話の続き18
おじいちゃんのおうちを出た私は素直にうちに帰ることにした。
将棋はいい勝負だったんだけど、結局は負けた。だって、私の頭の中は将棋と民家でデートをする楠橋君と戸澤さんと、何となく現在、孤独の真っ只中に居そうな私と、そういうことが一緒くたになっていたから。
きっと、受験への不安が他の人とは少し違うのもどこか自分が浮いているような気がする要因かもしれない。成績を常にキープしているから、前年の感じだと推薦はもらえるし、多分受かるだろう。受からなくても、私は別に過剰なプライドとか、学歴に対するこだわりもないので、学校の皆は国公立至上主義的な風潮だけど、私は私立でもいいと思ってる。
だからって仲間はずれにされたりとか、そういうことじゃない。だけど、流れてる時間の速さが決定的に周りと違うような気はする。悩み事ってわけでもないし、苦痛ではないけど、なんだか寂しいのだ。
家へ帰る途中そんなことを考えながら、公園を横切った。ショートカット。そういえば、おじいちゃんも私が髪の毛を短く切ったこと、なんとも言ってなかったな。おじいちゃんもって、楠橋君は最終的に少しいじってくれたか。だけど、おじいちゃんだし、きっと髪型とかそういうのは大切な要素じゃないのだろう。
もっと別の目で周りを見ているんだろう。
横切った公園は、遅くまで遊ぶ少年たちのはしゃぎ声と、もうほとんど真っ暗な空と、煌々と公園を照らす電灯と「良太、もう帰るわよー」と迎えに来たお母さんの声が、春らしくない、夏らしくも秋らしくも冬らしくもない、何とも言えないそんな感じだった。
もし季節が冬で、私が漫画の中の主人公だったら、マフラーに顔の下半分をうずめて、うつむき加減で帰っているに違いない。
「もしもし?悩める乙女よ、冴えない顔をしているね」
「翻訳のお兄さんか、驚かせないでよ」
「いやあ、あまりに冴えない顔をしていたからね。悩み事かな?」
「うーん、春だから、皆が浮き足立ってるのに、私だけなんというか、出遅れちゃって」
「そうかな?僕は、もう随分とフライング気味な気がするんだけど」
「どこがですかー全然全く、これっぽっちも浮いた話なんて」
「若い男と、喫茶店で映画について語り合ったじゃないか」
「それは原田さんとじゃないですかー」
「僕とじゃ駄目なのかい?」
………
「駄目に決まってるでしょー!! もう暗いんだから、早く帰るわよ!! 涼太!! ほら、さっさとさよなら言って、駄目駄目、もう十分遊んだじゃない。ほら、また明日ね、智樹君もさようなら」
ベタな展開……妄想の中で私が答えようとした、一言、涼太くんのお母さんが勝手に事を運んじゃった。それに、妄想も霧となって消えた。
いきなり出会った原田さんに、何を求めているんだろう。映画の字幕を作っている時に、少し休憩をしようと顔をあげて、窓ガラス越しに店の前の道を見るときの、あの物憂げな表情が私は忘れられない。翻訳についてとても寂しそうに語るあの顔。恋も、人としての興味も、全部ごちゃまぜになっていて、恋は如何にも急だなぁと思った。
「さてと、帰りますかな」
私は、もうすでに絶賛帰宅中なんだけれど、そう呟いてみた。




