相談」


「うーん、どこがいいんだろう。ってなんで楠橋くんと戸澤さんが付き合っているの!?」


朝の眠そうな脳が楠橋くんと戸澤さん……と反芻する。喋っている私の方が改めてその組み合わせに驚く。楠橋くんにあわせて大きめだった私の声がそれに反応していっそう大きくなる。


「なんでって言われても、特別な事情はないけどさ、普通に」


楠橋くんが得意げに言う。クソ、ムカつく。


「どっちから?」


ああなんてことだ。退屈な質問をしてしまった。私は本当にどっちからかだけが知りたかったのに、本人に聞けばダラダラと別に興味もない話まで聞かされてしまうではないか。


「告白したのは俺からだけど……」


まだまだ友達から恋人に至る境界線上の話が続きそうなので、私は強引に次の質問をする。


「そっか、楠橋くんからか。それで戸澤さんのどういうところが好きなの?」


「うーん、まずちょっとぬけていて可愛いところだろ、それから」

ああなんてことだ。そんな質問をすれば結局、また楠橋くんの幸せすぎて溶けそうな顔を見なければいけなくなるというのに。


 楠橋くんの幸せな顔を見るのは嫌ではないけど、なんていったって朝の7時だいだ。


 それに、楠橋くんはバレー部のくせにスマートさが足りないのだ。背は高いけど、なんというか、そんなにデレデレせずに、スマートに構えなさいよと思う。


 そうやっていつもの通学路を通る。マンションを少し歩くと公園があるのだ。朝の公園は好感が持てる。朝日の中の、スズメたちだけの公園。象の遊具にスズメがとまっているというのはちょっといい感じだ。隣の楠橋くんの話を片耳で聞いて、朝の道でも見ていようか。閉まっている煙草屋。その隣にある、夜を明かしてひと休みしているコインランドリー。嫌いじゃないものばかり。


「それでさ、ほんと次はどこに行こうかなって、なあ河原聞いてる?」


楠橋くんは景色を遮るように私の名前を呼ぶ。


「うん、聞いてるけど」


仕方ないので、楠橋くんのために、どこかいいデートスポットはないか考えてみる。

こんにちは


普段は誰にも見せずに書いてるので、誰かが読んでくれていると思うと嬉しいです。一回の更新で載せる文量をなるべく1000~2000文字にしようと思ってるので、キリのいいところを選んでるものの、ぶつ切りになります。それとも一回で6000文字くらい載せたほうがいいのかな?

意見があれば教えてください。

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