話の続き14
衛門ちゃんのおしどり夫婦ぶりから、楠橋君と、戸澤さんのことが頭に浮かんだ。
楠橋君と戸澤さんはいつまでああしているだろう。いつまでもとは行かないかな。
でも、私はきっと戸澤さんは楠橋君の観音菩薩だと思う。観音菩薩というのは救いを求める人を救いやすいよう、女の姿になって現れることもある菩薩様で、もちろんその人が救われたなら帰ってしまう。
だから、菩薩様が帰ったとき、その人は救われているのだ。でも、その人は救われたとき、一番好きな女性を失ってしまうのだ。
私は本当に菩薩様がいるとかそういう話をしているんじゃない。だけど、どうせ人間関係には別れがあるんだから、自分の好きな人が自分と別れたとき、救われていてくれたらなと思う。だからって仏教教義を教えるわけにもいかないから、その人の苦しみに添えるような、そういう人になりたいのだ。
戸澤さんは、そういう女の子のような気がする。菩薩系女子。響きは無骨だけど、最もいい女性のことだ。戸澤さんは美人だし、ちょっと抜けているから、一緒にいて肩の力が抜けるだろう。楠橋君はもうちょっとしゃきっとしててもいいと思うけど。
私がこうして菩薩系女子いいなあ、私も菩薩系女子になりたいなぁと思ってる間にも、時計の針はどんどん進んで、古文の先生は清少納言の悪口も一通り言い終えて、藤原一族の争いの話もひと段落して、窓際の校庭を眺める女子生徒をからかって、残った時間来週読むページを読んで過ごすようにと言った。
私は先生はあんまりよく思わないだろうと思ったけれど、帰る準備をさっさと終わらせてチャイムを待った。
後ろの方の席で良かった。前ならきっと怒られてる。でも、菩薩系女子からは遠ざかったに違いない。菩薩系女子の第一条件はいい女であること。授業も終わらないうちから帰る準備を始めちゃうのはちょっと減点だ。
地蔵菩薩系女子ならまだ条件はクリアしているかもしれない。私、歩くの大好きだし。地蔵菩薩は世の中を歩きながら、困っている人を探すのだ。観音菩薩は、祈りに反応してその人を救いに行くから、地蔵菩薩の方が少し泥くさいのだ。ちぇっ、私はなれたとして泥くさいほうか。
チャイムが鳴って、古文の先生は立ち上がる。委員長が起立を促す。立って挨拶をして、席に着く。今日も一日無事に終わった。
さあ、おじいちゃんちにいって将棋を指すとしよう。それから、土曜日の高校生カップルが見知らぬ民家で食事をする事案についても探りを入れて、それから帰って勉強だ。明日から5日間バイトだから今日しかチャンスはない。
店長に続いて斉藤さんまでもが京都の魅力に魅せられて、思い立ったが吉日で、京都に泊まりに行くらしい。どうせ彼氏とに違いない。ちっくしょう、どいつもこいつもお相手を見つけやがって、そのしわ寄せでこっちは五連勤。お土産に高そうなわらび餅を約束してくれたから頑張らなきゃいけないんだけど。




