話の続き⒖
私はホームルームをやり過ごして帰路についた。
「彼氏ねえ」と無意識に小さく呟いていたことに気がついて周囲を警戒する。挙動不審だ。せっかく、風も涼しいし、民家は夕日に照らされているし、干しっぱなしの洗濯物と夕日の組み合わせはどこか寂しいから、女子高生のくせに挙動不審で早足で歩く私はきっと浮いている。
それでも、将棋が楽しみで仕方ない。
駅では相変わらず私立小学校の生徒がはしゃいでいる。小学生にとって帰宅路は社会から切り離された世界なのだろう。小学生たちの歓声はどこか現実感がない。思い出の中の声みたいに。
ホームに電車が入ってくる。私はおりかけの階段を少し急ぎながら降りる。電車が完全に停止し、ドアがあく。小学生が乗り込む。うん、乗り込むって言葉がぴったりだ。私も急いで電車に乗る。電車に乗る直前、一番後ろの車両でドアを閉めるタイミングを伺っていた車掌さんと目があったような気がした。
最寄駅で降りて、私はおじいちゃんのおうちに向かう。コンビニでちっさな羊羹を買った。和室で洋菓子を食べるとどうなるのかと問われた武器商人はきっと答えに窮してしまうだろうから。
「ただいまー」
元気よく私は扉を開ける。靴を脱ぐのに苦戦していたらおじいちゃんがやってきた。
「おお、珍しい顔が見えたの。久しぶり」
「うん、久しぶり、急に将棋が指したくなっちゃって」
「ひー、高校で友達はおらんのか?」
大人っていうのは、ちょっと遊び相手になってもらおうと思っただけなのに、すぐに「友達は居ないのか」って聞いてくる。心配してくれているんだろうけど、そういう時「別にあなたの居ないところでも私はちゃんと生きてますよー」って言いたくなる。嫌味や皮肉なしに、そう言いたくなるのだ。
「うん、友達はまあ多くはないけど、いることはいる。でも、誰も将棋なんてしたがらないし」
「そうか、そうか。なんとなく、今週中にひーが来るような気がしておったよ」
私が手を洗うあいだに、おじいちゃんはお茶を入れてくれた。畳の上に将棋盤を置き、その上に駒をばらまく。
「土曜日、なんかよくわからないカップルが来なかった?」
将棋の駒を並べながら思うことじゃないけど、私は駆け引きが苦手なので、直球でそう聞く。
「やっぱりひーの仕業だったのか。可愛いカップルが来たよ」
「やっぱりバレてたか……それで?」
私は頭を掻きながら、香車を左下に配置して、そう聞く。
「入ってくるなり第一声がな、『ここって隠れ家的レストランって聞いたんですけど』だったから大変たまげた」
おじいちゃんは目を細めながら自分の駒を並べ終えて、私の歩を並べてくれる。
私が飛車を見つけるのに苦労してたせいで、歩の布陣が遅れたのだ。
「楠橋君らしい堂々とした第一声だね。それでどうしたの?」
「すぐにひーのイタズラだと分かったよ。双葉は最近まるっきり顔を出さんからなあ、こうやって何かと遊びに来てくれるのはひーだし」
「あはは、おイタが過ぎました。それで?」
私は王の位置をマス目のより中心に持っていきながらそう言う。
「隠れ家的レストランだと言われたらそういうふうに振舞うしかないじゃろう。
ちょうど、軽く正装をして会社のOB会に行ってきたところじゃったからな、ごまかしがきいたよ。わしが歩な」
ガラケーでアクセスしてくれる人が7人くらいいて、今も読んで貰えてるか分からないけれど、自分もガラケーなので、親近感がわきました。
ガラケー、最強ですよね




