話の続き19
「そうしたら、おじいちゃんってば、本当に料理なんか振る舞ったりして」
「へーそういうことも起こるんだね」
私は原田さんにこの前起こった事件について話していた。原田さんは私の話を丁寧に聞いて時々笑った。
福井さんはテーブルに座って新聞を読んでいる。私はコーヒーを出したついでに、自分も原田さんのテーブルに座って、原田さんと世間話をする。偶然なんだけど、何度かそういう機会があって、それが重なれば、機会なんかなくても、暇なときは原田さんと世間話をするという流れが出来てしまう。それがさらに重なれば、今度は習慣となって、そうしないとなんだか落ち着かない。原田さんも特別邪魔そうな素振りは見せない。
今は原田さん以外にお客さんは居ない。静かな喫茶店、オレンジ色の光に包まれていて、福井さんの趣味のジャズがかかっている。いかにも純喫茶って感じだ。
原田さん以外にお客さんがいても、接客さえきちんとすれば、こういう緩さがとがめられることはない。福井さんもやってることだし、斎藤さんは好んでお客さんとコミュニケーションをとる方ではないけど、ちょっとした軽口くらいなら、楽しんで応酬しているようにも見える。
さっきから話しているのは先週起こった民家で高校生カップルがランチを取る事案についてだ。私がおじいちゃんのうちを隠れ家的レストランと偽ったところで原田さんは、「酷い悪戯だ」と目を丸めた。
「彼女の前で、彼氏に恥をかかすような、むごたらしい悪戯だ……悪女だ」
と原田さんは私をからかう。
「でも、高校生のくせに隠れ家的レストランに行くなんておかしくないですか?なんというかませすぎです」
「はは、河原さんは身の程とか、結構考えっちゃうタイプだ。だからってそんな彼女の前で彼氏に恥をかかせるようなことはなー」
原田さんは楠橋君の肩をもつ。まあ誰だって楠橋君の肩を持つだろうけど。私だって、今なら笑えない悪戯だって思えるけど。
「違うんです。楠橋君に戸澤さんの前で恥をかかせたかったわけではないんです。なんというか、隠れ家的レストランを甘く見るなよって、世界に訴えたかったんです」
私は楠橋君に会う朝に全国ネットで隠れ家的レストラン特集をやっていたことを愚痴った。
「そりゃあ、確かに河原さんの気持ち分からなくはないな。隠れ家的レストランは通ぶりたいスノッブな人間の優越感を満たすところじゃないぞって言いたいんだよね」
「そうなんです!まあそれならそれでいいんですけど、テレビで大胆にやることじゃないと思うんです」
「だからって、民家を隠れ家的レストランと偽るなんておかしいよ」
原田さんは本当に可笑しそうに笑った。
「まあそうなんですけど」
その日の私は忙しかった。原田さんに責められて少し落ち込んで、一生懸命弁解したら少しだけわかってもらえて嬉しかった、そのあと、「でも、発想がいいね。逆転の発想だ。悪戯の質が高い」って褒めてもらえてなんだか得意になった。




