話の続き11
「行ってた高校って?」
「けー」
「けー?」
「K」
「あー、Kですか」
「そうK」
ローカルな話題で盛り上がれるのも嬉しかったし、DとかKとかそんな記号で何かを共有できることも嬉しかった。
「あ、そろそろ行かなきゃ。友達と待ち合わせがあるんです」
「そうだったのか。引き止めちゃって悪いね」
「いえ、楽しかったです」
私は残り少なくなったコーヒーを飲み干す。
「いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
「最後にひとつ。川原さんはどこの高校にいってるの?」
「Mです」
「あーMね。いってらっしゃい」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
最後はなんとなく店員としての発言で、私はドアを開けて、待ち合わせ場所に向
かった。
待ち合わせ場所にまで向かう時の、この何とも言えないほくほくした感じが心地よかった。土曜日の夕方の何も憂くことのない開放感はすごい。明日も日曜日で休みだという開放感。今のような少しづつ日が暮れていく時間帯は一瞬だけ世界が夜を纏ったと感じる瞬間があって、夜の空気たちが山奥の洞窟から少しずつ都会に押し寄せてくる。その最初のもっともせっかちな空気を感じることができる。バイトが終わったという爽快感もあったかもしれない。とにかく、土曜日の
夕方はおすすめだ。
駅前の花壇には誰かを待っている人がたくさんいた。私の友達の芙美と佳奈もそこにいた。
「あ、ひー来たよ」
佳奈はそう言って芙美をつっついた後、私に手を振る。私の下の名前は聖月だからよくみんなから「ひー」とか「ひーちゃん」とかって呼ばれる。
「ほんとだ。聖月ちゃんともあろうお方が5分も遅れるなんて」
芙美は芝居がかった言い方をする。芙美だけは私のことを「聖月ちゃん」と呼ぶ。
私は近づいていく。
「ごめん、ちょっと遅れた」
「いいけど、何してたの?ひー」
「バイト先で年上の男の人とコーヒー飲んでて」
私だけかもしれないけど、人にはきっと生きていることを実感させたいという欲望があって、よくこういう言い方をするのだ。こうやって、どこか不透明でちょっとだけ自慢めいた言い方をすると人は「あ、この人は私が見ていないところでも生きているんだな」と思うだろう。それがなんとなく心地いいのだ。
「イケメン?」
芙美がそう聞く。
「うーん、どうだろ。まあまあじゃない?」
「聖月ちゃん、ハードル高いからきっと相当イケメンだね」
「あーそれはある。いいなあイケメン」
どうやら私の男性を見る目は身分不相応に超えているらしい。贅沢な奴だ。自分
の目を自分で責める。
「じゃあ、スタバにでも入ろうか」
駅前にあるチェーンの喫茶店を指さして、佳奈が言った。私たちはそちらに向かう。




