話の続き17
「彼氏ってさ、どうやって作るのさ」
おじいちゃんはその台詞を顔の皺で受け止めて、表情なんかはちっとも変わらなかったけど、少し何かを思案したような素振りを見せながら、将棋の駒を進めた。
「愛を語ればええんじゃ」
「愛を語る?それって男が女にやるもんじゃなくって?」
「ひーは何にも知らんのじゃな。男が女に愛を語っていいのは映画や小説の中だけじゃ。それにスマートな男ほど愛を語ったりせん。『友情』の野島くんを見てみろ。ああ可愛そうなもんだ」
「たしかに『友情』だと女の人がすっごく愛を語ってたもんね」
私は昔、中学校の朝読で読んだ『友情』を思い出す。なるほどと思う。愛を語っていいのは女の人の方か。なんとなくわかる気がする。
「いや、別に彼氏が欲しいってわけじゃないんだけどね。というか、どんな人が、どんな関係が、彼氏になるべきなのかとか分かんないし」
「ひー今まで彼氏おらんかったかの?」
「いや、いた事はいたけどさ、何というか、改めて考えるとわからなくなったというか」
将棋はどんどん大混戦になっていく。よくわかんないけど、ミスをしたほうの負けが決まるくらいには、佳境に入ってきた。
「なるほどのー、最近は色々あるんじゃの」
「そ、色々あるの」
和室で二人でさす将棋というのは、世界が完結しているから、部屋を隔てたその向こう側に宇宙が広がっていたとしても、きっと私は驚かないだろう。
まだ一週間が始まったばかりの月曜日だってことすらも、あまり気にならない現実だった。
そういうのがあの時期を象徴する感情で、私はきっとこれからもおじいちゃんのおうちにお邪魔して、親にも言えないようなことを話して、将棋をうったりなんなりをするかもしれない。
でも、それをあの時を思い出す感情で思い出すことはないだろう。そういうの、何て言うんだろう。安易に言ってしまうと、恋愛モラトリアム的な、もっと絶対的な言葉を探してしまうと、私は思い出の中でしか生きられなくなりそうだ。




