話の続き20
「僕が今度行ってみたら、そのおじいちゃんはどんな反応をするんだろう」
原田さんは冗談を言った。
私はそう言われたとき、苦しくなった。誰かと一緒に行く原田さんが思い浮かんだのだ。隣を歩く女の人は背が高くて綺麗だ。
「原田さんは高校生じゃないので民家じゃなくてちゃんとした隠れ家的レストランに行ってください」
私は笑顔でそういったけど、心の底で「可愛い彼女さんと」と未練がましく付け加えた。
「はは、そうだね。なんだか話がこんがらがって、民家だったことを忘れていたよ」
一瞬「一緒に行く人がいないな」って、彼女の存在を否定してくれると思ったけど、そんなことはなかった。会話は二人でやるものなのに、私はつい身勝手に、理想の答えを欲してしまう。
原田さんは大人の男の人だ。ちゃんとお仕事もしているし、私よりも七歳年上。彼女がいてもおかしくないし、格好いいからいたほうが自然だ。
「ごめんなさい、お仕事の邪魔しちゃって」
私は空になったカップを持って、持ち場に戻ろうとする。随分と話し込んでしまった。
「ううん、構わないよ。河原さんと話してると気分がまぎれる」
「字幕を作ってる時、原田さん凄く難しそうな顔してる」
「はは、周りからもそう見えてるんだ。色々な制限があってそのまま訳せばいいってものではないことはこの前も言ったよね?」
映画の字幕はそのシーンの間に読ませなくてはいけないから、文量の関係で訳を大幅に変えなくてはいけないのだ。
「うん、この前聞きました」
「それってやっぱり抵抗があるというか。僕が作品をゆがめてるような気がしてね、たまに自分の仕事、疑っちゃうんだ」
原田さんは敢えて何でもないかのようにそう言った。でも、心の中では悩みや戸惑いがあるんだと思う。
「それでも、字幕で見ないと、俳優さんの声とか分からないじゃないですか。吹き替えだと、俳優さんの声じゃなくなるし」
「そうなんだよ。だから、やっぱり英語の映画は英語で、フランスの映画はフランス語で見なきゃいけないんだって」
私の励ましはきっともう何度も誰かによってもたらされたものなのだろう。原田さんは用意していたかのようにそう答える。ありきたりな励まし方しかできない自分が情けなくなった。
「極端な人」
私はちょっとだけぎこちない笑顔でそう返して、カウンターの奥に戻った。




